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第50話:しがらみ

第五十話

 楽しげな声に友人たちと歩いている姿。久しぶりに夏祭りに来たなぁと感慨深げにため息をつく。

「うわー、お祭りだっ」

 まるで初めて見るかのような反応の雪についつい苦笑してしまう。

「もしかしてお祭り初めて来た………わけないよね」

「お祭りは初めてじゃないんだけどこんなに人が居るのをみるのは初めてなんだ」

「あー、なるほど」

 規模が小さかったんだろうなと思ったのだが雪女の里で行われていた祭りは当然ながら行事の一環。過去、里を作りだした者たちへの敬いを表すためのものなのだ。そこに華やかさなどはほとんどなく、厳粛に行われてそれが終わると雪女達は住居へ戻ってその日一日の外出は禁止される。

 雪が知らないだけでパソコンなどを持っている雪女達はネットサーフィンやネットゲームをしていつもと変わらぬ日常を楽しんでいたりする。

「さ、行こうか」

「うん」

「いろいろとまわりたいところだけど………人を待たせているからね。まずはそっちで用事を終わらせよう」

 有楽斎に手をひかれて人ごみを掻きわける。屋台がない大きな木の近くへと連れてこられるがそこにいたのは雪が知っている三人組の女子だった。いつもと違うところと言えばそれぞれ浴衣を着ているところだろうか。

「え」

「また会ったわね」

「雪ちゃん、こんばんは」

「………」

 脳内で形成されていた有楽斎との夏祭りを楽しむ計画がもろくも崩れ去っていくのを実感する。

「あの、有楽斎君これは一体………」

「みんなに無理言って集まってもらったんだ。理沙、御手洗先輩、榊さん………改めてだけど、雪の友達になってあげてください」

 有楽斎は三人に向かって深く頭を下げる。

「う、有楽斎君……私別に友達なんて………」

「あら、冷たいのね」

 花月が雪の腕に絡みついて微笑む。

「有楽斎君が居なくても私は雪ちゃんに会いに行っているもの」

「あれは…………」

 茶番劇が頭の中で再生されるが確かに、言葉だけをとるなら花月の言うとおりである。

「あなたの事は何も知らないけど、金づるが友達になってくれって言うからね。よろしく」

「こっちも同意見だよっ。うらちゃんに言われたなら聞いてあげるしかないからねっ。もともと興味はあったからさ」

「……はぁ………よろしく」

 ため息をつくなんて失礼極まりないのだが、誰も気にしていないようだった。ただ、恨めしそうに有楽斎のほうを睨むことにしたのだが、これもあまり興味が無かったようでしゃべり始める。

「ほら、雪ってあまり外に出ないからね。友達づきあいが苦手って意味かもしれないけど、実際に会って遊んでみたりするのも大切だと思うんだ。お節介かもしれないけど一緒に生活しているとそういったことが気になってさ」

「…………おせっかいだよ。でも、ありがと」

 外に出られない理由はたまに『霧生に遭遇する恐れがある』というものだったのだが、霧生もこれから先襲ってくると言う事もないと思われる。

 有楽斎が鬼と聞かされて危険な存在なのかという試行も、何度かの実験では危険な存在ではないと言う結論が出ている。

 霜村雪、もとい、雪女の雪はここに有楽斎の事を調査するためにやってきたのだ。調査が終われば野々村家にいる必要もない。帰ってまた静かな生活を続けるしかないのである。

「でもまぁ、いいか」

 里へ帰るお金なんて当然ながら持っていない。有楽斎に工面してもらうしか帰る方法が無いのだ…………歩いて帰るなら二、三日ぐらいでつく………というわけもなく、それなりの時間がかかるだろう。

「何ぼーっとしてるの、雪女さん」

「えっ………って、有楽斎君がいるのにやめてくださいよ」

「ふふ、あそこで馬鹿やっているわよ」

 榊姉妹に両脇を挟まれて一生懸命逃げようとしている姿が雪の瞳に映った。

「よかったわね、私みたいな常識人の友達になれて」

「…………え」

「私は雪女だろうと友達は歓迎するわ。さ、お祭りを楽しみましょう」

 花月に手をひかれて雪は歩き出す。

「あの、花月さん」

「ん、どうしたの」

「私はいつか元の土地に帰ると思います。でも、それまでは友達としてお願いします」

 有楽斎と同じく深く頭を下げた。

「………雪ちゃん、頭をあげてちょうだい」

 元の姿勢へと戻った雪の肩に手が置かれる。

「その土地とやらについて今度聞きに来るわ」

「…………」

 好奇心に見開かれた目が雪の事を捉えて離さなかった。

「二人とも―、置いて行くよー」

「あ、ほら、花月さんとりあえず行きましょう」

「………そうね。あの双子ばかりに両手の花をさせるわけにはいかないものね」

 その日はそれなりに暑かった日だった。だが、それでこそ夏というもので雪女の雪もたまには暑い日のほうがいいのかもしれないと感じていたのだった。

 次の日、信じられない天候になろうとは誰も想像していなかった。


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