第49話:少年の願い事
第四十九話
有楽斎は携帯電話を操作してとある番号をプッシュする。しばらく鳴り続けていたのだが、一向に出る気配がない。諦めずに待っていると何とか出てくれたようだ。
「あ、もしもし」
『………どうしたのよ、珍しいわね。教えたっきり一度も使わなかったのに。しかもしつこいしさ』
「お願いしたいことがあるんだ」
『何よ。さっさといいなさい。相応以上の値を払ってもらうけどね』
「うん、いくらだって払ってあげるよ」
『調子狂う……それで、金づるがそこまでする頼みごとって何』
有楽斎はただ簡潔に理沙へと頼みごとを告げるのだった。
『………はぁ、ちょっと信じられないんだけど』
「ごめん、ほとんど女子の知り合いって居ないから頼めなくってさ」
『はぁー……わかった、でも向こうが拒否したら知らないからね』
「うん、ありがとうっ」
『別にお礼なんて言わなくていいわよっ』
じゃあねと乱暴に切られる。
「さて、次は………っと」
これもまた、あまり使用した事のない番号だった。
ワン切りにでも対応しているのか知らないが、ボタンを押したと同時に相手が出てきて少し驚く。
『もしもし』
「早いですね」
『相手を待たせるのは失礼よ』
「それはまぁ、そうなんですが…」
だってボタンを押した瞬間に出るなんて人間業じゃありません…と言いたかったのだが、そんなことを話す為に電話をしたわけじゃない。
『それで、何か用事があったから連絡してくれたんでしょう』
「はい」
具体的に話さなくても花月には伝わるだろうと言う事で簡潔に話す。
『わかったわ。私は前々からそう言った関係だと思っていたけど……有楽斎君が頼んで構築するものでもないでしょう』
「そうなんですけど………繋がり合ったほうが出来やすいかなぁと思ったんです」
『有楽斎君なりに気を使っているのね。楽しみにしているわよ』
花月との連絡を終えて最後の一人となる。
「つかみづらい性格だからなぁ………」
お願いするのは気が引けるのだが、ここで電話しなかったとなると後で姉から聞いて怒るだろう。
「するしか……ないよね」
誰が効いていると言うわけでもないのに独り言をつぶやいて番号を押す。理沙と花月の電話に出るまでの時間を足して二で割ったような時に出てくれた。
『…………もしもし』
「あ、えーっと………」
かなり暗めな感じであるが、どこか嬉しさのにじませる声だった。
「もしかして眼鏡かけてるかな」
『………うん』
しまったなぁ、どうしたらいいんだろうかと思いつつも回りくどく説明するよりはっきり説明したほうがいいだろうと考える。
「あのさ、お願い事があるんだ」
『お願い事………って何』
よくわからないが罪悪感が胸を痛める。しかし、当初の予定がぶれるような人間ではいけないと里香にお願い事を伝えることに成功した。
「どう………かな」
『うん、いいよ。でもね、よく覚えていてほしいんだ』
「え」
『これは有楽斎君のお願い事だから聞くんだよ………本当だったら嫌って答えてるから』
なんだか傷つけちゃいけないものを無理して傷つけたいやーな感じがしてならなかった。
『でも、有楽斎君が頼んでくれなかったら絶対にそんなことにはならなかったよ。だから、ありがとう。前から興味あったから………私、待ってるからね』
「う、うん」
結果的にはよかったようだとほっと胸をなでおろした。
「さて、後は主賓を待つだけかな」
数分後、野々村家に元気な声が響き渡った。
「ただいまーっ」
「おかえり」
一目散に有楽斎の元までやってきて買ってきたものを見せる。
「ねぇ、本当にこんなのまでお金出してもらってよかったのかな」
「うん、構わないよ。着物じゃさすがにお祭りに行けないだろうからね。それなら浴衣のほうが似合うと思うよ」
「そっか、ありがと」
へへへと笑う雪に有楽斎は切りだした。
「夏祭りで雪に会わせたい人たちがいるんだ」
「え」
雪の脳内で瞬時に誰か予想して何故だか『有楽斎の父親と母親』が出てくる。
「息子の事をよろしく頼む」
「悪い子ではないから雪さん、お願いしますね」
いずれは居候の身じゃなくて野々村家に………なーんて考えたりもしたが有楽斎ではありないだろう。
「雪も多分知っている人たちだから安心してよ」
「う、うん」
一体、何が始まるのだろうかと雪は水玉模様の浴衣を抱きしめていろいろと想像するのだった。