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第47話:少女は信じた

第四十七話

 鬼塚霧生から有楽斎には鬼の要素があると聞かされるも、いまいち納得出来なかった。嘘はついていないのだろう。しかし、この目で実際に確かめてみるまではそのことを信じたくなかったというのもある。

 朝からずっとみていたのだが、これまでと同じように鬼の気を感じることなんてなかったし、いつも通りでおもしろくもなんともなかった。普段と違う事と言えば汗をかいたらしく既にお風呂上がりということぐらいだろうか。

「……朝からじろじろ見てどうしたの……」

 有楽斎からしてみれば雪は実に不可解な行動をし始めているのだ。昨日、つまりは火曜日、霧生から『日本を一週間ほどはなれます』という連絡を受けたのだがそれから雪の視線を感じはじめた。何か霧生が吹きこんだのだろうかと考えるが、霧生は変なことを雪に言ったりしないだろうと頭から否定する。

「ううん、別に何でもないよ」

 有楽斎は鬼って言う割には抜けていると言うか、のほほーんとしている面だ。感情の起伏が激しい人間というわけでもなく、また、明るくて社交的という性格をしているわけでもない………誰かを恨んで藁人形を叩いてますと言った顔も見たことがない。

 そもそも、怒ったところなんてみたことないから有楽斎から角が生えている姿しか想像できなかった。もちろん、それは雪の中での鬼のイメージの為だ。憤怒の表情が一番鬼に似合うと考えている。

「うーん………似合わないなぁ」

「え」

「有楽斎君、怒った表情してみてよ」

「怒った表情って………」

 困った表情や諦めたような表情はよく見かけるのだが怒った表情はみたことがない。もしかしたら怒ったら泣く子も黙るような感じになるのではないかと思って頼んでみたのだ。

「こう………かな」

 眉根を寄せてじっと雪を睨むようにしてみる……有楽斎としては実に頑張っているのだが変な顔にしか見えない雪は笑っていた。

「駄目、似合わないっ」

「ええっ、何それっ」

 そんなに面白い顔をしていたのだろうかと食器棚のガラスに顔を映してみたのだが別に見慣れている顔があるだけだ。これと言って面白くはなかった。

「今度は頭の上に指で角を立ててみてよ」

「角………ねぇ」

 季節違いの節分でもやらされるのだろうかと思いつつも、雪の言ったことを実際にやってみた。

「こうかな」

「うーん………」

 鬼の角なんてみたことないからわからないのだが、Vの字に伸ばした有楽斎の角は……角というより悲しいかな、触角に見えてしまう。

「働きアリに見えるよ」

「それって褒めてるのかな」

「褒めてないけどけなしているわけでもないから安心してよ」

「………」

 有楽斎が鬼だったとしてもそれなら全く怖くなさそうだととりあえず安心することが出来た。

「そうだよね、有楽斎君は有楽斎君だよ」

「え」

 実に意味深な言葉をもらった為に何かしでかしたのだろうかと不安になるのだが雪は優しそうに笑っているだけだった。

「あの、何の事かな」

「ううん、気にしないで。あ、そうだ……いつもお世話になっているから肩をもんであげるよ」

「いや、別に肩がこっているわけじゃないからいいって」

 それなりに大きな声で騒いでいたのだが野々村家には二人しかいない。それに、お隣に聞こえていると言うわけでもないだろう。

 まじまじと眺めたところで有楽斎は変わらない、そしてこれからも変わらないだろうと改めて確認することが出来たのだった。



―――――――



「うーん………」

「うんうん、ちゃんと寝てるね」

 眠っている有楽斎の部屋に雪は忍び込む。もちろん、起こさないように最善の注意を払って忍び込んだ。自分の枕までしっかりと持参してきている。

「ちょっと怖いけど………怖いけど、有楽斎君が全くの無害って言うならきっともう調査なんてする必要もないよね」

 鬼塚霧生は野々村家を出るときに雪に言ったのだ。

『どう考えても雪女の長老さんは坊ちゃんの危険性を考慮してお前に身辺調査をさせていたんだろ』

『え、な、何の事』

『とぼけても無駄だ……ともかく、坊ちゃんも雪女とは無関係……とは言い切れないからな。雪女に変な火の粉でも降りかかったら払うのが面倒だ。長老さんが危険だと判断したら坊ちゃんに何をするかわからん』

 身体を張って試してみる価値はあるだろう。

「隣で寝ていれば有楽斎君は私の力を勝手に吸い取って……鬼に、なるんだよね」

 誰に聞くわけでもなく、雪は問いかける。もちろん、誰も答えてはくれなかった。

「もし、もしも、有楽斎君が危ない人って思われても私は君の隣にいるから安心してよ。里にいるみんなをいつかは説得して見せるから」

 有楽斎の枕の隣に自分の枕を置き、頭をのせる。少しの間だけ眠れなかったが、有楽斎の手を握ると不思議に眠ることが出来た。



 明日の朝、全てに決着がつくと雪は信じて疑わなかった。


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