第45話:狂う歯車
第四十五話
地球温暖化の影響なのか、以前からそうだったのか定かではないが幼少の頃は目が覚めても暑いと思わなかった気がしないでもない。
暑さで目を覚ました有楽斎はお茶を飲む為に廊下に出るが、廊下で倒れている雪を発見する。
「え、ゆ、雪っ」
完全に覚醒してあわてて雪を抱き起す。熱中症だろうかと考えて身体を冷やしたほうがいいと思ったのだが………廊下はそんなに暑くなかった。どちらかというと寒い。雪の身体もひんやりしていたりする。
「んー………よく寝た………って、あれ」
自分の肩を抱いている有楽斎を見て目をぱちくりさせる。
「何してるの」
「それはこっちのセリフだよ………なんでこんなところで寝てるのさ」
「え、ほら、床って冷たいじゃん」
「………」
道理である。布団よりも床のほうが冷たいが………それにしてもこの冷たさは異常なんじゃないだろうか。
「ねぇ、クーラーとかつけたかな」
「ううん、つけてないよ」
雪の部屋に入ったことはあまりないし、最近は入っていない。冷房が部屋にあるわけでもないのだが涼しい。
「………」
壁、そして蔵から脚立を持ってきて天井も触ってみるとやはり同程度冷たかった。
「変だな」
「ねー、朝ごはん冷めちゃうよ~」
「うん、わかってるっ」
脚立を元の場所に戻してから雪の元へとやってくる。
「何してたの」
「ん、いや……床とか壁とかが冷たくてね。冷房なんて誰も使ってないし、なんでこんなに冷えているんだろうって考えていたんだよ」
「………へぇ」
内心ひやひやしながらどうやって話をそらそうかと考える。雪女という事がばれても構わないかな、と思いつつも、まだ様子を見ておきたかった。
「あ、あ、学校遅れたりしないのかな。ほら、もういつもは家を出ている時間だよっ」
「今日から夏休みだよ。言わなかったっけ」
「そ、そうだったね」
何か話をそらすいい案は無いだろうかと考えるが、一向に浮かんできたりはしなかった。
『助けて、天使さんっ。これから雪はいい子にして暮らします』
昨日テレビであったセリフを心の中で言ってみる。妖怪が天使に助けを求めるのもどうかと思ったのだが………当然ながら天使は助けに来なかった。
天使は助けに来なかったが同じ妖怪が助けに来てくれた。
「おはようございます、坊ちゃん」
「あれ、霧生さん来てたんですか」
「ええ。坊ちゃんが寝た後に尋ねて来たんですがちょうどそちらの雪さんが中に入れてくれたんですよ。昨日は暑かったものですから勝手に冷房をつけっぱなしにしてしまっていたようで朝起きたら震えてましたよ。すみません、坊ちゃん」
「何だ、鬼塚さんだったんだ」
まさかの助け船だったが、実際に助かった。
―――――――
「鬼がどういう風の吹きまわしよ」
「こっちもいろいろとあるんだ………何度かぶつかりあってわかったことだがお前は悪い雪女じゃなさそうだな」
「それはそうよ。だって悪い雪女じゃないもの」
「話がややこしくなるから面倒だが盗聴、盗撮、追跡等やってきておいて悪い雪女じゃないと言い切れるんだろうかとも思うが一旦それは目をつぶる」
鬼とか雪女だとかそういった単語が出ているときに有楽斎がいるわけがない。有楽斎は友人たちと一緒に何処かに出かけている。
「本題に入るがこれから一週間俺は海外に行く。だから坊ちゃんの事をしっかり見ていてほしい」
「それはまぁ、仕事みたいなものだからもちろん構わないわ」
「すまんな………それで、だ。雪女ではなく、霜村雪個人に坊ちゃんの秘密を教えてやる。いずれ知ることになるだろうからな」
「有楽斎君の………秘密」
この秘密を聞いて長老に情報を送れば自分は里に帰ることが出来るんじゃないかと考えた。