第44話:蛇足『花月』
第四十四話
結局、花月とのデートは予定していた時間の半分程度で終わって日はそこまで落ちていないがお開きということになった。肩を露出している服装をしているところをみると日焼け対策はきっちりしてきているのだろう………『御手洗先輩って肌が白いんですね』といったお世辞を言うのも忘れていた。
徒歩で来たのだから当然ながら徒歩で帰らざるおえない。夕焼けになりつつある太陽をみながら長い一日だったと振り返る。
「退屈はしなかったかしら」
「はい。退屈なんてしている暇がありませんでした」
夏だからホラーを見ましょうと友人、そして雪と一緒に見たあの映画。雪みたいにびっくりしたりおびえたりするんだろうかと思ったのだが無表情で最後まで通したりする。
映画の感想を尋ねてみるも、『どうでもいいシーンのわかり辛いところに人の横顔、手を映してもあまり気がつかないわ』と言ったよくわからないことしか言わなかった。
「退屈していないのならよかったわ」
「あの、御手洗先輩………ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
デート中も聞こうかどうか悩んでいたのだが場違いだろうと控えていた質問である。
「なんで素直にお母さんに謝ったんですか。その割には謝る時あまり心がこもっていないように見えたんですけど」
「最初から邪魔されたから早く楽しみたかっただけよ。今日ももう少し時間があればいろいろと回るつもりだったから残念だわ」
「そうなんですか」
「そうよ。野々村君がいろいろと考えていたかもしれないけど私の方でも計画はしていたわ。誘ったのはこっちだから………ちょっと来て」
遊具が二つしかない公園に引っ張られ、錆びの来ているベンチに座らされた。いまだ日中の熱を帯びており、じんわりと汗がにじんでくる。
花月になんで誘われたのか知らないが、他に人はおらず静かだった。はるかかなたで車のエンジン音がなっている気がする。
「野々村君を誘ったのもこんな夕日の時だったわね」
「そうでしたっけ」
半年程度しか経っていないはずなのにきれいに思いだすことが出来ない。どちらかというとこき使われてきた日々が脳裏をよぎる。きっと出会いはあまり記憶に残るほどインパクトがなかったんだろうなと考える。
それがよかったのか、それともただ単に葬り去りたいだけの記憶なのかは定かではない。
「あの時はびっくりしたわ。ほいほいついてくるんだもの」
「そりゃまぁ、上級生に呼ばれたらついて行くに決まってますって」
確かに上級生が呼んでいるのだから何だろうと考えるだろう。
「私としては実に有望な部員を手に入れて嬉しい気分だったわ」
「有望だろうと無能だろうとあんまり活動していないなら意味がないと思いますけど」
「この前活動したわ。野々村君が無能じゃないと証明されたも同然ね」
よしよしと頭を撫でられてむっとするも花月はいつもの調子だった………いや、そう見えただけかもしれない。
「え」
気がつけば首に手をまわされて抱き寄せられている。花月の顔は自分の頭の後ろにある為に確認できない。
「あの、どうしたんですか」
「鈍いわね………」
心底あきれ返ったと言わんばかりのため息である。
「いいわ。野々村君、一度しか言わないからよく聞いてちょうだい………私の隣はあなた専用。でも、あなたが座りたくなければそれでいいけど座りたくなったら私が在校中にちゃんと宣言してね…………それまで空いているから」
「え、あの………」
さっぱり意味がわかりませんとはさすがに言えなかった。
「私の気持ちは伝えたから。じゃあね」
「あ、御手洗先輩………」
ほんの少しだけ抱きしめられただけなのに汗で衣服が濡れていた。遠くで種類はわからないがとりあえず蝉が鳴いているのだけが聞こえる。