第43話:あっけない幕引き
第四十三話
今日では携帯電話等があるのでそれで告白したりする人が世の中に入る。以前は下足箱の中に手紙を忍び込ませたりして、伝説の木の下で告白などを行っていたらしい。
本当は十人の不良生徒に囲まれた一人の優男が勇気を出して立ち向かったところこれを撃退、勇気の木と呼ばれていたのだが、勇気を出すと言う事で告白の場所として使われるようになったそうだ。
「ふぅ………」
果たして自分に花月を説得するだけの勇気があるのだろうかと考えた。まぁ、気休め程度で此処までやってきたのだが勇気以前に崖っぷち状態である。やらねば報いを受けるのである。
この崖っぷちがすでに崖から落ちて手で踏ん張っているのか、まだ落ちていない状態なのかは定かではないがどっちもどっちに思えた。
ともかく、人に嘘をつくことはいけないことだと説得して花月の母親に謝らせればボーダーラインというところだろう。
花月がこの場所にいつやってくるかはわからないが、来たときに焦らずしっかりと伝えるべきだろうと内容をまとめることにした。
「御手洗先輩、やっぱり嘘はよくないですよ。先輩のお母さんに謝りに行きましょう………って、そんな素直に行くわけないからなぁ」
想像の中での花月は当然ながらそれをよしとはしなかった。
「嫌よ」
「お願いですよ」
「お願いしたって駄目なものは駄目。今日一日は私の彼氏という役をやってもらわないと困るわね。なんで私の母親と会って話したのなら私の事を擁護してくれなかったのかしら」
正直な話、花月を怒らせると何が起こるか分からない。どのように対処したらいいものかとあれこれ試してみるが想像の中ではどれもこれもがいまいちだったようで有楽斎のため息が増えるだけだった。
諦めちゃうか……その選択肢が出てくるが、諦めることなんてすぐにできる。とりあえず駄目もとで説得することにした。
「お待たせ」
「御手洗先輩………」
校舎の陰から花月が姿を現したので頭を切り替える。
「あの、御手洗先輩……先輩のお母さんには全部ばれてます。だから、僕と一緒に謝りに行きましょう。謝ってくれれば許してくれるようです」
嫌ですよね、そうですよね、御手洗先輩が素直に謝るなんて考えたりしていないですから大丈夫ですよ………
「わかったわ」
「え」
「早く謝りに行きましょう」
手を握られて引っ張られる。
「え、あの」
おかしい………なんでだろう、なんで先輩は素直に謝るなんて言うのだろう。
有楽斎にはさっぱりわからなかったがその気になってくれたのでほっとした。これで『報い』とやらを受けなくてすむ。
―――――――――
「私は嘘をついていました。ごめんなさい」
無表情の上に感情がこもっていない感じだったが、言葉上では謝罪している。
「わかればいいわ」
改めて二人を見比べると実にそっくりであった。
「用はもうないわね」
「ええ」
「野々村君、デートを再開するわよ」
「え、はぁ………」
「ちょっと待っておきなさい。そっちの有楽斎君に話があるわ」
腕を掴まれて部屋を出ようとしたのだが、有楽斎だけ呼び止められる。
「何」
「花月は外で待っていなさい。女子とデートするときの秘訣を教えておくから」
「…………」
じろっと母親を睨んだようだが一人だけ玄関の方へと向かっていく。
「さて、説得できたようで何よりだわ」
「………びっくりするほど素直に聞いてくれました」
そう言うと笑われる。
「あんな感情のこもっていない上っ面だけの謝罪じゃ意味がないけど謝ってくれただけでも成果よ。あの子にとってあなたとのデートは頭を下げるだけの価値があるのよ」
「そうですかね」
「そうよ、あの子が困っている時だけでいいからあの子を助けてあげて」
「………わかりました」
「話はこれで全部。さ、女の子を待たせるといけないわ。早く行ってあげて頂戴」
「はぁ」
有楽斎は頬を掻きながら、外で待っているであろう花月の元へと急ぐのであった。きっとあの人なりの応援だったんだろうと納得しておく。直球ストレートで『楽しんできなさい』と言ってくれれば少しは別のことで頭を使えたに違いない。




