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第42話:話し手

第四十二話

 御手洗花月が野々村家に向かっている途中で有楽斎は一つの民家にやってきた。

「私とあの子の家よ。招待するわ」

「はぁ、ありがとうございます」

 車から降ろされ、筋骨隆々とした人たちが撤収。残されたのは有楽斎と花月の母の二人だけであった。

「さ、お上がりなさい」

「お邪魔します」

 内部はいたって普通の家で、家具などはあまりない。

「突っ立ってないでいいからそこの椅子に腰かけて」

「はぁ………」

 熱いコーヒーが目の前に置かれ、そっと口を付けてみたのだが熱すぎて飲める代物ではなかった。

 隣に置かれていた最中っぽいお菓子を手に取るとぼろぼろと崩れてしまう。

「………あの、もしかしてあまり歓迎されてませんか」

「いえ」

 首を振られて少しだけ希望を持たせてくれたのだが、考えが甘かった。

「全然歓迎していないもの」

「でも招待してくれるって……」

「人質としてね」

 あっさり答えられて肩を落とすも有楽斎は首をかしげる。

「あの、なんで歓迎されていないんですかね」

「簡単なこと。花月とあなたは私の事を騙そうとしているからよ。友達なら間違っている事を正そうとしないと駄目よ」

 正論である。悪い事をしている友達を見かけたらそれを注意するのが真の友達というのはわかる気がする。

 しかし、有楽斎からしてみれば花月は部長であって基本的に部活では部長の言う事は聞くものである。

「野々村有楽斎君だったわね。あなたは花月の友達、もしくは友達でいたいと思っているのかしら。それが真実なら『はい』、違うなら『いいえ』と答えなさい」

「僕は………」

「そう、友達ね」

「あの、まだ何も言ってないんですけど」

 有楽斎なりにいろいろと頭の中で整理して、決着を付けた。そういった工程を完全に無視されて、強制的に話が進むとは思いもしなかったりする。

「言ってなくてもわかるわ。そもそも、あの子の事を信じていなければ関わり合いになっていないはずだもの」

「信じるとか信じないとかは関係ないと思いますよ」

「やっぱりあなたが適役ね。あの子のやっている事は間違っているって説得してきて頂戴」

 駄目だ、言葉は通じているんだが話は通じていない………きっと頭の中では独自の理論が構築されてそれが答えを生み出しているのだろう。

 もう何か相手に言うのが面倒になってきた有楽斎はさっさと折れることにする。白旗を上げておけば相手も攻撃してこないだろう。

「わかりました」

「間違っていると言う事を認めさせて、私に『嘘をついてごめんなさい』と謝らせなければそれ相応の報いを受けてもらうからがんばってきてね」

 報いなんて現代人が使ったのを初めてみたよ…有楽斎の口からため息がこぼれる。

「まぁ、確かに他人に嘘をついたりするのは悪い事ですからね。頑張りますよ」

想像を絶するような報いとやらを受けるのは嫌だったので大人しく従うことにしたのだった。



――――――――



 野々村家についた花月はチャイムを押して返答を待つ。家の引き戸が開かれると音がして、外門が開かれる。

「………何の用ですか」

 雪が姿を現したのだが実に嫌そうな顔をしている。誰しも、弱みを握られている相手がいきなり尋ねてきたら嫌な顔一つぐらいするだろう。

「有楽斎君が誘拐されたわ」

「え…………」

 目が見開かれていったのだが、今度は口が妙に吊り上っていく。

「いやー、それは無いと思いますけどねぇ。だって有楽斎君には私の代わりのボディーガード的な存在がいますから」

 まぁ、それが誰かは教えないし、教えたところで知らないでしょうからねぇーと言っている雪だったが珍しく焦っている様子の花月は最後まで聞いていなかった。

「………私の母と、野々村君の両親が結託しているそうよ。だから鬼塚霧生はノータッチ」

 嘘………という顔をするが、まだ雪は冷静だった。

「………逆に考えると両家公認なら有楽斎君に危険が及ぶことなんてないと思いますよ」

「今日は野々村君とのデートだったのよ。それを邪魔されてこのまま終わるわけないでしょ」

「え………って、デートってどういう事ですか」

「詳しい説明は後でしてあげるわ。あなたのことだから発信機ぐらい有楽斎君につけているでしょ。彼の居場所を教えて」

「うぐ………」

 鋭い、実に鋭い………有楽斎の靴には発信機が埋め込まれており(もちろん、資金は何も知らない有楽斎が提供)、スイッチ一つで世界全国どこにいるのかわかるのである。

「ごねてどこにいるのか教えないって言ったら野々村君にあなたが雪女だってばらしてあげるわ」

 これで決まりだろうと花月は踏んでいたのだろうが、雪は屈しなかった。

「だ、大丈夫ですもん。きっと有楽斎君は私が雪女だったとしてもこれまでと同じように接してくれるはずですっ」

「………そうね、彼は優しいからそうかもしれないけど………」

 雪の鼻っ面に人差し指を突き付けて花月は言った。

「さすがに自分の事をモニタリングしているストーカーは許してくれないと思うわよ」

「うぐ………」

「さぁ、素直に居場所を教えてくれれば黙っておいてあげるわ」

「それは………出来ません。これ以上罪を重ねるとばれたときに有楽斎君にもっと嫌われちゃうから嫌です」

「強情ね………」

 にらみ合いが続けられていたのだが、花月が何かに気がついたようで携帯電話を取り出した。

「………野々村君からだ」

 メールのようで花月は早速確認してみる。

「『伝説の木の下で待ってます』………だってさ。今度は野々村君がいるときに来るわ」

 これはどういうことなのだろうか………雪は考えるが当然ながら答えは出ない。何かの策略だろう、大丈夫、有楽斎はデートを知らないような初心だったから伝説の木の下とかそういった告白チックなことは絶対にしないはずである。

「じゃあね、雪女さん」

 偉く勘に触る言い方だったのだが、雪は有楽斎の事を信じることにした。

「信じてるからね、有楽斎君」

 野々村家屋根の上では霧生が一人立っている。

「………信じる者はすくわれる、か。足元を掬われなければいいけどな」

 そういって首をすくめたところに雪玉が直撃したのだった。


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