第40話:知る必要のないもの
第四十話
期末テストもようやく終わり、高校一年生の生徒たちには初めての夏休みが近づいていた。
しかし、ただ喜んでいる人たちとは違って実にがっかりしている人もいたりする。
「はぁ……………………」
「何、いきなりためいきなんてついてさ」
有楽斎は友達でいる源友人を見て首をかしげる。
「はぁ………………」
「わざわざ僕のところまで来てため息つくんなら早くため息のわけを話してよ」
「あれ、そんなに俺の残念な話を聞きたいのか」
「いや、そういうわけじゃないけど………」
「そうだろうそうだろう、そこまでして俺の残念な話を聞きたいんだな。じゃあ話してやるよ」
「うんうん、手短にね」
「おう、任せておけよ。俺の文章をまとめる能力はそこそこだぜ」
友人がそこまで話したところで教室の扉が開いて双子の姉の理沙が現れる。
「金づる、ちょっと来てよ」
「え、あ、ちょっと待って………友人、簡潔にまとめて一言で頼むよ」
理沙と有楽斎を交互に見て友人は一言。
「お前みたいなやつに俺の気持ちがわかるはずがないっ」
そういって走り去ってしまった。
「何だったんだろ」
「さぁね。私が知るわけないでしょ………さ、行くわよ」
腕を掴まれたまま引っ張られる。このまま連れて行かれたらどこにたどりつくのだろうかと考えてみるも、特にこれと言った答えは出なかった。
わからないことは調べてみて、調べてもなお答えが出ない、もしくは調べられないのなら知っている人に聞いてみると一番いいだろう。
「どこに連れてくの」
「旧校舎」
なるほど、どこに連れて行かれるのかはわかったのだが、理由がわからない。
「なんで」
「この前のリベンジよ。もう本当はあんたのことなんてどうでもいいんだけど旧校舎でいろいろと里香に話したんだけどいまいち信じてもらえてないからね」
話したらなんだか怒って蹴られたと付け加える。
「ともかく、友達にお願いしたりして怪我とかさせたら嫌だし、前回の事もあったから金づるを連れてきたの」
「ふーん、まぁ、いいけど………一応、前回は御手洗先輩もいたよ」
「変人はお断りよ」
右手で空を払って扉を掴む。有楽斎から言わせて見ればこんな廃れた旧校舎にリベンジとか言ってやってくる理沙も十分変人である。そこまで引き付けられる何かを感じるわけでもないし、からかっていると言うわけではなさそうである。
「さ、行くわよ」
「………はぁ、わかったよ」
ここまで連れてこられたのだからついて行かないと後でまたうるさいのだろう。なんだかんだでそれなりに付き合いはあるし、一人で行かせて後で怪我でもされたら面倒である。
「それで、何すれば帰る気になるの」
「屋上まで行って、戻ってくるの。この前は屋上まで行かなかったでしょ」
「屋上って………旧校舎の屋上に行く事って出来るのかな」
「大丈夫よ、いけるって噂だから」
どこから仕入れた噂かわからないが、本人が満足するまで付き合ってあげないといけないだろう。もちろん、それが屋上に行ってた後にカメラを忘れた、取りに戻るわよと言われても仕方のないことである。
「忘れ物はないよね」
「当然よ。金づるもちゃんと連れてきたし他には何もいらないでしょ」
カメラはいらないのか、というか僕だけ連れてくればいいと言う考えなのか………後に何か起こるかもしれないと思いつつ、有楽斎は覚悟を決めるのであった。
――――――――
結論から言わせてもらうならば、いたって普通の旧校舎であった。扉が閉まって脱出不可能になることもなければ使用されていない生物室から何かが出てくるわけでもない、音楽室からピアノの音色が聞こえてくるわけなんてなく(ピアノすら置かれてない)、美術室もいたってきれいだった。
どこから仕入れてきたかどうかわからない噂だったが、それだけは本当だったようで屋上から二人で運動場を眺める。
「何も起こらなくてよかったよ」
「何よそれ」
「怪我とかしたら大変だよ」
「それは……まぁ、そうだけど」
「じゃ、帰ろうか」
「…………そうね」
何もなくて残念だった、その顔を見てため息がつい出てしまう有楽斎。しかし、理沙が気がつくこともなく階段を下りはじめたところで首をかしげた。
「………壁がえぐれてる………なんだろ」
ふと見た壁がえぐれていたり、床が不自然に壊れていたりした。これを理沙に話したら面倒だったので黙っておくことにするのだった。
彼のよく知る人物が関係しているとは思いもしなかった。