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第36話:予習

第三十六話

 期末テスト三日目の夕方。今週の日曜日に彼氏役ということでデートをするという約束を取り付けた有楽斎は家に帰って悩んでいた。

 デートについて調べてみたのだが、いや、正確には調べる必要もないだろう。ただ、なんとなく、具体的にはわからないのだがどういうものかは知っている。逢引というやつだろう。

「うーん」

「ただいまー」

「おかえり」

 買い物をして帰ってきた雪はテーブルの上に買ってきたものを並べ……有楽斎の目の前で手を止めた。

「あれ、顔色が優れないけど……もしかして寝不足だったりするかな」

「ううん、そうじゃなくてちょっと悩み事」

「力になれるならなるからどう言ったことで悩んでるの」

 こういうときって相談できる相手がいると嬉しいなぁと思いつつ有楽斎は口を開く。

「今度ちょっとデート…みたいなことをするんだ」

「え」

「でもさ、僕ってデートしたことないからよくわからないんだよね。男友達に聞こうにもデートしたことなさそうな連中ばかりだからいまいちわからなくて……」

「…………」

「あれ、なんだか怒って………」

 雪の眉毛は急角度になっており、二つの目は有楽斎を睨んでいた。しかし、一瞬だけ変な顔をすると同時に優しそうな、どこか嬉しそうな顔へと変貌を遂げる。実は雪がものすごい腹黒娘だったなら内心馬鹿にしている事だろうが、まだ一緒に生活して一年もたっていない。内面も大切だが、外面も気にしておいた方がいいだろう。

「………有楽斎君はデート初心者でよくわからないってことだね」

「うん」

 自信満々に胸を叩いた雪を見て有楽斎はほっと溜息をついた。

「よかった、雪は経験あるんだね」

「ないよ」

「え」

「ないからこそ、手さぐりしながらデートについて勉強するんだよ」

「そうかなぁ、こういうのって経験したことある人に聞いたりした方が………」

「甘い、有楽斎君は甘いよっ」

 拳を握りしめて雪は声高らかに告げるのだった。

「経験者なんかと一緒にデートの下見なんて言ったらバカにされて終わりなんだからっ。アホを見るような目でこっちを見てくるし、間違った知識を大量に吹き込まれて本番のデートを失敗するに違いないっ」

「…………そうかなぁ」

「そうだよっ」

 テーブルを両手で叩きつけ、有楽斎の顔に迫って続ける。

「だから明日の放課後、私とデートについて勉強しようっ」

「………わかった。雪が言うならそうだろうからね。いつも有楽斎君にはお世話になっているから返せそうな時に返しておかないと後で請求されそうだもん」

 ちなみに、雪の身の回りの生活資金は全て有楽斎個人のお金である。美容室代も、服の代金も、おやつ代、朝と昼と夜の三食、一カ月のお小遣い………もしも、有楽斎君に見放されたら私ってば一人じゃ生活できないかもしれないなぁと最近思い始めていたころであった。

「日ごろのお礼も兼ねて、一生懸命『彼女』やらせてもらいますっ」

 当然有楽斎には雪の考えていることなんてさっぱりわからないのでただ単純に助けてくれる行為を嬉しく思っていたりする。

「あははは………まぁ、雪に相談してよかったよ」

 よかったのだろうか、これで本当によかったのだろうか………あなたの選択したことは後に後悔しないものなのだろうか。一度立ち止まって考えてみよう。貴方が勇気を出して『ノー』または『イエス』と答えるだけであなたの歩いている道はほんのちょっとだけ変わるのである。再び同じ道をたどることはない。

 あなたは本当に後悔していない選択をしたのだろうか………まぁ、実際のところ、答えは単純明快である。そう、『わからない』。

 積み上げてきた実績とそれに対する対応。自分の知識や周囲の思惑、信頼などである程度は予想できるかもしれないが有楽斎にそんなことが出来るわけもない。

「じゃ、今日のうちに予定を決めておこうよ」

 後悔するような選択肢をしてもとりあえず雪の笑顔が見ることが出来ただけでよかったとしよう、目先の事を考えたわけではないが有楽斎は頭を切り替えることにしたのだった。

「映画見て、お昼食べて………って、明日もテストだからね。放課後のちょっとの時間しか練習は出来ないよ」

「そうだったね。時間がないか………あ、じゃあ明日は外食すればいいんだよ」

 もちろん、雪がお金を払うわけではない。

「ああ、そうだね」

 きっと教師が聞いたら学期末テスト最終日を舐めているだろうと思って教育的指導を行うに違いない。いや、他の生徒がこれを知ったら血走った眼で有楽斎を追いかける可能性がある。



―――――――――



「坊ちゃんが甲斐性なしになるとは思えないが……しかし、御手洗花月、あの雪女とデートしているところを榊里香が見たらどう思うだろうな」

 何か策を練っておいた方がいいだろうなと霧生はそう考えて姿を消すのであった。


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