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第32話:虚像の先輩

第三十二話

 榊理沙と会うことなく、自分が所属している『新聞部』の部室までやってくることが出来た。頭上で輝いている太陽がまぶしくて、挙句の果てに暑かった。

「はぁ」

 花月が何かを隠しているのは間違いないだろう。何を隠しているのは定かではないが面倒なことに巻き込まれたものだなぁともうひとつため息が出てきた。

「期末テスト二日目でお疲れのようね」

「………そういうわけじゃないですよ」

 部室の扉が開いて花月が姿を現す。目は笑っていなかったが口元はまるで女神のほほ笑みのようだったりする。

 ついつい、『御手洗部長、目が笑っていませんよ』と口を滑らせそうになったがなんとか思いとどまる。

「御手洗部長……何か嬉しいことでもあったんですか」

「あら、どうしてそう思うのかしら」

「微笑んでいるからですよ」

「好きな人に出会えれば誰だってほほ笑むわ」

 そうなんですか、でも目は笑っていませんよ………と言おうとして有楽斎はあたりを見渡した。そして、部室の外に広がっている平坦な土地の一番端に坊主頭の球拾いを一人見つける。

「御手洗部長ってあんな人がタイプなんですか」

「いつものようにぼけてくれて安心したわ。私とあなたは彼女と彼氏という関係でしょう」

 何を馬鹿なことを………と、言おうとして背筋が凍るような視線を感じる。もちろん、その視線の先には花月がいる。

「………そ、そうでしたね。僕と御手洗先輩は彼氏と彼女でしたね」

「さ、早く部室に入りなさい。そこにいると風邪をひくわ」

 七月中旬、当然ながら暑かった。外にいても風はひかないだろう、熱射病にはなるかもしれないが。

 部室に入ると冷房が機能しており、涼しいものだった。部室に冷房なんてあったっけと思いつつ、パイプ椅子に腰かけた。

「さ、お昼にしましょうか」

「はい」

 弁当を持ってくればよかったかなぁと思ったが時すでに遅し。

「はい、あーん」

見られているような視線を感じつつ、今日も花月にお昼を食べさせられるのであった。

 食事をし終えると今度は紙を取り出して書き始めた。そして、今度は書いた紙を眺めながらパソコンに(日本刀やら何処かの国の銅像はあるがパソコンは初めて見た)打ち込んでいるのだった。

「御手洗先輩、何しているんですか」

「記事を作っているのよ」

 有楽斎が覗き込んだ画面にはスポーツ新聞みたいに『一年の源友人、学期末テスト絶望的か』という見出しが既に出来上がっていた。

「………内容はともかく、僕たちって新聞つく……」

 っていましたっけ…そう聞こうとしたが睨まれたので言葉を付け帰ることにした。

「……るのが苦手っていうか、あんまり人気ないじゃないですか。時代の流れですかね、学校新聞を貼ってもあまり立ち止まって見てくれる人がいませんし、おかげで部員はいまだに二名ですよ」

「そうね、だけど今度の見出しは大きいから大丈夫よ」

 本当だろうか、そんなくだらない見出しでみんなが足を止めてくれるとは思いもしないけどなぁとは言えなかった。

「僕は何をすればいいですかね」

「出来れば自分で考えてほしいんだけど………そうね、今回までは私の指示通りに動いておいてくれればいいわ」

「わかりました」

「とりあえず取材対象の方がお見えになるかもしれないから部室の掃除、よろしくね」

「はい」

 掃除箱を開けると人体模型が倒れかかってきたがそれをしっかりと受け止めて元に戻し、箒を取り出す。

「あ、雑巾もいるか」

 雑巾とバケツを取り出して水を汲んでくる。まずは窓から取り掛かろうと決めたのだった。



――――――――



 部室の掃除を終えていつものように寄り道せず帰宅した有楽斎だったが、疲れているような気がした。

「ただいまぁ~」

「おかえり、なんだか疲れてるね」

「んー、何だろ。部室の掃除をしたからかなぁ」

 雪と取りとめのない話をして夕飯が出てくるのを待つ。

「そういえばさ、御手洗先輩が変なんだ」

 御手洗という名前を出したところで露骨に嫌そうな顔をする雪。

「あの人は元から変でしょ」

「まぁ……なんだろ、普通の先輩みたいな雰囲気が漂ってるんだけど目が笑ってなかったり……いろいろとね」

「近々何かあるんじゃないかな」

 どうでもよさそうに雪はつぶやいたが、その日の夜に現実になるとは二人とも考えていなかった。


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