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第30話:見えぬ目

第三十話

 期末テストの朝。有楽斎がいつものように朝食を作り、一人で摂っていた。その後は歯磨き、準備を経て登校。

「いってきます」

 いまだ寝ているだろうもう一人の住人に向けて挨拶を終え、彼は今日も学校へと向かうのであった。いや、正確に言うのなら学校の部室だろう。

 登校時に双子に出会うわけでもなく、曲がり角で何かのイベントが発生することもない。ゴミ箱から二本だけ脚をはやした人外の者に会うこともない。

 珍しいことにその日は所属している部活の部長である御手洗花月に遭遇した。

「あ、先輩」

「野々村君……今日から期末テストでしょ。わからないところがあれば教えてあげるわよ」

 特にこれと言って難しい問題は出さないと教師が言っていたのでそこまで覚悟はしていない有楽斎。

「別に大丈夫だと思いますよ。とりあえず一日目で様子を見てみますから」

 実に余裕ぶった態度である。その面、一度でいいから殴らせてくれという負のラブレターが彼の下足箱を脅かさないことを祈らせてもらいたい。

「そう、じゃあテストが終わったら部室に来ること」

「わかりました」

 話が終わった後は特にテストの話題などには触れずに、さらに言うのなら面倒な花月の好奇心スイッチに触ることなく有楽斎は無難に登校したのだった。



―――――――



 午前中あっていた期末テストも終わり放課後となる。昼からは生徒たちの自由であり、図書館で勉強するなり、自宅に帰って次の日のテスト対策など人それぞれである。なかには今日のテストが素晴らしい出来だったよとか友達と話しあって喜んでいる生徒もいた。

 もちろん、両手をほっぺにあてて教室のあちらこちらで苦労している人たちだっている。

「ほらさ、俺って意外とどっしり構えている性格だろ。だからさ、今回のテストも土曜日からしか手を付けていなかったわけだ。はは、見ろよ。この学校の生徒さんたちのなかで苦しんでいるのは対策出来なかった連中だけだぜ……笑ってやろうぜ………はは、笑えよ、笑えばいいだろっ……対策出来なかった俺を笑え、畜生っ。明日の家庭科はびっくりするほどの点数を叩きだすと約束するぜっ」

「………今回はまぁまぁの出来栄えだったな」

「くくく、『まぁまぁの出来栄え』か。笑わせてくれるわ。その程度では私には勝てんぞ」

「なぁに、貴様は最終日に泣いて私に謝り、媚びることになるだろう」

 中には総得点にて賭け事を行おうとしている連中までいるから怖いものである。

「俺の、俺の予測が外れた……だとぅっ。テストの山場読みまくり、びっくりどっきり源友人さまの華麗なる………っておいおい、有楽斎」

 友人………ともひとはさっさと教室を出ようとしていた有楽斎を引きとめる。

「何、どうしたのさ」

「つれないなぁ~。あれか、お前はあれなんだろ。『ふっ、この程度の問題なんて僕の頭脳じゃ赤ちゃんレベルだね』とか『先生、ここの問題おかしいところがありましたよ』とかそんな嫌な奴なんだろ」

 そうなんだろ、そうなんだなっ、くぅ、この裏切り者めぇ………魔女狩りじゃ、村民をこの教室に集めるのじゃあ……などとテスト一日目から危ない精神状態である。

「テストは四日あるんだよ。がんばってよ」

「頑張るも何も………夜は可愛い女子高生と夜のお勉強を……って、有楽斎っ、助けてー」

 このまま教室に残っていても榊姉妹に会うだけだと有楽斎はさっさと友人から逃げ出したのだった。



――――――



 昼食は家で摂ろうと考えていた有楽斎だが、登校時に決まったことなので昼食がない。

「どうしたの、野々村君。お腹でも空いたのかしら」

 目の前にはお弁当を箸で突いている花月が一人いるだけである。

「ええ、まぁ…それなりにですけどね」

 タイミング良くお腹が鳴るなんてことはなかった。ただ、有楽斎の事を凝視している花月が一人いるだけである。

「あら、どうかしたのかしら」

「なんだか誰かに見られている気がしませんか」

「…………」

 一瞬だけ両目を開けたようだったがすぐさまいつもの表情に戻る。

「気のせいよ。この部室には私と野々村君の二人だけしか居ないわ」

「………そう、ですよね」

 決して広くはない部室。隠れる場所も限られてくるし天井裏があると言うわけでもない。謎の地下室につながっている床なんてないし、気のせいなのだろう。

「何かお昼を買ってきます」

 腰を浮かせようとした有楽斎の腕を掴んで花月は座らせる。

「いいわ、いたずらするつもりはないから。ほら、口を開けなさいな」

 肉じゃがを口の中に放り込まれたのちに咀嚼する。しっかりと味がしみ込んでいて普通においしい、何も批判する事の出来ない肉じゃがである。

「おいしいです。誰が作ったものなんですか」

「私の手作りよ。口に合うのならよかったわ」

 誰かに見られているなんてやはり気のせいだったのだろう………有楽斎はそう考えることにして二口目をいただくのだった。


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