第28話:夏の暑さ
第二十八話
デパートの屋上。その屋上の扉を開け放つとちびっこたちがわんさかいたりする。低年齢向けの小さな遊園地が屋上には広がっていたのだ。
「遊園地…ってここかぁ」
なるほど、たしかにこのデパートの屋上は小さな遊園地があった。小さい頃に一度だけやってきた事があるのだが以降は来た事がなかった。
夏の暑さのためか、親子連れはアイスを買ったりジュースを買ったりと忙しそうだったが子供たちは実に楽しそうにあちらこちらへと移動していたりする。
もちろん、乗り物も子供向けに作られているわけで有楽斎たちが載ることが出来そうなものはあまりなかった。
「どれに乗ろうか」
(無理をすれば)乗れそうなものと言えば小さな汽車ぽっぽにティーカップ、滑り台やブランコと言ったところだろうか。木陰で倒れているのか、休んでいるのかわからない重装備のマスコットキャラが実に教育に悪そうだったが子供たちは元気に走り回っている。
「あれ」
「ん、どれに乗るのか決まった…の」
裾を引っ張られたのでそちらのほうに視線を送る。里香の視線の先にいたのは一人の子どもとアイスクリーム屋。
里香の何か言いたげな視線を受けて有楽斎は子供に近づく。
「こんなときはなんて声をかければいいんだか………坊ちゃん、アイスクリームが欲しいのかい」
里香も隣にやってきており子供を見ている。子供は有楽斎と里香を交互に見た後に里香に向かって頷いた。そして、子供からの視線を受けた里香は有楽斎のほうを見る。
「…………どれがいいのかな」
「あれ」
指差す先にはこの店で最も高いもっこりが二つ乗ったアイスである。
ちゃっかりしてるぜ、この坊主……と思いつつ有楽斎はそれを三つ頼むのであった。
「ありがとうございましたー」
そんなアイスクリーム屋の声を耳にしながら子供にアイスを手渡す。
「ありがとーお父さん、お母さん」
子供はそれだけ言って走って行ってしまった。
「………ありがとう、お兄ちゃんにお姉ちゃんならまぁ……わかるんだけどねぇ」
右手で頭を掻いてもなんであの子供がお父さん、お母さんって言ったのかさっぱりわからない。
「きっと…似てたんじゃないかな」
「誰にさ」
「あの子のお母さんとお父さんに………」
いやいや、それはないでしょうとは言えずに有楽斎はアイスを舐めるのであった。
――――――――
「あなたさぁー、なんで有楽斎君の近くをうろちょろしてるのよ」
「それはこっちのセリフだろうに。何を企んでいるんだ」
野々村家では雪女と鬼の二人が冷房のリモコンを探しつつ腹の探り合いが行っていたりする。
「私が言ったらちゃんと答えてくれるんでしょうね」
雪は有楽斎の部屋へと入ってみるもそこにリモコンは見つからなかった。直接電源を入れればいいのだがあいにく本体のスイッチが壊れていたりする。
「そんな約束はしてないな」
トイレへとつながる扉を開けてみるも、そこにあるものは真っ白な便器と四角い枠の窓だけである。
「教えてくれたって減るもんじゃないでしょ」
「そうか、じゃあそっちが言ったら教えてやるよ」
「本当でしょうね」
「本当だとも。この顔が嘘を言っているように見えるのか」
同じ部屋にいるわけでもないので相手の面なんて見えるわけもない。
「わかるわけないでしょ」
「きりっとした表情してるんだぜ」
トイレの鏡に自分の顔を見せる霧生。実ににやけた表情をしていたりする。
「………にやにやしてるでしょ」
「お、ばれたか………よくわかったな」
「女の勘はよく当たるものよ」
「そうかい、それならその勘とやらで俺が坊ちゃんの周りをちょろちょろしている理由を当ててくれよ」
この屋敷に冷房があったのは知っていたがリモコンがどんな形をしているのかよくわからない為に霧生も探すのに苦労をしていたりする。
「さては地下に旦那様が持って行ったのか………」
「地下………この家って地下もあるの」
独り言を聞かれたようだが霧生はあわてなかった。
「旦那様の昔のお知り合いだ。冷房を憎む雪男の嫁さんの名前だよ」
「ほー」
これから五分後、面倒だと感じた二人は霧生がかき氷を買ってきて雪が力を使い部屋を冷却させると言う交換条件で事なき終えたりする。