第25話:男と女のそれぞれの戦い
第二十五話
プラットホームの人ごみの中、有楽斎は隣にいる少女の事が気になってしょうがなかった。いつもだったらちょっかいを出してくるようなタイプの人間が今日はおとなしい。何かしらの天変地異の前触れではないだろうか、もしくはそこらの野良犬が逆立ちして動き回る前兆かもしれない。
「あの…」
「ん」
一人考え込んでいた有楽斎は里香に腕を引っ張られた。やっとなにか仕掛けてきたかと思ったのだが彼女の指差す先には電車があった。
「電車…来たよ」
「あ、う、うん。わかった。じゃあ乗ろうか」
「…うん」
少しだけ顔をそらして頬を朱に染める。何が彼女にそんな表情をさせるのか有楽斎には分からない。だが、自分の知り合いの普段絶対に見せない表情を見ることが出来たのはよかったのかもしれないと二人で電車に乗り込むのであった。
――――――
鬼塚霧生が奇襲してきたならば確実に負けていただろう、いや、真正面から衝突しても勝てる見込みは零である。
「後十分ぐらい…ってところかな」
有楽斎たちの乗った電車が発車した後、雪は急いで有楽斎の家に逃げていた。途中、コンクリの塊や、鬼塚霧生本人による襲撃があったがそれも何なく防ぐ事が出来ていたし、本気を出していないが凍らせることにも成功している。
もう少しで絶対安全地帯である野々村家にたどりつきそうだったのだが雪の目の前に一つの影が立ちはだかった。
「…この前はたまたま坊ちゃんに合流したからよかったようだが、今回はそううまくいかないぜ」
鬼塚霧生は腕を組んで不敵に笑っている。雪も口元を歪めて笑い返した。
「それはこっちのセリフよ」
「いや、合流したのはお前だろ」
「違う違う。私が言いたいのは後半。『今回はそううまくいかないぜ』ってところね。前回はあなたの事を甘く見ていたけど今度は本気で行かせてもらうから」
一瞬だけ冷気が辺りを包んだかと思うと雪の髪の毛は白く染まっており、夏だと言うのに足元のアスファルトが凍結していた。
「次は本気で固めてかき氷にしてやるわ」
雪女だったが、雪の瞳は燃えているのであった。
――――――――
電車を降りた有楽斎は里香に腕をひかれる。
「こっち」
「え、うん」
引っ張られるままの有楽斎。その視界には大きな遊園地が登場。
『ああ、なるほど…ここに入るのか』
財布を確認して金が入っている事を確認する。子供が遊ぶには十分の資金がそこにはたしかにあったし、カードもある。以前はカードだけの所有だったが『カードは使えません』という経験をもとに現金も所持しているのである。
しかし、いざ準備をした(最初何に乗って相手のテンションをあげ、次はどういったコンボを組むか)のだが残念ながら里香の目的地は違うらしい。
「こっち」
彼女が有楽斎の手を引いて向かった場所は大きなデパートがあるだけだ。他のどこかに向かっているというわけではないし、既に駐車場の敷地の中に入っている。
デパートに来たからには何かを買うのであろう。先ほども財布の中身も確認したのだがもう一度だけ確認。
「デパートならカードも使えるから大丈夫………だよね」
「どうかしたの」
「いや、なんでもないよ」
姉の理沙が一緒に来なくてよかったとため息をついた。守銭奴の化身と言っていい彼女が来たなら尻の毛までむしられることは必須である。考えようによっては里香が理沙にしゃべった場合も問題がありそうだが…
今日の彼女からはそんな雰囲気がなかった。
まぁ、大丈夫そうだから放っておく事にしようと有楽斎は心の中で頷くのであった。