第24話:駅前にて
第二十四話
雪には『ちょっと出かけてくる』と告げて外出。雪のほうも『私もちょっと出かけてくるね』そう言ってお互い外に出た。
ただ、有楽斎の数メートル後方に雪がいると言う追う側と追われる側の関係だが。
追われている有楽斎は時折、後ろを振り返るのだが雪に気がつくわけでもない。民家の屋根などに隠れているからだ。
「気のせいかな」
「うんうん、そうそう」
有楽斎が雪の追跡に気がつくわけでもなく、そのまま待ち合わせ場所まであっさりと到着。曲がり角で新たな人物とぶつかったりするわけもなかった。まぁ、強いて言わせてもらうならば、三叉路にて車が曲がってきたときによそ見をしていた有楽斎が危うく撥ねられそうになったぐらいだろう。
目的地まで到着した有楽斎であったが、今度は相手を探す羽目になる。
「休日だからなぁ…人が多すぎだよ」
愚痴っても探し人を見つけることが出来るわけではない。親子連れやカップル、友人たちや何やら怪しい衣装の人物たち…と、様々な人たちが思い思いに駅前で待ち合わせしているようである。
ちょうど有楽斎が駅前の噴水前に来たところで裾を引っ張られた。
「ん」
「こ、こんにちは…」
そこにはどこからどう見ても瓶底眼鏡をかけただけの上から見ても、下から見ても、横から見ても、どこからみても榊里香がいるだけであった。
「さ、榊さん…………だったりするかな」
「…………う、うん」
「あ、妹の里香…ちゃんだよねぇ」
「い、妹の里香ですっ」
会話のキャッチボール。お互い相手としているようだが少しずれたコースに投げている感が否めない。
有楽斎としては何かの冗談と思いたかったのだが普段の猫かぶりっぷり(有楽斎側からみたらあまり感じないのだが)がないし、横暴さもない。これは何かの罠だろうかと思いつつ、質問してみることにした。
「あのさ」
「あ、電車がそろそろ来る時間帯だから…乗ろっ」
迷っているようだったが有楽斎の腕を掴んで軽めに引っ張る。
なんだなんだ、一体今日の彼女はどうしてしまったんだろうか…しかし、こういった控えめのようで押してくる女の子は悪くないな…はっ、僕は一体何を考えているんだ…。
少年の悩みはまだまだ消えない。
――――――――
同時刻、有楽斎を追跡していた雪はその少女、榊里香をしっかりと二つの眼でしっかりと捉えていた。
「え」
当然、自分で調べ上げた榊里香についての情報とは違うものだったために驚いているわけなのだが想像力の強い彼女はとある仮説を立てたりもした。
「きっと、普段は視力が弱くって有楽斎君の事が見えてないから無茶な要求したり、奇行が目立っているに違いない。でも、眼鏡をかけることによってその絶望的な視力は右肩上がりで回復し、有楽斎君をしっかり見ることによって無茶な要求をする前に照れてしまうんだっ」
近くの子供が雪の事を指差しているのだが母親がそれを制してさっさといなくなる。
「…真相を知るためにはしっかりと確認しておかないといけないもんなぁ」
どうやら電車に乗るようだと雪も移動を開始する。しかし、彼女の足は駅前で止まった。
「…………忘れてた。私ってば有楽斎君の家からしばらくでないって決めてたっけ」
雪の視線の先には鬼塚霧生が腕を組んで待ちかまえていたのだった。