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第21話:やってきた先輩

第二十一話

 野々村家前にやってきた御手洗花月は首をかしげた。

「野々村君の家は新興宗教でもやっているのかしら」

「あー…これはカモフラージュってやつですよ」

 ちなみに僕がしたわけじゃあないですよと断りを入れた。人によってはカムフラージュとも言うだろう。

「なるほど、じゃあこっちの新聞販売ってのも嘘なのね」

「そうですね」

「新聞を取りたいって人は此処に来ないのかしら」

「来るかもしれませんが…一度も来た事はありません。あ、普段僕が居ないから日中来ている可能性も捨てきれません…雪、来たことあるかな」

「え」

 話題を振られた雪はあまり話を聞いていなかったのだが適当にうなずいておいた。

「う、うん」

「じゃあ来てないようです」

「ふーん」

 どうでもよさげに花月はそういうと有楽斎の背中を押した。

「さ、案内して頂戴」

「わかりました」

 門を開け、石畳の向こうにある玄関をスライドさせる。

「どうぞ」

「お邪魔するわ」

 靴を脱いで揃え、趣ある廊下に足を付ける。

「こっちが応接間です」

 案内しようとする有楽斎の手をやんわりと花月がつかむ。

「そんなに畏まらなくていいわよ。直接野々村君の部屋に案内してくれると助かるわ」

「え、はぁ、わかりました」

 有楽斎、花月、そして雪が部屋へと向かおうとしたのだが花月が足を止める。彼女の背中にぶつかった雪があわてて詫びを入れる。

「すみませんっ」

「いいのよ…ところで、貴女も気を使わなくていいのよ。自分の部屋があるだろうからそこでくつろいでいて頂戴」

「え、でも」

「うん、先輩の相手は僕がするから気にしないでいいよ」

「…わかった」

 有楽斎にもそう言われて雪はしぶしぶうなずいた。彼女としてはちょっとだけ面白くなかったりするが、有楽斎からしてみれば一般人が変人と言う人物の事を出来るだけ知り合いに教えたくなかったりする。



――――――――



 有楽斎の部屋に入った花月はあたりを見渡してため息をついた。

「どうかしたんですか」

「いや、思ったより普通の部屋でがっかりしたわ。何かの彫像とかあるのかと思っていたもの」

「ははは、まぁ、鎧なら廊下の突き当たりにたくさんありますけどね」

「あら、意外と可愛いのが趣味なのね。クマのぬいぐるみだなんて」

「それ、雪からもらったんです。あ、お茶持ってきますね」

「そこまでしなくていいわ。ところでちょっと面白い話があるのよ」

 三つ折りした布団に共に腰掛けると花月は鞄から数枚の写真を取り出すのであった。

「なんですか、これ」



――――――――



「むむむ…」

 有楽斎の部屋に設置されたカメラからの映像を雪は自分の部屋で確認していた。

 お金がなかったのであまり高性能のカメラは手に入らなかったために白黒、そして画質が悪い。

 お粗末な性能のカメラだが布団をソファーのようにしてくっついて座っている二人の事はわかる。

「彼女じゃないって言ってたけど…彼女とかじゃないとあんなにくっついて座ったりしないはずなんだけどなぁ…」

 雪女の里に男はいなかった。他がどう思っていようが雪にとっては仲良くしているのは付き合っているものだという認識が強かったりするわけなのだが、こっちにやってきてその認識もある程度改善されている。

「有楽斎君」

「あ、醤油だね」

「うん」

 こんな風に心がつながるということもあるのだろうと最近知ったのだ。物理的に近づくのはいささかどうなのだろうかと画面を見ながらため息をついた。それにこの行為は犯罪まがい、いや、犯罪行為だろう。

「覗きって悪い行為なんだけど…でも、この家に私がいる理由って有楽斎君を調査することだからなぁ」

 一カ月に一度、大きな鷹が飛んでくるのでその足に調査した結果を報告する。いつ帰ることになるかは分からないがとりあえず今のところは調査を続行するようにとの方針だそうだ。

「ん」

 白黒画面に何やら写真を持った花月、それを覗き込む有楽斎が写り込んだ。



――――――――



「これ、何に見える」

 指差した写真の中には後ろ姿の女性がいた。

「なにに見えるって言われても……女の人ですか」

「そうね、大体合ってるわ」

 何が言いたいのかいまいち理解していない有楽斎は首をかしげる。

「で、これがどうかしたんですか」

「雪女よ」

「雪…女ですか」

 なるほど、確かに言われてよくよく見てみれば白い着物に雪が舞っているようである。

「まぁ、今度会ったときはしっかりと顔も撮ってきてあげる。どこの誰だかわかれば突撃取材できるでしょうからね」

「新聞でも書くつもりですか」

「新聞部だから」

 そうでしたねぇ、と有楽斎は頷いた。

「その写真もうちょっと良く見せてもらえますか」

「いいわよ」

 有楽斎の手に写真がわたる瞬間、扉が開いた。

「ううううううう有楽斎君っ、お客さんが来たみたいだよっ」

「え、わかったよ。御手洗先輩、ちょっと待っててください」

 有楽斎が玄関方面へと消えたのを確認すると、花月のほうを見やる。

「これ、可愛いクマのぬいぐるみね…カメラなんて仕込まれてるし」

「………」

 それを見て雪は相手を睨みつける。この人は只者じゃない要注意人物だと警鐘を鳴らすのであった。


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