第19話:写るもの
第十九話
夏休みの間に業者が入って新しく部室棟が増えるらしい。
「プレハブが二、三個増えるぐらいじゃないかって噂されているそうだけど実際のところは野々村家が本気を出して部室棟を作るそうよ」
「はぁ、そうなんですか。僕は知りませんよ」
肝試しを終えて帰ってきた有楽斎からデジカメを取り上げ、中身を確認し始める。
「で、何か撮ったから戻ってきたのよね」
「危険を感じたので戻ってきました」
「そう………ちょっと野々村君」
手招きされたので有楽斎は近づく。花月は左手でデジカメのディスプレイを指差している。
「何ですか………え」
有楽斎は写っていた物に目を見開かせるのであった。
―――――――
有楽斎たちの通っている高校。その敷地は広く、県内随一を誇っている。
「ぜぇぜぇ……お、追い詰めたわよっ、観念しなさい」
肩で息をしている雪女、雪はその高校の旧校舎屋上で霧生に指を突き付けていた。
「あなたが何を考えているのか知らないけど私に屋上なんて昇らせて……生徒に見つかったらどうするの」
その問いに対して霧生は首をすくめる。
「別に俺が困るわけじゃないからな。お前が坊ちゃんの屋敷から追い出されるだけだろ。大体ばれるへまなんてするわけないと俺は思うけどなぁ」
「さっさとその紙を返してよっ」
「ふーん、なるほどな。今日は温度が比較的高い方だが太陽の下にも雪女ってやつは出てこれるのか」
「当り前でしょ」
息を整え、臨戦態勢に入る。両腕とも下した状態で相手を見据え、隙をついて仕掛けるのが雪のやり方だったりする。
「まー、ちょっと此処んところ俺も身体を動かしてないからな。運動させてもらおうかな」
相手は特に何をするでもなく目を閉じた。
『今だっ』
何もない空間に素早く氷柱のようなものが出現。それらは霧生へと襲いかかる。
もちろん、直接霧生に当たるようにはなっておらずどれも外れるようなものばかりだ。まぁ、当たった場合は謝ればいいだろうと雪は考えていた。
しかし、氷柱は霧生手前一メートル程で霧散。
「え、嘘」
狙われていた霧生のほうは首を回しながら体をほぐしているようだった。
「さーて、鬼ごっこを始めようかねぇ。俺が鬼でいいぜ。お前が坊ちゃん家まで逃げられたらお前の勝ちだ。負けた場合は…わかっているだろうな」
そういうと霧生は悪そうな笑みを浮かべるのだった。この光景を有楽斎が見たら『うん、似合ってるよ』と絶賛したに違いない。
――――――――
有楽斎が見せつけられているのはどうやら女性の胸の谷間のようであった。
「まさか野々村君が助平だったとは思わなかったわ」
花月にそう言われたので全力で否定する。
「いや、これは何かの間違いですよっ。事故か何かで撮れたんだと思います」
「野々村君がそういうのなら信じるわ」
そのデータを消すことなく、花月はそのまま机の中にデジカメを入れた。おもむろに立ち上がって鞄を掴むと有楽斎の手を引く。
「帰りましょう」
「わ、わかりました」
何となくだが花月が怒っているように見えた。花月に頭が上がらない有楽斎は戦々恐々としながら楽しい楽しい下校時間を迎えるのである。