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第18話:出た後に気になること

第十八話

 有楽斎が学校に行っている間、野々村家は有楽斎の家ではなく雪の家となる。彼が学校についた時間帯に凍ってしまった布団から雪は這い出て来る。そして、朝食が置かれている居間に移動。その後は有楽斎が作ってくれた朝食を食べながらいつも思っていることを口にするのだった。

「………進歩ってしないんだなぁ」

 ただまぁ、お世話になり始めた日から比べてご飯の堅さは安定してきている。料理の腕が上がってきたと言っていいのかはわからないわけだが。

「さて、今日は何調べようかな」

 朝食を食べ終わった雪は有楽斎の部屋に入る。不法侵入していろいろと調べるわけなのだが、すでに彼に対しての調査は終わっている。

「やっぱり、あの鬼塚霧生って人についてだろうな……いや、人じゃなくて鬼か」

 突っ込みを入れた後に有楽斎の部屋を後にする。よく言えば片付いている、悪く言えば物のない彼の部屋をこれ以上探したところで霧生の事について知ることなど出来ないだろう。

 雪女と人の合いの子である有楽斎に関係する鬼。

 有楽斎の事を調べてこい、そう言われたのだが霧生についても調べておいた方がよさそうに思えた。

 有楽斎に聞いたところで有益な情報は得られないだろう、本人に実際に会ってみて話せば何かわかるかとも思ったのだが居場所がわからない。

 居場所をどうやって調べようかと考えたところでトイレに行きたくなった。

「ん、待てよ…」

 雪はこの家のどこかにアルバムやら書類やらとそういった情報源の塊があるとかないとか有楽斎が言っていた事を思いだした。それがどこかはわからないがどこにいるのかわからない人間を探すよりも逃げない、動かないその部屋を探したほうがいいのではないだろうか。

「ふむぅ」

 一番怪しいのは当然有楽斎の両親の部屋なのだが、この前入り込んだ時に見た物は圧縮された布団と何も入っていない本棚、時計だけだった。生活臭が全くしない時間の止まったような部屋だったのである。

 有楽斎に聞けば『年に一回、二回ぐらいしか使わない』とのことであり、何かがあると言うわけじゃないそうだ。

 両親の部屋が違うなら有楽斎の弟の部屋かと思えば、こちらにいたっては部屋の中にあるものが机だけと来たものだ。

 これもまた、有楽斎に言わせてみれば『五年に一回ぐらい帰ってくるぐらいだからね』とのことであった。

 一旦整理しようと茶の間に移動し、野々村家の間取り図(唯一、有楽斎の両親の部屋に落ちていた物)を取り出す。

「私に割り当てられている部屋がえーっと、六畳だったから…これと同じ部屋があと五つ。このうち二つが有楽斎君と弟さんの部屋だから……え、改めてみたけどこの家ってトイレが十か所以上あったの…」

 間取り図には合計十四の部屋が書かれてあったのだが西側の二つの部屋に行ったことがない。そもそも、西側に続いている部屋の通路には似つかわしくない西洋の鎧が置かれていたりする。前々から気になっていたので有楽斎に聞いてみたらその先は両親から言ってはダメと言われている場所らしい。

 鎧の数メートル後ろにはふすまがあるようだがそこまで行きつくには世界の鎧コレクションが軒を連ねて邪魔している。

 雪女である雪にとってそれら障害を突破するのにはなんら問題ないのだが有楽斎が返ってくるまでにそれらを再び元に戻すほうが大変だと思われた。

「この先に何か重要なものがある気がしてならないんだけどなぁ。みたいなぁ。有楽斎君に素直に言って見せてもらおうかなぁ」

 頼めば何でもしそうな人間だしなぁ、でも、あと一息で駄目だったときはどうしようか。

 悩める雪の元へ、その助っ人はやってきていた。

「なんだ、お前は西側の部屋が見たいのか」

「…え」

 あわてて振り返るとそこには探していた本人、鬼塚霧生が立っていた。

「おおお、鬼塚、霧生っ」

「どうかしたのか」

 それだけ言うと野々村家の間取り図を取り上げる。

「あ、何してるのよっ」

「お前のものじゃないだろ。坊ちゃんのものだ。それにこれを坊ちゃんに見られるわけにはいかないからなぁ。どうせ雪女は色気でも使って坊ちゃんにお願いするつもりだったのだろう」

「そんなことするわけないでしょ」

 後ろから抱きついて頼んでみたらいいかもしれないと雪は最終的に考えていたりしたが、これでご破算となった。

「ともかくこの間取り図は駄目だ」

「返しなさいって」

 右手が唸り、吹雪が舞った。

 雪の目の前には霧生の形をした氷の彫像が出来上がった。

「あ、やっちゃった」

 不用意に雪女の力を使った事を後悔しつつもその手に握られていた間取りを奪おうとする。しかし、手を伸ばそうとしたら氷が割れて中の人間がいなくなったのだ。

「え」

「あぶねぇなぁ、おい」

 気がつけば玄関の方で霧生の声がしていた。

「お前、感情高ぶらせるぐらいで化けの皮はがれるなら坊ちゃんと一緒に生活させられないぞ」

 呆れたようにため息をついている霧生を指差して雪は言う。

「あなたがそれを私に返してくれるなら感情なんて高ぶらないわよっ。第一に有楽斎君はそうやって挑発とかしてこないもんっ」

「なるほど、そりゃあ坊ちゃんを何かに利用しようと聞こえなくもない発言だな」

「どう解釈したらそうなるのよっ」

 相手が鬼ならばもはや遠慮はいらないとばかりに七月近くの六月に吹雪が舞った。

「くっ、また外れたっ」

 玄関が凍りついたが霧生が凍っているわけでもないし姿はなかった。ただ、気配を感じるのでそれを追っていけば何とかなるだろう。

 急いで玄関を後にしたのだが紙が落ちている事に気が付く。

「………『戸締りをしっかりした後に追ってこい』か。そんなことわかりきっているわよっ」

 独り言をつぶやいて家の中へと一旦戻る。それから追想状態へとなったわけだが、少し時間が経って雪は再び家へと帰ってきた。

「ガスの元栓閉めてたっけ……」


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