第17話:旧校舎一階
第十七話
放課後、理沙、そして花月と共に有楽斎は旧校舎へと向かう事となった。
「ったく、なんであたしがあんな変人と一緒に旧校舎に行かなきゃいけないのよ」
「それを言わせてもらうならなんで僕が君と一緒に旧校舎に行かなきゃいけないのか教えてほしいんだけど」
「二人とも何を話しているの。気を付けてないと怪我するわよ」
「………」
「はいわかりました」
返事をした有楽斎を睨みつける理沙。
「ん、どうかしたの」
「あんたってあの変人の言うことは聞くのね」
「部長だからね。ほら、部員は基本的に部長の言うこと聞くものでしょ」
「そりゃまぁ、そうでしょうけど」
「考えるよりも黙って言うこと聞いていたほうが楽だよ」
こうやって人は飼いならされていくのかもしれない、理沙はそう考えながら有楽斎より先を歩くのであった。
――――――――
旧校舎に(不法)侵入し、全員で廊下を見通す。侵入方法はいたって普通で既に無くなっている窓からの侵入である。
「別におかしいところなんてないわね。来年には特別教室の予備として使われるか、今部室のない連中の場所として使われるとか、他にも使い道はあるようね」
面白くなさそうに花月は近くの扉を開ける。
「何かあるってわけでもなさそうねぇ。時間の無駄だわ。野々村君、ちょっと」
「え、なんですか」
理沙が腕にひっついている事も気にせずに花月に近づく。
「これで適当に写真撮ってきて頂戴。私は部室で暇をつぶしてるから」
ポケットからデジカメを取りだし、受け渡す。
「は、はぁ、あんた自分から来たくせしてもう手を引くのっ」
「だって、報告してもらえればそれでいいから。じゃあね」
人数は多ければ安心だろうと思っている節が理沙にはあったようで、元から少人数とはいえこれで二人だけとなってしまう。
右手にデジカメ、左腕にはおもりを付けた有楽斎がどうしたものかと考えるも、進む以外に選択肢はないんだろうなぁと諦めた。人間、何事も諦めが大切である。
「じゃ、行こうか」
「え、わ、わかったよ」
適当に撮っておけばいいのかと何かがいそうな窓や教室を撮っておく。
「ひ、ひっ」
「うわっ」
相棒がいきなり強く抱きつくものだから有楽斎の右手もぶれて適当なところでボタンを押す。
「どうしたのさ」
「あ、あそこに人影が……嘘じゃないわよっ」
嘘をつきそうな人間からそう言われても全く説得力がないのだが、普段の余裕を感じられず顔は真っ青である。
「で、どこ」
「あそこよっ」
びしっと指差された場所……そこは二階に続く階段の踊り場であった。地下にも一応つながっているが理沙の話によると二階に人影は向かったそうである。
「理沙の気のせいじゃないのかなぁ」
「そんなわけないわよっ。金づるが明後日のほうを見てたからそう言えるのよっ」
しばらく有楽斎は考えていたのだが手をたたいた。
「面倒だから出ようか」
「それじゃあ意味がないじゃないっ」
「………怖いんでしょ」
「怖くないわよ」
有楽斎から離れ、両手をグーにして睨みつける。カメラで一度理沙を撮ってから有楽斎は後ろ髪を掻いた。
「ああ、そう、じゃあ確認しに行こうか」
「え、ええ」
再び有楽斎の左腕に抱きついて一歩一歩足を踏み出す。
「もし、何かが居たら疑った罰金として十万円払ってもらうから」
「………何かが居たら僕たちただじゃおかないと思うんだけどなぁ」
そんな話をしながら階段を一歩一歩踏んでいくが視界に何かが入ってくるわけでもない。
「ん」
「どうかしたの」
不安そうな理沙をこれ以上怖がらせないためにも有楽斎は嘘をついた。
「何でもないよ。猫みたいな何かが通っただけだから」
「な、なぁんだ、猫だったのかぁ」
よかったぁと心底ほっとしている相方を見ながら有楽斎はあたりを見渡す。
「もどろっか、肝試し続けたいなら夜来よう」
「い、行くわけないでしょ。もう十分よ」
「じゃ、帰ろう」
「ちょ、ちょっとっ」
理沙を無理やり引っ張って帰り始める。比較的耳の良い有楽斎には上の階で何かが蠢いているのが聞こえたりしたのだ。
それが何だったのか、有楽斎たちは知る由もなかった。