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第150話:世界の終わり

第百五十話

「吉瀬先輩、これはどういう事ですか」

 有楽斎の氷で拘束されている美奈代は覆面レスラーへと問いかける。

「はは、吉瀬先輩なんかじゃないさ。僕は覆面レスラー、『マッドネス有楽斎』だ」

「納得いかないよっ」

 叫ぶ雪に有楽斎はさらなる説明をしようと振り返る。

「えーっとね…」

「野々村家の施設を襲ったのも吉瀬君と言うことね」

「それは……そうです」

「そう、だからあのレポートが詳しい事かけていたのね」

 一人納得して黙り込んでしまった花月に代わり、雪が口を開いた。

「……理由は何。精鋭ぞろいの施設襲撃。単独で突破できるなんて信じられないよ」

「何と言うか、時たま自分が抑えられない時があるんだよ。うん、一般人に危害を加えることは出来ないからね」

 実際は『女子にふられた腹いせだった』というものだ。恥ずかしすぎて、いや、それ以上にこんな事を言ったら絶交されること間違いなしである。

「あ、でも、施設はあくまで僕の個人的な理由だったけど雪さんの家を襲ったのは違う理由だからね」

「え、それってどんな……」

「後の説明の方はわしがやっておこう」

 漆黒の忍び装束を身にまとった老人が現れる。

「あ、そうですか」

「そうじゃ。お前さんには仕事があるだろう」

「……そうでしたね」

 雪の部屋の扉を開け、有楽斎が中に入ろうとする。もちろん、雪は驚いていた。

「え、ちょっと待ってよっ。なんで有楽斎君入ろうとしてるのっ」

「スイッチを探しに行くんだよ」

「スイッチ……えっと、スイッチはあげるけど、絶対に日記とか覗かないでよっ。机の一番上の引き出しに入ってるからね」

「わかった」

 有楽斎はふすまを閉める。外では有楽斎についての説明をちょうど始めたころだろう。

「さて、女の子の部屋に勝手に入った挙句、色々と探すのは気が引けるね」

 誰に言うでもなく、有楽斎は指定された通りの行動を開始する。変に触って後で怒られるのは嫌だからだ。いや、まぁ、その前にばれてしまっていると言う事を忘れてはいけないのだが。

「よし、何とか苦労したけどスイッチは手に入れたぞ」

 引き出しを開けると言うだけの行為で手に入れられたのはいい事だろう。知り合いが邪魔をし、最後の最後で自分の妹が出てくるとは想像もしていなかった。ただ、とても長い間かかってやり遂げたという事だけが有楽斎の心に残る。

「……世界を変えるスイッチ…じゃなかった、世界を元に戻すスイッチかぁ」

 押してみようかなぁ、そう有楽斎は思った。しかし、押そうとしたところで急にめまいが襲ってくる。

「ん…」

 スイッチに仕込まれた盗人撃退機能なんてあるのか…そう思った有楽斎は自分が宙に浮いている事に気が付く。

「え」

 自分の目の前にいるのはスイッチを持つ六本腕の有楽斎だった。この前肉体と精神がわかれるという馬鹿らしい事になった時と同じ現象だろう。そう思って相手に触れても戻ることはなかった。

 六本の腕は宙に浮く半透明の有楽斎を襲い始めるのと、有楽斎が逃げ出すのはほぼ同じタイミングだったりする。



「つまり、今の吉瀬君は肉体とうまく言っていないと言うことね」

 状況は呑み込めたと御手洗花月は氷から解放されて伸びをしていた。

「そうじゃ」

「………やっぱり、私のせいなんですね」

「そうね、問題を作ったのは私と子子子子。吉瀬のアホはまぁ、被害者ね」

 理沙はそう言うと雪の部屋を見ていた。

「ん」

「どうしたの、理沙」

 雪が理沙に尋ねたところでふすまが吹っ飛んだ。飛んできた何かを老人は華麗に避け、周りから称賛の声が聞こえてくる。

「って、感心してる場合じゃないよっ」

 飛んできた何か、半透明の有楽斎は両腕をぶんぶん動かしている。

「…残念ながら始まっておったか」

「残念って何がですかっ」

 雪の部屋から出てきたのは肉体の方の有楽斎。背中の腕はいつもより激しく動き回っている。

「また別れちゃったのね」

「別れた……というのは正しい表現じゃないのぅ。独立じゃ。二度と少年はあの体に戻る事は出来ん」

「……そんなぁ」

「でも、さっきそこのおじいちゃんが言った通り、あれが持っているスイッチを押しちゃえばお兄ちゃんの体は手に入るんでしょ」

 真帆子が指差す先には肉体が持っているスイッチがあった。

「そうじゃな。じゃが…」

「…世界を戻すスイッチなんて信じられません…でも、吉瀬先輩が困っているのなら手を貸します」

「それは…そうかも」

「そうね」

 雪も賛同し、花月も頷いていた。

「でもあれ、お兄ちゃんにしか見えないよ」

 涼しそうに微笑んでいる有楽斎を見て理沙以外の女の子は頷いた。戦意をそがれるらしい。

「あの顔を殴ってまでスイッチを奪い取るのはちょっと…」

「え、でも僕はここにいるよ」

「あの、誤解をしないでほしいんですけど…あれ、殴っちゃうと今後も吉瀬先輩を殴ったりしそうで怖いんです」

「有楽斎君が女の子に殴られて嬉しいって言うのならいいんだけどね」

「いや、そんな趣味はないからね」

 結局誰が行くかも決まらず、時間だけが過ぎて行く。ただ、一人だけまるで触手のような腕を持つ肉体に近づく人物がいた。

「理沙、危ないよっ」

「馬鹿ね、あれはあんたの肉体でしょ。だったらあんたが私に危害を加えるわけないじゃないのよ」

 理沙の言った通り、肉体は理沙に何もしなかった。だが、理沙は違った。

「この女ったらしの最っ低野郎っつ」

渾身の右ストレートを肉体の顔面にぶつけたのだった。そして、スイッチを手に取ると有楽斎に笑顔を見せて言うのだった。



「吉瀬、今度も私を選びなさいよっ」



 潔く振り落とされた右チョップは『カチッ』という清々しい音をたてて凹んだのだった。


これで終わりです。これまでお疲れさまでした。

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