第147話:やる気の欠片
第百四十七話
野々村家の庭にセットされた筒。六本の腕のうちの一本を使ってその導火線に火を付けると有楽斎は耳をふさいだ。
ドーンと言う音と共に一発の花火が打ちあがり、小さいサイズにしてはやけに大きな音が出るなぁと感心したところで脇に老人が現れる。
「派手にあがったのぅ」
「夜見たら綺麗ですかね」
プロレスラーの覆面を装着し、有楽斎は氷の結晶を自分の体の周りに展開する。
「そうじゃな……さて」
老人は後ろを振りかえった。ガラ空きの野々村家に二人して侵入を開始する。埃のない廊下を腕で歩きながら有楽斎は隣を走る老人に尋ねる事にした。
「思えば一緒に入ればよかったんじゃないんでしょうか」
「陽動は必要じゃよ。何せこちらは鬼と雪女がわしの相手をしてくれていたからのぅ」
「鬼と雪女って…」
「鬼は鬼、雪女は雪女じゃよ。少年、お前さんはまずここの娘さんの部屋を探してくれ」
「わかりました」
「早くしないと鬼が出てくるからのぅ」
茶化したつもりだったのだろうか。老人は足を止め、有楽斎も廊下の先で腕組みをしている人物を見る。
「ほら、鬼が出てきおったぞ」
「またお前か」
老人の視線の先には学校で毎朝拝む顔があった。
「……あれ、僕の担任です。鬼教師だって思っていましたけど本当に鬼だったなんて」
「ほぉ、そうか」
鬼塚霧生は廊下を軽くけるとすぐさま老人を襲い始める。
「わしはこやつの相手をしておくから先にいってもらうぞい」
「わかりました」
廊下の先を抜けようとした有楽斎に霧生が襲いかかるも、老人が押さえつけた。
「鬼を押さえつけるなんて何者ですか」
「科学者じゃ」
忍者じゃないんですか…そんな突っ込みを入れることもなく、有楽斎は廊下を曲がったのだった。
「雪さんの部屋ねぇ」
ネームプレートもない日本家屋だ。障子に名前が刻まれたものはみた事が無く、『百合の部屋』や『鶴の間』といった名前もなさそうだ。
「僕雪さんの部屋知らないんだけどなぁ……」
適当にふすまを開けて行ってみることにした。手近な部屋の扉を開けてみると布団、机、箪笥…といった質素な部屋がある。
「違う…かな」
教科書や鞄、そういったものが置かれていないので違うだろう。有楽斎はふすまを閉めて次の部屋を開けてみる。
「あれ」
次の部屋も先ほどまでと同じものだった。
「同じ部屋がいっぱいあるんだなぁ…」
有楽斎はこの家が以前、量を兼ねていた事を知らない。きっとお客さんがたくさん来た時の為にあるんだろうなぁと考えておくことにした。
徐々に雪の部屋に近づいているとも知らず、有楽斎は廊下の部屋を順に開けて行く。途中で、ふと足を止めると目の前の廊下が一メートル程無くなった。
「……」
「もうこんなところまで侵入していたんですかっ。榊先輩が呼びに来るの遅すぎたんですっ」
「うるさいわねっ。こっちも色々とあったのよっ」
理沙と美奈代のコンビが有楽斎の前に立ちはだかった。
「もう手加減なんてしませんからっ、いきますよっ」
有楽斎は美奈代が何かしら行動を起こす前に素早く理沙を捕まえたのだった。
「あ…」
「ちょ、ちょっと…」
「いや、人質を取るなんて卑怯だろうけど、理沙を人質にとらないと本格的に美奈代ちゃんとやらないといけないからさ」
理沙だけに聞こえる範囲でしゃべる。その言葉を聞いてどうやら理沙は怒っているようだった。
「あんた……子子子子と争いたくないから私を人質に取るってわけね。つまり、私より、子子子子を取ると……そういうことね」
「いや、違うからね」
どう説明したらいいのやら…当然、美奈代はその隙を見逃さなかった。
「ふがいない榊先輩、今助けますっ」
「くっ」
脇から襲ってきた美奈代を一撃で捉え、有楽斎の開いている腕は六本中四本となった。その内二本は脚部として使用している為、実質二本となる。
「不覚ですっ」
このまま放したところで再び襲ってくる事だろう。有楽斎はそのまま二人を連れていく事にしたのだった。