第145話:来客
第百四十五話
オムライスを食べ終え、食器を洗っていた有楽斎はふと後ろを振り返った。
「おお、気が付いたか」
「……ダニエルさん」
真帆子の為にと一応取っておいたオムライスを食べている。素早くそれを奪い取って残りを確認する。残念ながらすでに殆ど食べられてしまっていた。
「……お前さん、あまり料理は得意ではないようじゃな。妹が家事をしておるのか」
「いや、大体僕がしてますよ。真帆子は僕よりひどいですからね」
包丁を握っちゃうと真帆子、ハッスルしちゃうのっ…とか言って一度本当に暴れまくった事があったのだ。
「そうなのか」
「ええ、僕の方がうまいから料理を作っているだけです」
「ふむぅ、男でも料理ぐらいはまともにできないと人間として問題じゃぞ」
「これでも一応進歩したほうですし、勉強とかもしているんですけどね」
お茶を出して有楽斎もテーブルに着く。
「今日はどうしたんですか」
「実はなぁ…一つ手違いと言うか何と言うか……」
「歯切れが悪いですね」
「そうじゃな。とても大切な話をしに来たんじゃよ」
すっと伏せて差し出された写真を有楽斎は見つめる。
「…」
老人はそれを見ろと言わんばかりの表情だった。有楽斎は写真を取って自分だけにしか見えないようめくってみる。
そこには理沙の寝顔が写っていた
「…これ、何ですか」
老人に見えるようにすると別の写真を取り出してそれをちらりと見る。どうも間違えたようだった。
「え、ああ、すまん。間違えたわい。忘れてくれ」
写真を引っこめようとした老人の手をかいくぐって有楽斎は写真を懐に入れた
「孫レベルですけど…歳の差ありすぎですよ」
「勘違いするな。それはお前さんへの報酬じゃよ」
「報酬…ですか」
「そうじゃ、見せたかったのはこっちじゃ」
もはや伏せる気にもならなかったのか老人は有楽斎に一枚の写真を手渡した。
「これ、スイッチですね」
「この前お前さんの知り合い…いや、友達と言っておこうかの。その子に渡したスイッチじゃ」
「それがどうかしたんですか」
「あれは世界を元に戻すスイッチだったんじゃよ」
世界を元に戻すスイッチ……と言われてもあまりピンとこなかった。
「そうなんですか」
「そうじゃ」
「でもそれがどうかしたんですか」
「手渡した後に気付いたんじゃ。あれを少しだけ改良してお前さんに一仕事してもらいたいんじゃよ。今回は直接お譲ちゃんにいって返してきてもらうだけでいいんじゃ」
「そりゃまた簡単ですね」
その程度ならいいですよと有楽斎は携帯電話を手に握る。
「ちょっと失礼します」
「わしは茶でもすすっておくわい」
廊下に出て有楽斎は携帯電話を耳に当てる。コール音二回目で理沙の声が聞こえてきた。
『あ、今あんたの家の前だから切るわよ』
「え」
ぶつりという音が聞こえて今度はチャイムが鳴った。
「お邪魔するわ」
「あ、うん」
「これ、お昼の残り…お昼、お寿司だったから」
「うん…ありがとう」
なんでお昼のお寿司をわざわざ持ってきたのだろう、そして、なんでカッパ巻きだらけなんだろう…聞こうかと考え、やめた。
「あ、ところでこの前おじいさんに渡されたスイッチ、まだあるかな」
「え」
「ちょっと返してほしいんだってさ。今、家に来てるんだよ」
「悪いのぅ、二人で仲良くカッパ巻きを食べると言う状況に割り込んでしまって」
ニヤニヤしながら有楽斎たちを見ている老人を睨みつけて理沙は言う。
「そんなんじゃないんだからっ」
「すまんのぅ、すまんのぅ……さて、真面目な話じゃがこの前のスイッチを渡してほしいんじゃ」
そう言われて理沙は黙り込んだ。
「えーと、あれね。あれ、今頃雪の家で厳重に保管されているはずよ」
「え」
「とりあえず、あんた達が血眼になって探してたスイッチは此処にあるから」
ポケットから取り出した手のひらサイズのスイッチを取り出す理沙であった。