第144話:作戦懐疑
第百四十四話
有楽斎が家で一人寂しくオムライスを口にしている頃、榊家に集まった雪、理沙、美奈代、花月……そして真帆子は話し合いをおこなっていた。
「お寿司が出てくるなんて想像してなかったよっ」
お寿司が好きな真帆子は話し合いそっちのけでぱくついている。遅刻してきたというのに他のメンツより食べた量が多い。
それを横目で見ながら理沙は雪に疑問をぶつけた。
「で、なんで吉瀬の妹がいるのよ」
「今回の作戦の最終兵器って事だよ」
胸を張った雪に心底不安な理沙はため息をついた。
「……またわけのわからない事を……一般人でしょ。吉瀬でも連れてきたほうが戦力になるんじゃないの」
当然冗談である。まぁ、本気を出してもらえばかなり強いだろう。しかし、残念ながら有楽斎は敵側だ。
「今頃お兄ちゃん家で一人寂しくオムライス食べていると思うと呼んであげたいよ」
お茶を飲んで一息ついている真帆子はそうつぶやく。
「あ、じゃあお寿司持って帰ってあげるといいよ。理沙、入れ物」
「……奥にあるから勝手に取ってきなさいよ」
「わかった」
奥に行った雪の後ろ姿を見つめて理沙は頃合いを見計らう。
「え、今吉瀬先輩って家で一人って……ことだよね」
「うん、そうだよ」
「……呼んであげようか」
「んー、でもオムライスもう作っちゃってるって思うけどなぁ」
「そっか」
話しこんでいる美奈代と真帆子を尻目に理沙は部屋を出ようとしていた。
「あら、どこに行くつもり」
「別にどこでもいいでしょ」
「そうね、だけど行き先くらいは誰かに言っておいた方がいいと思うわよ」
「………余計なお世話よ」
「入れ物持ってきたよー」
奥から雪が戻ってくる。お寿司の残っているものから順に詰め込んでいく。もちろん、エビやマグロなんかは既に残っていない。
「ちょっと行って来るね」
「え、どこに」
「有楽斎君のところにこれ、届けてくるんだ」
やたらカッパ巻きが入っているのは何故だろう……そう思いつつ理沙は手を差し出した。
「……雪、私が行ってくるわよ。どうせ私の仕事は終わったんだし」
「え、でも…」
「真帆子が帰る時に持って帰るよ」
「いいわ、ちょっと吉瀬に用事が出来たから。それはそのついでで持っていくのよ」
さ、早く渡しなさいと手を出す理沙の顔を雪が覗きこんだ。
「何よ」
「なんだか怪しいなぁ」
「別に怪しくないわよ」
「じゃあこうしましょう」
二人の間に割って入ったのは花月だった。
「私が持っていくわ」
「え」
「うーん、それはそれでちょっと困ります…」
「雪がいなくなっても困るでしょ。雇主なんだし」
「それもそうだね」
「私は戦力にならないからしょうがないわ。後で子子子子からちゃんと話は聞いておくから安心しなさいよ」
「……」
「ほら」
「わかった」
「じゃ、行って来るわね」
中身の九割がカッパ巻きの入った容器を受け取る。部屋を出ようとしたところで理沙は美奈代に呼び止められた。
「待ってください」
「何」
「私も行きますっ」
「え、それはちょっと困る…かな。主戦力だし」
「どうせ相手に手の内は読まれていますから単純な囮しか出来ないと思いますっ」
謎の生命体(有楽斎)と闘ってきた美奈代だからそうかもしれないと雪は考える。現にこの前は追い詰められたとも話を聞いていた。
「……それもそうかぁ」
「そうね、美奈代ちゃんは居なくてもいいかもね」
じゃあお願いと言おうとしたところで真帆子が手を上げた。
「あ、それはそれでまずいかも」
「え」
「真帆子、美奈代っちゃんと遊んでくるってお兄ちゃんに言ってるんだ」
「あー、じゃあまずいかな」
「うん、まずいかも。シスコンの有楽斎君が聞いたらどうなる事やら…変な妄想するかも」
少しの間それぞれが想像してみた。
『え、嘘、美奈代ちゃんがこっちに来たって言う事はま、真帆子は…真帆子は一体誰と一緒に……く、きっとどっかの悪い虫が真帆子の事をたぶらかして……お、己、許せん、許せんぞーっ』
「……血の雨が降るかもしれないわね」
「吉瀬先輩が適当な人に難癖付けて返り討ちにあうでしょうね」
「うん、お兄ちゃん弱っちいから」
「そうかなー、いい線行くんじゃないかな」
「いや、あいつは無理でしょ」
肉体自体はひ弱であろう。体育の成績も悪いようだし、よく短距離走ではこけているところを理沙は目撃している。
「今度こそ行ってくるわ」
「気を付けてね」
「いってらっしゃい」
理沙は有楽斎の元へと向かう為、榊家を後にしたのだった。