第143話:中級魔法少女真帆子
第百四十三話
「ただいまー…」
台所へとつながる扉を開けるとそこにはピンクフリルの制服っぽい服を着て、魔法のステッキっぽい何かを握ってポーズを決めている真帆子がいた。エロ本を読んでいるところにやってきた母親の心境になってしまう。
「……お、お帰り、お兄ちゃん」
「ま、真帆子……何してるの」
「あ、あ、あ……こ、これはね、別に魔法少女に変身したとかそんなんじゃなくて……そう、コスプレだよっ。お兄ちゃんがこんなの好きだろうって思ってね」
「別に好きじゃないよ」
「そうだよね、そうそう、あっちで着替えてくるから覗かないでねっ」
「…覗かないよ」
おかしい、いつもだったら強引にでも迫ってくるようなものだし、着替え中も全然入ってきてオーケーとか言っているのに……そう有楽斎は思いながらねぎやジャガイモを冷蔵庫の野菜室に入れ始める。
ふすまのわずかな隙間から虹色の閃光が見えたかと思うと普段着の真帆子が出てくる。
「やけに早かったね」
「あ、そ、そうかな」
「うん、ぱっとみて複雑そうな着方をしないといけない感じだったんだけど……」
「あはは…私、脱ぐの早いから」
「いつも遅いじゃないか。遅刻しそうになった事だって結構あるよねぇ」
「低血圧で朝は弱いだけなのっ」
「そうかなぁ」
朝から元気いっぱいのくせに…これ以上真帆子が追及して欲しくないという顔をしているのでやめておいた。
「まぁ、趣味の事はとやかく言わないけどそれで外とか出歩かないようにね」
「わかってるよっ」
「もし、約束を破って外を出歩いた日には……僕、すっごく怒るからね」
「すっごく怒るってどのくらい怒るの」
「だから、すっごく怒るよ。もう、見た目変わっちゃうくらい怒るからね」
「まぁ、絶対に外には出ないから」
「よろしい、じゃあ今日のお昼はオムライスを作ってあげます」
「やったっ」
誰にだって隠し事の一つや二つ、あるだろう。有楽斎は包丁を取り出しながら思うのだった。
「真帆子、まな板とって」
「真帆子の胸はまな板じゃないよっ」
「……」
自分でまな板を取り出してため息をつく。そんな時、真帆子の携帯電話が鳴りだした。すぐさまそれを取って耳に当てると何かを思い出したようである。
「あ、そういえば今日美奈代っちゃんと遊ぶ約束してたんだったっ」
「え」
「ごめんね、お兄ちゃん」
「いや、それはいいけど…」
「じゃ、行って来るねーっ」
先ほどあったんだけどなぁ……話し合いがあるって言っていたし。きな臭いと思ってエプロンを取った。
「……やめとこ」
どうやらスイッチは理沙の家にあるようだし、野々村家を襲撃する事もこれから先ないだろう。
腕を出さないと言う理沙との約束を守るためにもデバガメ根性は出さないほうが身のためである。
もし、この時…有楽斎がすぐさま玄関外に出ていたら空を飛んでいく自分の妹を見る事が出来た。