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第140話:頼れる存在

第百四十話

 有楽斎の中間テストはまずまずの結果で終わり、クラスメートたちも各々の結果を見て一喜一憂していた。

 もちろん、テストの話で盛り上がる場所は教室だけではない。廊下、職員室、食堂……そして、部室でも会話の種として使用されている。

「御手洗先輩、今回は満点ですか」

 何気なくふったその話題を耳にして花月は有楽斎に顔をくっつける勢いで近づいてきた。

「今回も、全て、満点よ。言葉は正確に使わないと駄目よ」

「す、すみません」

 有楽斎から顔を放した花月は美奈代の方を親指で示した。

 聞け、ということらしい。

「美奈代ちゃんは……どうだったのかな」

「……ひどかったです」

「そう、それは残念ね。期末で頑張らないと冬休みは補習と追試でただでさえ少ない休みがお正月の三日間だけになるわよ」

「そ、それは……嫌ですっ」

 身体を起こして鞄から教科書を取り出す。今回のテストの復習を美奈代は開始するのであった。

「美奈代ちゃん、この前のテストは別に悪くなかったよねぇ…」

「はいっ、ですが今回……」

 ちらりと花月の方を見る。視線に気づいた花月は部屋を出た。

「話が終わったら呼んでね」

「すみません…」

「花月先輩に聞かれちゃまずいってことかな」

「えーっと、ですね。その、お仕事って言うか、義務って言うか、それでちょっと危ない目にあったんですよ」

「そっち関係の話って僕に話していいのかなぁ」

 有楽斎は自分を指差す。美奈代はこっくりと頷いた。

「先輩は夏の合宿の時にみられちゃいましたから」

「ふーん」

「まぁ、この前仕事でちょっと追い詰められちゃってそれをおじ…その仕事で私の上司に当たる人に知られてしまったんです。そのあと、修行って言うかなんっていうか、そんなのをやっていたせいで今回のテスト範囲を勉強する時間が削減されたのもあります…あと、授業中も居眠りしてしまって……」

 ああ、この前のあれかぁと有楽斎はため息をついた。それなら自分が元のはずだ。あの後は適当に勉強していつもの生活を送っていた。

「なんだか…ごめんね」

「え、き、吉瀬先輩のせいじゃないですよっ。むしろ先輩のおかげで助かったんですからっ」

「えーと、よくわからないんだけど」

「それは秘密ですっ」

 少女の笑顔がまぶしかった。まぶしすぎて直視できない有楽斎はいつものように伏し目がちとなる。

「あ、そういえばこの前理沙の家に行ったんだよ」

「そうなんですか…」

 先ほどまでの元気の良さはどこへやら。途端にしぼんだひまわりよりもひどい表情となってしまった。

「美奈代ちゃん、もしかして理沙と喧嘩でも…」

 したのかな、そうきこうとしたのだが部室の扉が乱暴に開かれた。

「ねぇ、いつまで待てばいいの」

「あ、すみません…もういいよね」

「……はい」

「美奈代ちゃん、さっきの続きだけど……」

「先輩、今日はなんだか気分が悪いので先に帰りますね」

 そういって美奈代は部室を出て行ってしまう。

「追いかけなくていいのね」

「……いい……と思います」



 その晩、部屋でゆっくりとしていた有楽斎の携帯に理沙から電話がかかってきた。美奈代ちゃんの事だろうなぁと思いつつ、電話を取る。

「……もしもし」

『ちょっと、吉瀬…子子子子が元気なかったわよ』

「あーうん、いや…あのさ、理沙って美奈代ちゃんと喧嘩したのかな」

『するわけないでしょ』

「そう……だよねぇ」

 喧嘩しているのなら美奈代の機嫌を理沙が知ることなどあり得ないだろう。大体、喧嘩している相手の事を気遣って電話をしてくることもないはずだ。

『…何か知らないうちにやったっていうのなら今度一緒に謝ってあげるわよ』

「うん、ありがとう」

 そのあとはとりとめのない話で一時間ほど時間が過ぎていく。

「あ、もうこんな時間か……」

『え、もうちょっといいじゃないの』

「いや、部屋の外から真帆子がすごい怖い顔で見てるから……あ、理沙…」

「何よ」

 ふと、背中から生える腕の痛みを覚えていたのでその事を理沙に話しておこうかと有楽斎は思った。ただ、腕が痛いと言ったら間違いなく心配してひと騒動起きるだろうと考えなおして続ける言葉を飲みこんだ。

「ううん、何でもない。じゃあおやすみ」

『そう、また明日、学校でね』

 電話を切ったところで真帆子が廊下にいる事に気が付いた。

「真帆子、どうしたの」

「……最近、あの理沙って人とずっと一緒だよね……電話もかかってくるしさぁ」

「え、まぁそうだけど……それがどうかしたのかな」

「……ううん、お兄ちゃんが自分の道を突き進むような人なら心配しなくていいもん」

 そういって真帆子の姿は消えてしまった。

「……自分の道を突き進む……ねぇ」

 最近ぶれ始めているのかもしれないなぁ……有楽斎は理沙の着信履歴の数を数えるのだった。


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