第14話:過去のお話
第十四話
「まぁ、観覧車に二人で乗ってよろしくやっている光景を全部双子の片方が見ていたりするわけだ、これが。その後は泥棒猫とののしられ始めるのだが見かねた有楽斎がそれをかばい、勘違いを起こす。最終的に刺されようとした双子をかばうために野々村有楽斎は刺殺されてしまうのであった」
友人の独壇場と化していたためか、他の人は彼を見かけるとすぐさま散って行った。ただ一人、話が終わるのを待っていた有楽斎が友人に尋ねる。
「気はすんだかな」
「もうちょっとあれだな、うん。有楽斎は双子の二人から恨みを買って……」
有楽斎は友人の事を諦めて続きを話し始めた。
「あいにく、女の子をいじめていた数人、しかも中心人物だったのが榊理沙だよ」
友人の頭の中に『おーほっほ、さぁ、貧乏人を虐げるのよっ』といった具合の浦島太郎図が成り立っていた。
「そりゃまた、すごい出会い方だな」
「そうだねぇ」
あの頃から理沙はそんな人間なんだよと一言、有楽斎はつぶやく。
「いろいろと事情があったけど、なにより女の子のほうがすごくこっちを見てくるから助けることにしたんだ。おとなしそうな子で、立ち向かうなんて出来なかったんだろうね。結局僕が万札束ねて、思いっきり理沙の頬をぶってやったんだ…なんで驚いたような顔してるのさ」
「おいおい、相変わらずすごいな。万札束ねて相手をぶつって、どこの金持ちだよ」
そういやお前は金持だったなと友人はつぶやいた。
「まぁ、そこは突っ込まないでよ。女の子をいじめていた数人は全部驚いたような顔をしていたけど、なにより里香が一番驚いているようだった。そして、次の瞬間に『あたしは榊家の娘よっ。あんた、自分が何したのかわかってるのっ』って食ってかかってきてね。周りの取り巻きも、そうだそうだって連呼していたんだ。周りの子供もちょっとした金持ちの子供だったんだろうね」
「ほほう、それでどうなったんだ」
「そりゃまぁ、『僕は野々村家の息子だっ』って言った。正解だったけど、失敗だったと思っているよ」
ため息を恨めしそうに吐きながら、有楽斎は続ける。そろそろ、昼休みが終わろうとしていた。
「相手は全員散り散りばらばらになって逃げて行ったし、助けた女の子は既にいなかった。残ったのは理沙だけだったけど泣いてたっけなぁ。今思えばざまあみろって言えばよかったと思っているよ。理沙も僕を睨みつけた後にすぐさま、逃げて行った。そして、その日の夜に父さんから電話があって『今日お前がぶった相手はお前の許嫁だぞ』ってね。これが理沙との出会いだよ。その後は何かと僕に絡んでくる今の状態が続いているってわけさ」
「じゃあ、双子の妹とはどんな出会いをしたんだよ。もっと壮絶な出会い方したんだよな」
「榊さんはねぇ、あっちもそれなりに面倒だったよ。何だろう、最初出会ったときは普通っていうかおとなしそうな感じだった。瓶底眼鏡って言うのかな、あれを付けておどおどしててまるで腫れものを扱うようにして僕に話しかけてきた」
「今は猫かぶりで男を統べるモノって通り名がありそうだよな」
「そうだよねぇ、彼女がそんな風になったのは卒業してからちょっとしてデートしてくれって頼まれた時だったかなぁ。派手な服装で眼鏡も外して僕の事を待っていたよ」
懐かしいな、といった顔はしておらず、ひどい目にあった、思いだしたくもないと言う表情だったりする。
「いろいろと歩いていたらたむろしている人たち見つけて挑発して、僕が殴られまくってね………あれほど意味がわからないのは初めてだったよ」
「だろうな」
「彼女の本性を知ってがっかり来たって言うのは覚えているなぁ……ま、こんな感じ。とりあえず普通じゃないって言うのがわかってもらえたと思うよ」
「お前って意外と苦労してるんだな」
「そうだね、僕が苦労しているっていうかあの二人が僕に苦労させてるって言ったほうがいいかもしれない」
身体中にたまっている不幸を、ため息で出していますと言わんばかりの重たいためいきだった。
「最後にさ、家に帰ってきて、留守電が一件あったんだ。それを押したら『うん、合格』って、それだけだった」
「何が合格だったんだろうな」
「さぁね、僕は全く興味なかったから。それから一週間ぐらいは料理の味がよくわからなかったし、寝返りを打つたびに怪我が痛かったのを覚えているよ。介護に来たとかいって榊さんは僕を全身ミイラ男にしていたし、遊ばれていたとしか記憶がないね」
嫌になっちゃうよと有楽斎はため息を三度つくのだった。友人は何かを考えているのか先ほどから唸っている。
「どうかしたの」
「いやぁ、ほら、お前が双子姉の魔手から助けた女の子はどこに行ったんだろうな」
「さぁ、今頃どこかで平和に暮らしているんじゃないかなぁ」
「惜しかったなぁ、フラグ確定だっただろうに」
「なんだよ、フラグ確定って」
詳しく尋ねようとしたところでチャイムが鳴り響く。最後に、友人は有楽斎の肩に手を置いて言うのだった。
「神様はお前にもっと別の女を紹介してくれると思うぜ」
「どうだろうね」
僕、無神論者だから。有楽斎はそういって教科書を取り出すのだった。
―――――――
「はぁ、有楽斎君とはそんな出会い方してたのね」
さて、これはファイルに書き込んだほうがいいのかなと悩んだ末に一応、書いておくことにした。付属の呼びファイルですと告げれば許されるであろうからだ。
「そうよ、だからあんたみたいなのがちょろちょろしていると目ざわりなの」
「目ざわりって言われてもなぁ」
こっちはこっちで好きでやっているわけではない。仲良しで一見すると通っていると思っているのかもしれないが実際のところ、調査される側と、する側に分けられているのである。情が移るからあんまり仲良くするなと言われているのも事実である。
「今日は警告をするためだけに来たんだから。今度、金づると一緒にいるところを見かけたら覚悟することね」
一方的にそれだけ告げると双子の片方は出て行ってしまった………一人だけ残して。雪にとってもう一人の存在も当然知っていたのだが違いがよくわからなかったりする。
「あの、貴女は帰らなくていいの」
「好きなタイミングで帰る。あなた、なんでうらちゃんに近づくの」
しっかりとこちらを見ているようだが焦点があっていない。どうやら視力が悪いようだ。
「近づくも何も、私は近づいてないから。やりたいなら好きにやればいい。私には関係ないことだから」
「………」
榊里香は好きなだけ雪を睨みつけた後に立ちあがった。特に何かをいうわけでもなく、彼女は静かに出ていく。
「な、何だったんだろう」
雪のつぶやきは家の主がいない純日本家屋の梁に消えていった。