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第139話:屋上にて

第百三十九話

 しっかりと張られた結界の中、妖魔を絶つ為に鍛えられた少女と中途半端な存在である少年が戦っていた。

「よしっ、今度こそとったぁあっ」

 覆面レスラーの顔をした雪だるま。さらには鬼のような角を生やして背中から六本の腕をはやした化け物がくぐもった声を上げる。

「くぅっ」

 場所は近所の人から野々村大屋敷と呼ばれる場所だった。時折叫び声と怒号が聞こえてきたり、警察が来たりと問題を起こしている場所でもある。

 そこに襲撃をかけていた有楽斎は数度目の襲撃の後、ようやく子子子子美奈代を六本の腕の一つで捕らえる事に成功したのだった。

 しかし、捉えたところでどうするべきか考えていなかったりする。このまま目的の物を探しまわるのもおかしいだろうし、何処かに放り出したとしてもすぐまた襲ってくるだろう。

 地上八メートル、そこまであげられた美奈代は歯を食いしばりながら自分の最期を考えると叫ばずには居られなかった。

「た、助けてください吉瀬せんぱーいっ」

「…え」

「ちょ、ちょっと何言ってるの子子子子っ」

 もうひとり、野々村家の守備を担当していた少女が相方に叫んだ。ちなみに、美奈代の相方である榊理沙はすぐに有楽斎の魔の手に堕ちていたりする。

 まさか助けを求めている本人につかまっていると美奈代は思っていないだろう。ただ、そう言われて美奈代をどうにかする気力は一気にそがれてしまい、あろうことか一度捉えた獲物を手放すのであった。

「す、隙ありっ」

「くっ」

 有楽斎が手を放した瞬間を見逃さず、美奈代は腕を切り刻む。一本腕を失った有楽斎はあっという間に撤退を始めた……理沙を掴んだまま。

「あんたねぇ、何考えているのよっ」

「その……ごめん」

 学校の屋上、有楽斎は自身の巨大な手で後頭部を掻いている。

「美奈代は本気で来てるのよっ、さっきのもしかしたらあんたの胴体が分かれていたかもしれないんだからねっ。しかも、助けを請われたぐらいで手を放すなんて……」

「いや、だってさぁ…」

「おー、おー、少年、今回は人質を連れて来たのか」

 突如として有楽斎の隣に現れる忍者を見て、有無を言わさず理沙は殴りかかった……が、有楽斎に抑えられる。

「どうどう」

「あんた、放しなさいよっ。あれがあんたを脅している相手なんでしょ」

「なんじゃ、人質じゃなくてお前さんの事を詳しく知っている相手か」

「まぁ、そんなもんです」

「彼女か」

「違いますっ」

「そんなにすぐさま否定しなくてもいいじゃないのよっ。あたしじゃ不満ってわけね」

「いや、そうじゃないけど……あー、話が進まないから」

 へそを曲げた理沙をとりあえず六本の腕で押さえておくことにした。

「あの、まぁ、色々とありましてこの子…榊理沙って言うんですけど。野々村家に関係している人です」

「そうかぁ。じゃあ内部の人間と言う事じゃな」

「まぁ、そんなもんです」

 理沙の方を見るとふんっとそっぽを向かれてしまう。

「今回はちょっと偶然連れてきちゃいまして…」

「そうかそうかじゃあ『世界を変えるスイッチ』の事を知っておると言う事じゃな」

「やっぱり、こいつが原因なのね」

「いや、原因って言うかなんっていうか……」

 どう説明したらいいのか悩んでいる有楽斎に代わって老人は口を開いた。

「あれを作ったのはわしじゃよ」

「は…」

「一年前ぐらいになるかのぅ、作って台所においたはずなんじゃがある日、なくなっておった」

「それがどうしたのよ」

「信じたくない話じゃ。どうやら誰かがスイッチを押しておるようじゃな」

「…なんですって」

「それって本当なんですか」

 理沙と有楽斎は老人の方をじっと見る。老人は二人からの視線を受けてこっくりと頷いた。

「そうじゃ。スイッチがある場所は変わらんからな。押したのは野々村家に関係しておる誰か……」

「押した人には記憶とかあるんですか」

「ないじゃろうなぁ」

「じゃ、じゃあ、理沙が押したって言う可能性も…」

「無きにしも非ず、無論、お前さんもそうじゃよ。この前野々村家の庭から出てきたって言っておったじゃろ」

「言いましたけど…」

 肉体と精神に分かれた時の事を思い出す。あれ以降、身体…正確に言うなら背中から生えている腕の調子が悪くなる事が多い。それも何か関係しているのだろうか。

「今回はあの庭の隅に置いてある墓石を調べて来たら面白い事が書いてあったぞ」

 どこから取り出したのか不明だが、老人は粗末な石をコンクリートの上に置いた。それにライトを当てて理沙がかすれた文字を読み始める。

「……野々村……有楽斎、此処に眠るって書いてあるわね。この石にこんな事が書いていたなんてねぇ」

「そんな馬鹿な……」

「ともかく、あくまでそれは今では関係のない代物じゃ。誰かに再びスイッチが押される前に回収せねばならん。先に言っておくが見つけたら即壊そうとしてはならんぞ」

「……わかりました」

「わかったわよ」

「ああ、そうじゃ。少年はちょっと耳をふさいでくれ」

 黙って老人の指示に従うと満足そうに理沙のところまで歩いて行く。そして、スイッチを取り出した。

「これ…何よ」

「とっておきじゃ。お前さんがわしの話を信じて世界を変えるスイッチを手に入れた場合はこれを代わりに置いておいて欲しいんじゃよ」

「…あんたの話なんて信じるわけ……」

「そうか、交渉は決裂か。いいんじゃよ、別に。これまであの少年がどこを襲ってきたのか、しかるべき場所に書類を渡ったとしてもそれは身から出た錆じゃろうて」

 いやらしく笑う老人に理沙は唇をかみしめた。

「わかったわよっ」

「賢い子は好きじゃよ……少年、耳ふさぐのをやめていいぞい」

「わかりました」

 そういった有楽斎に老人は笑いかける。

「耳をふさげと言ったじゃろう」

「聞こえてくるものは仕方ないですよ」

「まぁ、いいかのぅ」

 ほっほっほと笑ったところで老人の姿が見えなくなった。

「あのじじい、何者よ」

「さぁねぇ」

「ともかく、帰るわ。ほら、さっさと屋上から降ろしなさいよ」

「うん」

 機嫌も直ったようだしさっさと帰ったほうがよさそうだと有楽斎はため息をつくのであった。

「……世界を変えるスイッチが誰かに押された……ねぇ」

 にわかに信じがたい事だなぁ、そう思いつつ有楽斎は今一度野々村家に置いてあった墓石を見るのだった。


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