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第138話:兄として

第百三十八話

 二学期の中間テストも気が付けば差し迫ってきている。運動会、文化祭と続いていた為に生徒の方が油断していた……というわけでもない。先生側の中にも慌ててテスト作成などに取り組み始めた人もいるのだ。

「秋の夜長は勉強に最適とか、まぁ、時間帯的には夕方と夜の間の逢魔時って感じだけどなぁ。俺、人生初の妖怪に出会っちゃうかもしれん」

「いや、会わないと思うよ。というか、さっさと終わらせないと先生という妖怪に出くわしちゃうからね」

 そういって有楽斎は筆を進める。

「本当……面倒だよなぁ。真帆子ちゃん連れて遊びに行きたいぜ。可愛い女子と一緒に居残り勉強なら色々とはかどりそうなものなんだがなぁ。やっぱり真帆子ちゃんを連れてくるかな」

 居残り勉強を行っている有楽斎の表情は怖い。

「はは、友人にはそこらへんのお地蔵でも連れてどこにでも行くがいいさ。嫌なら野良ネコでも連れてくればいいよ」

「おいおい、相変わらず真帆子ちゃんに近づこうとするとお前は怖いな」

「無論だね。真帆子に悪い虫が付くと言うのなら本気で、そう、鬼になってでも止めて見せるさ」

 拳を固く握りしめて有楽斎は宣言するのであった。そんな燃える兄貴の背中に友人は以前から抱えていた疑問をぶつけてみる事にした。

「お前さぁ、何でそんなに妹に熱心なんだよ。双子の姉は俺の事、空気のように扱って、ノータッチ、そして無関心なんだぜ」

「ん、ああ……色々とあったんだよ」

「へぇ、なんだそりゃ。詳しく教えてくれよ。心に染みいるようで素晴らしい話なら真帆子ちゃんの心に入りこめる何かを見つける事が出来るかもしれない」

「……友人……」

「冗談だよ、冗談」

 シャーペンをくるくる回す友人に負けじと有楽斎もシャーペンをまわす。

「お前のそれ、腕まわしているだけだからな」

「シャーペンも一緒に回っているから結果は一緒だよ」

「いや、違うから。そんなことより回想でもなんでもさっさとしろよ。気になって勉強がはかどらねぇよ」

「わかったよ」

 ひとつ咳払いをして有楽斎は口を開く。

「…昔は僕もそんな感じだったんだよねぇ。というか、真帆子の事が気に食わないって言うか、いなくなればいいなぁって思っていた事もあったんだよ」

「おお…殺伐としてるな」

「僕が真帆子の家の子になったのは小学校一年生の頃。母さんはまー、なんっていうか僕の事が嫌いな感じでね。今と変わらないけど仕事に生きている人だから表立って僕に何かする時間もないし、たとえ家にいたとしても仕事をしていたから何かをされたわけでもなかったよ」

「え、何だよお前…真帆子ちゃんと血がつながってないのか」

「まぁね。血はつながっていないけど心は繋がっているってやつさ」

 そう言うと友人は鼻をつまんだ。

「臭いぞ」

「うるさいな。とりあえず連れて来られて一カ月。世話をするように言われた真帆子の事が邪魔で邪魔で仕方がなかった。真帆子は今と変わらず僕の後をずっとついてくるような子でね…」

「おお、そうなのか…でもついてくるのなら可愛いものだろう」

「そう、なんだろうけどね。当時の僕は僕であって僕じゃなかったって言ったほうがいいのかな。ともかく、説明できないような怒りの頂点と、真帆子が偶然って言うか滅多に買ってもらえなかった僕のお菓子を食べたのさ」

「くっだらねぇことで切れたんだな」

「……友人に言われるとイライラするけど事実だね。そうだよ、僕はたかがお菓子を食べられただけで真帆子を押し入れに閉じ込めたんだ。真夏、押し入れのうず高く積まれていた押し入れの中にね…僕は真帆子に『絶対に出るなっ』って言って閉じ込めた後、遊びに行ったんだ」

「お前ひっどい兄貴だなー」

「そうだねぇ、でも当時はそれですっきりしたんだよ。何せ、いつも面倒見ているお荷物がいなくなったんだからね。夕方、偶然に偶然が重なったのか知らないけど僕が家に帰って来た時、真帆子はいなかった。代わりに珍しく今の母さんがいて帰ってきていたんだ………仁王立ちしてね」

「それで、どうなったんだ」

 先ほどまで聞こえていた部活動の声は聞こえてきておらず、そろそろ練習をやめたようだった。本格的に夜が顔を見せ始めている。

「どうなったもなにも、真帆子は熱中症だったか何かで病院に送られたんだよ。母さんに何度も何度も泣かれながらぶたれたね。今の僕らにとっても熱中症は危険だけど子供のかかる熱中症の方がもっと危険だよ」

 そこで一旦有楽斎は黙り込んで何かを聞いているようだ。誰も使用していない会議室、その前の廊下を誰かが走る音が聞こえてきた。

「奇跡的にって言うか、真帆子は助かったよ」

「よかったな」

「そうだね。すぐに押し入れから出てくるって思っていたから別に出られないようにしていたわけじゃないけど、真帆子は出なかったんだ」

 首をかしげ、なんで俺のプリントは真っ白なままなのだろうと思いつつ、友人は訪ねる。

「なんで真帆子ちゃんは自分で出なかったんだろうな」

「僕にも疑問だったよ。ただ、白いベットに寝ている真帆子に『ちゃんと言いつけ守ったよ』って言われた時は何故か知らないけど涙が出たね。それから真帆子の面倒をみるのが苦にならなくなった」

「……そんな事があったのか」

「そうだよ。これでこの話はおしまい」

 有楽斎は立ち上がり、そんな彼を見て友人は首をかしげる。

「トイレでも行くのか」

「いや、僕は帰るよ」

「え、なんでだよ。居残りのプリントはまだあるだろ」

 有楽斎はプリントを友人に見せて口元を歪めた。

「話しながら解いてたのさ。今日も僕が料理を作らないといけないからね」

「頼む、そのプリントを見せてくれっ」

「駄目だよ」

 友人にプリントをさらわれないように掴みなおし、有楽斎は『金ならいくらでも積むっ』と叫ぶ友達を見捨てるのであった。

 職員室でプリントを渡した後、下足箱へと向かう。人の気配を感じて振り返るとそこには真帆子が立っていた。

「お兄ちゃんっ」

「真帆子、こんなに遅くまでどうしたの」

「へへ、ちょっとお兄ちゃんと帰ろうと思って」

「ふーん、じゃあ帰ろうか」

「うんっ」

 美奈代の歩くペースを乱させることなく、有楽斎は隣を歩く。

「ねぇ、変な事聞くけど……お兄ちゃんは真帆子のお兄ちゃんだよね」

「そうだよ。真帆子のお兄ちゃんだよ」

「そっか、そうだよね。なんだか最近お兄ちゃんが隠し事をするようになった気がしてさ」

「……」

 有楽斎は黙って一番星を見つめた。

「そうだね、昔っから僕は真帆子に色々と隠し事をしているよ。真帆子が知らないだけさ」

「え…」

「あれとかあれとかあれとか。真帆子も少しぐらい僕に対して隠し事をしているだろう」

「う……うん。で、でもね、いつか絶対にお兄ちゃんに全部話すから…」

「そうかい、それじゃあその時僕も隠し事はやめる事にするよ」

 有楽斎はそういって真帆子に笑いかけた。珍しく照れたような顔をして真帆子は顔をうつ向かせるのだった。


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