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第137話:榊家訪問

第百三十七話

 時折誰かの視線を感じながら有楽斎は榊家へとやってきた。曲がり角に素早く曲がったあと、先ほどまでいた通りを見ると猫が一匹いただけだから気のせいかもしれない。

 挙動不審な感じで有楽斎は榊へやってきた。

「意外と大きいなぁ」

 野々村家に比べれば敷地面積的にかなり狭いだろう。ただ、一般人が住むような家に比べれば充分大きい。

 洋館と言った感じのところで天井は高そうだ。きっと二メートルの大きい人でも楽々扉をくぐれるような作りであることは間違いないだろう。

 外門に取り付けられていた呼び出し鈴を押すと五メートルほど離れた扉が開く。

「来たわね」

 両手を腰に当てて胸を張っている。少女の小ささが家の大きさもあってさらに小さく見える。

「うん、来たよ」

「ここで話すのもあれだから中に来なさいよ。パパとママは仕事でいないから」

 パパとかママとか……日本人だったらお父ちゃんとお母ちゃんだろうがあああ…なんて叫ぶ事もなく、有楽斎は榊家にお邪魔するのであった。

「広いね」

「そうかしら」

 別に普通だと思うわよ……ここで一般人と金持ちの差を見せつけられる。

「洋館っぽいんだね」

「…私が幼稚園を卒園してここに引っ越してきたの。雪の家みたいなほうがよかったんだけど私が建てた家でもないわ」

「へぇ、もとからあったんだね」

「そうなるわね。さ、あんたが家屋意見なんてしなくていいから掃除してよ」

 理沙に案内されて部屋へとやってきた。

「………開けてもいいのかな」

 一応、女子の部屋である。勝手に開けて後からパンチなりキックなり両手からビームっぽいものが自分を襲うとなると簡単には開けられない。

「開けないと掃除できないでしょ」

「そうだね」

「言っておくけど、別に私が散らかしたわけじゃないんだからね。必要だったらしょうがなかったっていうか……もとはと言えばあんたが悪いのよ」

「え」

「いいから、さっさと開けなさいよっ」

 有楽斎は疑問に思いつつも扉を開けた。

「………うわぁ」

 人一人が何とか通る事の出来る細道。奥の方にはベットに続いている。これが本当の奥の細道だろうと有楽斎は考えた。細道は二股に分かれており、もう一つは机に続いている。

「すごいね」

「感心してくれてありがとう」

「いや、別に感心してないから」

 落ちていた一冊の本を拾う。部屋を埋めているものは本、巻物、書類だった。

「何これ」

「……仕事関係のものよ」

「仕事…ああ、意外と熱心なんだね」

「意外とって何よ。あんたにはわからないでしょうけどすっごく危険な事なんだから。大体、すご腕揃いの野々村関係の施設をたった一人で突破したなんて最初は悪い冗談だと思っていたわ」

 ちらりと有楽斎を見てためいきをつく。

「……実際は女の子の事しか頭にないアホだったとはね。必死になって調べまくった私が馬鹿みたいじゃない」

「なるほど、つまり僕の対策を練ろうとしていたわけだね」

「……半分はね」

「え」

 残り半分は何なんだろう…優しさかもしれない。有楽斎はそう考えて風邪薬と一緒んなんだなと一人納得していたのだった。

「残り半分、ベットに近い方はあんたの身体についている腕を消す方法よ」

「あ、優しさじゃないんだ」

「は」

「いやいや、こっちの話だよ」

 慣れた足取りで理沙はベットへと近づいて一冊の本を手に取った。

「あんたが妖怪なのかそれとも未確認生命体なのか宇宙人なのかは知らないけどどうにかしてあげようと思ったのよ」

「どうにかって…別にこのままでもいいよ」

 六本の腕が理沙の部屋で動きまわり部屋の片づけを既に開始している。右と左で一ペア、有楽斎も入れて四倍の速さで部屋が片付いて行く。

「ほら、掃除とか便利だし」

 部屋の片づけも半分ほど終わり、本棚にきれいに敷き詰められていく。

「……もし、その姿を誰かに見られてその人物が野々村家の関係者だったらどうするのよ。あんた、ただじゃ済まないわよ」

「まぁ、そうかもねぇ」

「あ、だけど無くなったら今吉瀬をを脅している人物が秘密を知りすぎたとかいって吉瀬の事を消そうとするかも」

「消そうとするかもって……そんなことありえないよ」

 最後の一冊が有楽斎の手によって本棚へと戻され……なかった。

「何これ」

「アルバムよ。そうか、そこにあったんだ」

「見てもいいかな」

「特に面白い場面なんてないと思うけどみたいならみるといいわ。一応、あんたもお客様だからお茶持ってきてあげる」

「ありがとう」

 サイドテーブルも見つかり、有楽斎はアルバムを開いた。一枚目の写真は赤ちゃんから始まっていたりする。そして徐々に成長していき、何となく面影が残っているようだ。

「昔は可愛かったんだなぁ」

「昔はってどういうことよ」

「うわ……早かったんだね」

 ごまかすように次のページへと進める。洋館の前で家族写真を撮ったもののようだった。

「この頃ね、ここに越してきたのは」

「ふーん……あれ、次のページは泣いているようだけど……『近所の男の子に初めて喧嘩で負けたようです』かぁ。今だったら絶対裁判沙汰だろうねぇ」

「思い出した…札束で顔を殴られたんだわ」

「うわ、そりゃまた子供のくせにそんな嫌なことをするなぁ」

「……あんたにそっくりな顔をしていたわよ」

「他人の空似ってやつだね、きっと」

 これ以上何かを言われるのも嫌なので有楽斎は続きのページをめくって行く。

「お、高校生になったところだ。もう代わり映えが無いね」

「何よそれ」

「いや、今と表情とか変わらないなぁって」

「あんたがこっちの高校に入学していたら面白い騒動とかあったかもしれないわねぇ」

「そうかなぁ…」

「今度、あんたの洟垂れ小僧のアルバム見せなさいよ。私の見たでしょ」

「ん、んー…僕のアルバムはないかな。真帆子のアルバムならたくさんあるよ」

「なんでよ」

 有楽斎は頬を掻いてため息をついた。

「なんっていうか、小一の頃からならアルバムは一応あるんだけどね」

「あっそう、それならそれで構わないわ。今度見せなさいよ」

「わかったよ」

 そういった有楽斎の腕を掴むと理沙は立つように言うのだった。

「今度はどうしたの」

「あんたも一応友達だから一緒に写真撮ってあげるわ。薄いアルバムの最後のページにちゃんと入れておきなさいよ」

 その日、有楽斎は一枚の写真を理沙と共に撮った。しかし、有楽斎のアルバムに写真が増えることはなかった。


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