第136話:処置と花火
第百三十六話
「本当にすみませんっ」
場所を野々村家に移して理沙が美奈代に説明を終えたところで有楽斎に頭を下げた。真帆子はよくわかっていないようだったのでそのまま黙っておくことにした。まぁ、お兄ちゃんが戻ってきたからそれでいいかと考えているようだ。
「よくわからないけど誰も怪我しなくてよかったよ」
本人は一度消滅した。しかし、実に寛大な対応だろう。まぁ、有楽斎としては実感がわかなかった、普段美奈代と対峙していると言うのもあったりする。
「助けてもらった挙句に赦してもらえるとは虫が良すぎますっ……私、吉瀬先輩の頼みなら何でも聞きますからっ」
「うーん、でもなぁ…」
理沙の方をちらりと見ると好きにすればいいじゃないといった視線を向けられる。
「……じゃあ今日の晩御飯を美奈代ちゃんが作ってくれないかな。真帆子、それでいいよね」
「え、私はお兄ちゃんがいいならそれでいいよ」
「美奈代ちゃんの料理の腕前を見てその技術を盗むんだよ」
「うんっ。美奈代ちゃん頑張ってね」
「任せてよ真帆ちゃんっ」
「子子子子、私も呼ばれるわ」
「あ、じゃあ私もっ」
花月も呼ぶべきだろうと電話をかける。
「……あれ、おかしいな」
電話は一向にコール音。花月にはつながらなかった。花月抜きの五人で夕飯を食べた後、少し時期が遅れている花火することにした。
花火の後片付けを賭けた線香花火時間耐久一本勝負で真っ先に有楽斎と理沙の火が地に落ちた以外はこれといって面白い事はなかった。
「……吉瀬、あんた年下いじめるのが好きなのね」
雪達はお風呂に入っている為に今は有楽斎と理沙だけがその場にいる。
「いや、そんな趣味はないよ」
「じゃあ夕方のあれはどう説明するつもりよ」
「………」
悦に入ったような笑顔を思い出す。確かにあれは楽しそうな表情だった。
「うーん、あれは遊んでいるつもりだったと思うよ」
「……どういうことよ」
「いや、だからああやって遊んでいるつもりだったんだと思うよ。というか……そんなこと僕がわかるわけないじゃないか」
「それもそうねぇ。変な騒動だったけど楽しかったわ」
僕はひどい目に会ったと思うけどね、そういって有楽斎は水の入ったバケツをひっくり返した。
「……あのさ、吉瀬」
「何」
火が付かなかった役立たずの花火をまとめてゴミ袋へと突っ込む。彼らの先っちょに火がともされることなんて今後一切ないだろう。
「私、あんたに会えてよかったと思うわよね」
「いきなりどうしたの」
「明日、私の部屋の掃除させてあげるから」
理沙は有楽斎を残して野々村家の中に入って行く。
「………」
「吉瀬先輩」
声のした方を見るとライトの当たっていない場所に美奈代のサンダルが見えた。
「な、なんだ美奈代ちゃんか……どうしたの」
「今、榊先輩と何の話をしていたのですか」
「え…」
何の話をしていたのか、そんなものは決まっている。
「理沙の部屋を掃除させてあげるって言う話をされたね」
「………榊先輩、知り合いと言えど部屋に連れて行ってくれないんですよ」
「そうなんだ。美奈代ちゃんは行ったことあるのかな」
「ないです」
美奈代は何かを言おうとして口を閉じる。
「どうか……したの」
「なんでもないです」
そういって美奈代は有楽斎に背を向けるのだった。