第131話:消えた有楽斎
第百三十一話
地下室があるのではないかと近隣の噂になっている野々村大屋敷。その大きな屋敷の隣には吉瀬家という隣家がある。
野々村屋敷の隣に建てられたその家は元来お手伝いさん達の家だった。その歴史も以前のもので数ヶ月前に借り手がついた。
子供が二人、兄と妹。仲睦まじく過ごして居てそれなりに野々村家の娘とも仲良くやっていた。
しかし、十月が近づいてきたある日、事件が起こった。
何が原因なのか警察にもわからなかった……いや、知る事が出来なかった。近隣の住民の『爆音が野々村さんの家からした。これはもしかしたら何かしらの事件じゃないかと思ってすぐさまむかったのだが突き返された。詳しい事を知りたいのでぜひ警察にいってもらいたい』といった連絡を受けて警察が向かったのだ。
警官が到着した時点でパジャマ姿の野々村家のお手伝いさん達が何でもないと警察を返したのであった。もちろん、ただで返すわけにはいかないのでお土産を渡して帰ってもらっている。
爆音がとどろいたと噂された次の日の早朝、元気のない子子子子美奈代は吉瀬家にやってきたのであった。
「じゃ、じゃあ行ってきます。雪先輩はどうぞ学校へ」
「う、うん、気を付けてね」
野々村家の庭から吉瀬家へと向かう。昨夜の秘技はさすが、秘技というだけあって塀を破砕し、家屋の壁も貫通、鋭利な何かで切り落とされた便器……そして、瓦礫と化した誰かの部屋を日に当てるようにしていたのだ。
「お、おじゃましまーす」
壊れたトイレの扉を踏みながら吉瀬家に侵入する。廃墟に入りこむ気持ちだ。
「ん……あれ、美奈代っちゃん」
「あ、お、おはようっ、真帆ちゃん」
廊下にはパジャマ姿の真帆子が立っていた。美奈代の姿を見て首をかしげる。
「あれ、なんで美奈代っちゃんが真帆子の家にいるの」
「えっとね、昨日の晩野々村家の庭でちょっと色々あってね、事故って言うか、真帆ちゃんの家に当たっちゃいけないものが直撃しちゃって……電話とかもしたんだけど、誰も出てくれなくて実際に見に来たの」
何故、野々村家の人が来ないのか……といった質問が寝起きの真帆子にわかるわけもなく、そうなんだと頷いていた。
「昨日は饅頭食べてすごく眠くなってそれ以降起きてないからなぁ……」
「えっとさ、この部屋は誰も使ってないのかな」
瓦礫の山で扉が壊れ、埋もれている。中を見るにはこの扉をどけるしかないだろう。
「……この部屋、お兄ちゃんの部屋だっ」
その瓦礫を見て真帆子はあわてて扉をどかそうとした……が、重くてびくともしなかった。
「えっ」
「お兄ちゃんっ」
部屋の中にいるであろう有楽斎を読んでみるが全く反応はなかった。
「き、吉瀬先輩がこの中に……真帆ちゃん、私応援頼んでくるっ」
「うんっ」
美奈代はあわててトイレから外へと出て野々村家へと向かう。真帆子は瓦礫を手でどかそうとするも瓦礫はどれも重く、なかなか動いてくれなかった。
その日の午後、有楽斎の部屋の瓦礫は全て撤去された。しかし、肝心の有楽斎が見つからないという事態に陥っていた。
「……吉瀬先輩…」
「じゃあお兄ちゃんはどこに……」
「吉瀬君が行方不明か……」
「有楽斎君……」
どこかに泊まりに行ったのか、それとも武者修行の旅に出たのか誰にもわからなかった。ただ、一人だけ顔を青くしている人物がいただけである。
「榊先輩、顔色……悪いですよ」
「べ、別に悪くないわよっ」
美奈代のあれを喰らって有楽斎が消滅した……そうとしか考えられなかった。
「とりあえず吉瀬先輩の事は警察とかに任せて私たちはまた襲ってくるかもしれないですからそっちに備えましょう。今度は結界ちゃんと張ってくださいよ」
「…そうね、私が悪いのかも……子子子子、悪いけど吉瀬が見つかるまであんたとは組めないわ」
「え……」
理沙はそれだけ言うと有楽斎の部屋を後にするのであった。




