第128話:紙芝居希望
第百二十八話
文化祭の委員会を決める事になった。今回は運動会の委員を決めるときみたいに三種類の奥義を繰り出して死闘を演じるじゃんけんではない。
「普通に推薦だ。前回のじゃんけんは全員に文句を言われたからな」
霧生がそれだけ言って教室の端の方に移動する。
「じゃあこの後は俺が進行役だから」
そういって出てきたのは源友人。
「自薦他薦問わないから手を上げてくれ……ああ、誰も手を上げない状態で一分経ったら吉瀬有楽斎君を推薦、んで、それから勝手に決定するぜ」
有楽斎の方を見てにやっと笑う。中指突き立てて睨んでやろうとかと考えるも、周りの視線が気になるので黙っておいた。
「有楽斎君、やるの」
「いや、遠慮しておくよ……」
「私、やろうかなぁ……男子一人、女子一人だからさ、よかったら……」
雪が最後まで言おうとした言葉は別の女子の声がしてくる。
「はいっ、やりますやりますっ」
「お、じゃあ女子は決定っていうことで…男子は……」
「男子は友人君がいいっ」
「は……」
先生の方を見る友人。帰ってきたものはお前がやるようにという視線だったのでしぶしぶ黒板に名前を書いた。
「えー、文化祭クラス委員は見事に決定しました」
我、不満なりという表情をしている。しかし、決まったものはしょうがないだろう。
「今回は早く決まったね。ところで雪さん、さっき何を言おうとしていたの」
「……いや、な、何でもないよ」
首を振って黒板の方へと視線を動かすのであった。
「…何なんだろ」
いまいち理解できない有楽斎も黒板の方へと視線を向ける。
「じゃあ次は何をするか、これを出してほしい」
待ってましたと言わんばかりの乱痴気騒ぎが始まる。お祭りごとが好きなのだろう、運動会でこのクラスの生徒たちは殆どの競技で上部に食い込んでいる。共に闘った味方、そして敵対した者たちからは『修羅が舞い降りたような戦いだった』と恐れられていた。
おばけやしき、喫茶店、休憩所、文では書けないあんなことやこんなことをサービスする所などなど……高校生の範疇で文化祭を盛り上げようと各々考えていた。
そんな最中、凛とした声で周りの注目を集める一人の少女がいた。
「紙芝居っ」
「へ」
「紙芝居を出しものとしてやりたいですっ。ねぇ、みんなも紙芝居がやりたいよねぇっ」
「ゆ、雪さん、どうしたの」
有楽斎は突如立ち上がって『紙芝居っ』と叫び出した隣人に質問をしてみた。正直、そんなに紙芝居がしたいなら路上で勝手にすればいいのに……と思ったりした。
「有楽斎君もしたいよねっ」
「え」
睨んだだけで相手を射殺しそうな視線だった。何かフラストレーションでも溜まっているのか、それとも紙芝居を心の底から渇望しているのかわからない。肯定的な態度を取っておかないと後で凄腕のスナイパーを呼ばれそうであった。
「あー……う、うん。いいんじゃないかな、紙芝居」
「他のみんなもやりたよねっ」
もちろん、周りの生徒たちもあまりの恐さに頷いておいた。
「え、えっと。じゃあ俺達のクラスは全員紙芝居がしたい……ということでよろしいんでしょうね」
担任の霧生へと視線を動かしたが『お嬢様がいうんじゃ仕方が無い』と言わんばかりの表情で頷いておいた。
「じゃあこれから抽選に移ります」
「え」
雪が首をかしげているので有楽斎は説明する事にした。
「公平性っていうか……クラスの全員が何をしたいか紙に書いて箱の中に入れるんだよ。それでクラス委員が箱の中に手を突っ込んで一枚手に取る……多数決に飽きたからってそれにするって霧生さんが言ってたよ。雪さんは説明するときいなかったからさ」
すごく怖い表情で雪が霧生を睨んでいるようだった。視線を投げかけられていた霧生は窓の外を眺めるふりをしている。
「みんな、みんなさっき紙芝居がしたいって雰囲気だったよねぇ」
ぐるりと教室を見渡すも、誰も顔を上げようとはしなかった。最終的に有楽斎と顔を合わせて頬を朱に染めた。雪はその後、自分の紙に『紙芝居』と書く作業に戻るのであった。有楽斎は『紙芝居』決定だったら面白くないかもしれないと思って別の事を書いておく。直径二十センチの穴が開いた箱の中にそれぞれが紙を入れて行く。
「有楽斎、入れてくれよ」
「うん」
その後、有楽斎がちらりと見た限りでは大抵の生徒が『紙芝居』と書かれた紙を投入しているようだったが中には二枚を重ねて投入している者たちもいた。
「我々のサクセスストーリー」
「それを文化祭で発表し」
「ファンクラブを設立してもらうのだ」
三名はまずまちがいなく、雪に抗おうとしている。彼らは仇なすものとして紙芝居ではない文字を書いて出したのである。
「源君っ」
「何、野々村さん」
「もし、『紙芝居』じゃない紙をひいた時は……月の出ていない夜は気を付けてね」
そこまでして紙芝居がしたいのだろう。理由はわからないが普段の彼女とは全然違うやる気である。
「なんでそんなに紙芝居がしたいのさ」
「何かさ、とても大切なものを思い出せそうでね。展開的にも紙芝居じゃないといけない気がするんだよ」
いまいちわからないが引くに引けない理由があるようだ。有楽斎がわかるわけでもないので適当に『ふーん』と言って前を見る。
友人は箱の中へと手を突っ込んだ。ちなみに、紙芝居のほかに入っている紙は『クラスの連中は放置、私は友人君といちゃいちゃ』や『クラス全員でボディービルダーになる』といったどれもふざけたものばかりである。
「変に長引かせるのもいけないだろうからこれにするぜ」
手を天井に向け、取り出した紙を眺める。
「えーっと……『お化け屋敷』だ」
その言葉が読み上げられた時、クラスの全員が雪の方へと視線を動かした。だが、次の瞬間には犯人を探そうとする雪の視線が返ってきたのであわてて机の木目を数え始める。
ちなみに、『お化け屋敷』と書いたのは有楽斎だったりする。