第122話:花月の家と掛け軸
第百二十二話
御手洗花月の家は学校から近く、商店街にも近いと言う結構いい場所だった。家は思ったような古さではなく、洋風の家だ。
「先輩の家の扉って内開きですね」
「ええ、おじいちゃんは『西洋かぶれがうんぬん』っていっつも文句言っていたけどね……一番最初になれたのがおじいちゃんだったわ」
「はは……」
玄関は広く、天井も高いほうだ。
「あがっていいわよ」
「お邪魔します」
見た目はきれいで、成績優秀、性格も面倒見が良くて幸運ときた花月の部屋も気になる。しかし、今回来たのは彼女の部屋をわざわざ見に来たわけではないためにまたの機会にしておくことにした。
「先輩、その絵って言うのはどこにあるんですか」
「おじいちゃんが使っていた離れよ。家の中から離れにつながっていてそこだけ和風なの」
「へー」
トイレの突きあたりから土壁に変わっている。赤茶の壁は五メートルほど続いていてふすまがその先にある。
ふすまを開けると畳みの匂いが鼻をついた。
「さ、こっちよ」
花月が押し入れを開けると歴史の教科書でしか見た事のないような巻物が積まれている。
「これ、何を描いているものなんですか」
「大抵が人外のものね。眉唾ものだって言っていた代物が多いけど……あとはおじいちゃんから『絶対に開けてはならん』って言われているものがあるわねぇ」
「開けていいものってあるんですか」
「ええ、『妖』って札が貼ってあるのがそうよ」
「本当に開けても大丈夫ですかね」
「大丈夫だと思うわ」
もしも開けて妖怪が復活とかそんな事が起こったら困るだろう……大丈夫だと断言されていないので開けるのは何だか憚られた。
「やめておきます」
「あら、どうして」
「何となくです」
「そう」
他にも何か面白いものがあるわけでもない。掛け軸の裏に秘密の通路があった……といったこともなかった。
「吉瀬君が巻物を開けないのならこれ以上開けていても意味がないわね」
花月は押入れを閉めてしまう。
「すみません」
へたれで……とは言わなかったがちゃんと伝わっているようだった。
「さ、此処にいると妖怪が出るかもしれないから離れから出て話でもしましょう」
その後は応接間に通されて紅茶を出される。
「コーヒーの方がよかったかしら」
「いえ、大丈夫ですよ」
「それはよかったわ」
他愛もない話をしていると視界の隅に家族写真のようなものを見つける。花月の両脇にはいかにも仕事人といった表情の女性と男性が立っていた。
「あれ、先輩の両親ですか」
「ええ、そうよ。母は出版業者で父は新聞関係に勤めているわ」
「へー、どういった性格のお父さんお母さんなんですか」
「完璧主義者って言いたいところだけど、意外とうっかりしたミスが目立つわね。だから完璧を目指そうとしているのかもしれないけど……あの二人じゃ無理と感じるわ」
「やっぱり先輩がしっかりしているのは両親の影響でもあるんですね」
「それはわからないわ。影響があるかもしれないし、ないかもしれない」
曖昧な言葉を残し、花月は立ち上がる。
「……そういえば一つだけ面白い絵があったわねぇ」
「絵ですか」
「正確に言うなら掛け軸ね。おじいちゃんの自信作だって言っていたけど……これが聞いた事のないような妖怪の絵なのよ。これは札が貼られてないものだから少し臆病な吉瀬君に見せても大丈夫だと思うわ」
「べ、別に臆病じゃないですよ」
「そうね、へたれね」
そう残して花月は去って数分後、戻ってきた。
「これですか」
「ええ」
まかれた状態で出てきた掛け軸をひも解いてみると奇妙な姿を二人の前にさらしてくれた。
「……雪女………ですよねぇ、それに触手みたいなのが生えているなんて変ですね」
「海外には合成獣なんているけど日本では聞いたことないけど鵺とかいるわ。でも、それとは違うから…わからないわね」
白い着物の雪女らしき人物の背中からは何か子供が書きそうな怪物の手がくっつけられていた。
顔の方を見ようと視線を動かすと虚空を見つめていたはずの雪女の目がこちらを見ていた。
「うわ」
「どうかしたの」
「えーっと、なんだかあらぬ方向を向いていた目がこっちを見た気がしたんですけど」
「何も変わってないわよ」
「……そうですか」
「そうよ。あまり吉瀬君をおびえさせるのもいけないでしょうから片づけておくわ」
本当に動いたんですよと言っても花月は信用してくれなかった。