第120話:心と心が繋がっているクラスのお話
第百二十話
夏休みもとうとう終わり、学校では次の行事である運動会についての話が盛んにされるようになった。有楽斎たちの教室でも運動会に向けて実行委員と各クラスのパイプ役であるクラス委員を決める事となった。
委員を決める方法は担任教師である鬼塚霧生の独断と偏見によりクラス全員でのじゃんけん……しかも、勝ったもの一名のみがクラス委員になれるのである。
「あの、先生……これって五グループぐらいにしてからじゃんけんしないと決まらないと思いますけど」
「何、五回やって決着がつかなかった場合は雪お嬢様にしてもらうから安心しとけ」
「勝った人がやるって珍しいですね」
「五回やって決着がつかなかったら雪お嬢様が無条件勝利だ」
「なるほど……」
じゃあ最初っから雪さんを勝者にすればこんな不毛な戦いをしなくてもいいのではないかと有楽斎は考えるのであった。
しかし、有楽斎は別として他のクラスメートたちは燃えていたりする。
「来たな、二人とも」
「我々の力を試す最初の関門って奴だ」
「後に控えている運動会練習、そして本番……数々の猛者が我々に押し寄せてくるに違いない」
明らかに闘志をみなぎらせている者や……
「ひぃっ、い、嫌だぁ……委員会は嫌だぁ」
非常におびえている者……
「俺、ちょき出すよ」
「じゃあ私はパーを出すわ」
高度な心理戦へもつれ込む者たちまで……昨日の友とは今の敵と化したのだ。
「五回決まらなかった雪さんがするって言っているけどいいのかなぁ」
自分の席について有楽斎は隣人の方へ尋ねる。
「誰かがしないといけないから………しょうがないよ」
「そういえば隣のクラスは理沙が委員になるって言っていたから……ああそうか」
そして、雪と有楽斎の間にある誤解の壁というのもうず高く積まれているのだった。
「あのね、有楽斎君……」
「ふー、トイレ終わったぜ」
授業中といったわけでもないので少し遅れて教室に入ってくる。友人の手は濡れていないようだ。
「いちいちトイレが終わったとか言わなくていいよ」
「そんなことより委員になる方法はどうなったんだ」
「今年はじゃんけんになったよ」
雪が友人にそう言うとうんうん頷いている。
「そっかそっか、じゃあ簡単だな。去年はクラス全員でかけっことか意味不明なものだったからな」
「あ、友人、じゃんけんといってもね…」
「よし、じゃあ始めるぞ。全員中央に来い」
友人に詳しく説明できなかったが、霧生は最初で最後の戦いを始めるように告げるのであった。クラスのほぼ全員が『よくよく考えたらこんなに人数いるのに一発で決まるわけがないだろう』と思っていたし、有楽斎も適当に出すことにしたのだった。
数十人規模、選べるカードはグー、チョキ、パー……どう考えても相子になる確率が高い。
しかし、現実というものは小説よりも奇なりということで初戦、有楽斎はグー、友人がチョキ、他が全員パーというある意味惜しい事態が起こった。
「おお~」
感動していたのもつかの間…辺りを見渡してみれば殺気立っていた。
「ちっ、馬鹿がしくじりやがった」
「なんであいつは空気よめねぇんだよ」
「頭の中まで女が浸食してるんじゃないのか」
散々な言われようで実に居心地が悪かったりする。
「えーと、何これ」
「さぁなぁ、でもお前がパーだったら俺が一抜けを決めていたんだが……」
中には有楽斎の向こうずねを蹴りに来ていた女子もいた。だが、残念ながら先生によって阻まれた。
「よし、二回戦を始めるぞ」
それぞれがそれぞれ、構えのポーズに入っている。
「青龍の構えっ」
「白虎の構えっ」
「朱雀の構えっ」
「げんびゅ…の構えっ」
叫んで恥ずかしくないのか、しかも最後の奴は噛んだぞと誰もが思った。まぁ、聞かなかった事にして各々出される三種類の技にすべてをゆだねるのであった。
「お、やったぜ有楽斎……俺、一抜けだわ」
「え……」
出されている手の形は二種類。パーとチョキだけであった。友人はにやにやしているが、周りのみんな、霧生はそれ以上にニヤニヤしている。
「あ、ああそうか……友人、この勝負は勝った人が委員をやるんだよ」
「……は」
「そうだぞ。源、こっちこい」
「え、ちょっと……聞いてないんですけど」
「悔しかったら俺を倒してこのクラスの担任になれ」
「いや、先生倒しても先生になれないっしょ」
この世に神などいないんだ……そんな失望した表情で彼は霧生によって連れて行かれるのであった。
「あそこまでしたくないのかなぁ。別にクラス委員だよねぇ」
「クラス委員は結構雑用とかあるから大変なんだよ。去年はそうだったから」
「ふーん、でも雪さんなれなくて残念だったね」
「え」
「理沙と一緒にクラス委員なれなくてさ」
「………あ、あのね、有楽斎君……違うんだよっ」
誤解を払しょくせねばならんと雪は思い立ったわけだが、間が悪かった。
「有楽斎君、御手洗先輩って人が来てるよ」
「あ、じゃあちょっと行って来るね」
「う、うん…」
雪は誤解を解く事の出来ないままだったのだ。




