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第119話:集合

第百十九話

 気が付けば夏休みも残り少なくなってきていた。特に何かをしたわけでもないし、お祭りに行ったわけでもない。

 早朝、いきなり花月から電話があって有楽斎は部室へとやってきていた。

「あ、おはようございます」

「おはよう美奈代ちゃん。美奈代ちゃんも御手洗先輩から呼び出されたんだよね」

「はい」

 部室の扉は開いているようだったが肝心の花月の姿が無い。掃除道具の中を開けてみたのだが当然いなかった。

「居ないと思いますよ」

「うん、そうだね」

 念のためだ。花月が隠れるのなら天井裏などだろう……その他、隠れる場所を全て確認した有楽斎は美奈代の対面に座った。

「あのぅ…吉瀬先輩」

「ん、どうしたの」

「榊先輩と雪先輩がですね……この前の事は誤解だって言っていましたけど……何かあったんですか」

 そういう美奈代の両肩に有楽斎は手を置く。顔が近くにある為に少しだけどきりとした美奈代だった……なぜなら、有楽斎の表情が真剣そのものだったからだ。普段はのほほーとした感じなのでギャップがすごい。

「美奈代ちゃん」

「は、はいっ」

「美奈代ちゃんはまだ高校一年生だよ……まだそういった事を知るのは早すぎると思うんだ」

「えーと、そういった事ってどういった事なんでしょう」

「まして、女の子が相手だなんて……いや、元許嫁って聞いた時点で少しは違和感あったんだ。まさか往来で理沙が雪さんの事を押し倒していただなんて……」

「え、そ、それって本当なんですかっ」

「うん、本当だよっ。真帆子も見ちゃいそうになったからあわてて家の中に引っ張ったんだけどね」

 そ、そうだったんだ……美奈代はそう思いつつも何となく嬉しかった。

「でも、よかったですっ」

「いや、よくないと思うよ」

「てっきり理沙さんは吉瀬先輩の事を好きだって思っていましたから」

「前々から雪さんと理沙はラブラブだったんだろうからね……道理で僕が告白しても二人に振られるわけだ」

「合点が行きました」

 二人してうんうん頷いていると花月が部室に入ってくる。

「集まったようね、部員諸君」

「えーと、これから何するんですか。あ、前に言っていた野々村施設襲撃レポートについてですか……それならちゃんと準備……」

「何のことかしら……って、ああ、あれね」

 せっかく書いたのにと思いつつ、一応花月に渡しておいた。

「これ、先生に渡して点数上げてもらうわ」

「うわ、汚いやりくちですね」

「成功報酬の一割ぐらいなら恵んであげるわよ」

「要らないです」

「それは残念ね。じゃあ美奈代ちゃんにあげるわ」

「はぁ、どうも……」

 そんなやり取りを終えて花月は一枚のポスターをホワイトボードに貼りつける。

「今年の運動会のスローガンを決めるわよ」

「え」

 なんで新聞部がスローガンなんて決めなくてはいけないのだろうかと考えるが、よくよくポスターを見てみれば『一般公募の部:商品は図書券五千円分』と書かれていた。

「去年は町のパン屋さんのスローガンだったわ」

「え……」

「スローガンについて思いついた人から出していってもらうから。もちろん、心にグッとくるようなものじゃないと審査員を納得させられないわ」

 天に向かって拳を突き上げ、長テーブルを思い切りたたく。

「ネタなんて考えなくていいから、本気でとりに行くわよっ」

「……」

「え、あ、はい」

「返事が弱いっ。そんなんじゃ駄目よっ」

「おー」

「……おー」

 三人とも席についてスローガンを考え始める。まさか残り少ない夏休みをこのような形で消費するとは思わなかった有楽斎はさっさと終わらせようと手を挙げる。

「……一人はみんなの為に、みんなは一人の為にってどうでしょう」

「普通すぎるわね」

「手堅いところから狙ってみたんですけどね」

「みんなは私の為に、私は私の為にって言うぐらいインパクトが無いと駄目よ」

「……思いっきりネタじゃないですか」

 そんなジャイアニズム誰も受け付けないだろう。

「仲間になるのなら世界の半分をお前にやろう」

「世界の半分なんて要らないわ、全部ほしい……あなたには消えてもらうわ」

 このぐらいの性格だろうからスローガンはそれでもいいだろう……

「あ、じゃあ『たとえ最後の一兵となろうと敵将を討ち取れ』ってどうでしょうか」

「………どうでしょう御手洗先輩」

「暑くなってきたからそうしましょうか」

 さすがにセンスを疑うようなものだったし、ネタかとも思ったのだが美奈代の表情は真剣そのものだった。

「暑くなってきたからって……まだ二つ目ですよ」

「あら、吉瀬君は美奈代ちゃんの考えた言葉は嫌って言いたいのね」

「そうなんですか……」

「い、いやそうじゃないですけど」

 やる気は伝わってきますよと言うと花月は立ち上がった。

「決定ね」

「はいっ」

「はぁ……」

 こんな適当に決めてしまっていいのだろうかと考えるが所詮は応募の候補決めである。いわば町内会での戦いのようなものでいずれは日本全国、世界中で闘っていく事になるだろう……そのぐらい小さな闘いなのだ。

「吉瀬先輩っ、スローガンになるといいですねっ」

「そうだね……」

 誰がスローガンを選ぶんだろうかと半ば心配していたのだが、後日有楽斎はこのスローガンを校内で見かける事となる。

「あんなふざけた奴が通ったんだ……」

 実際は応募のボックスが猫にくわえられて持ち去られた為に花月の手渡しのスローガンが通ったと言う悲しい話だったりする。

 何でも、咥えて行った猫というのは尾が二つあったとかなかったとか……


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