第118話:空振り
第百十八話
「……詳しくは聞かないけどさ、こういうのはよくないと思うよ、うん」
腕組みをして有楽斎は正座をさせている二人に昏々と言い聞かせる。
「理沙、友達を使って何かをさせようとするのはどうかと思うし……その、君にまさか覗きの趣味があるとは思いもしなかったよ」
「ち、違うわよっ。覗くつもりなんてなかったっ」
そういっている理沙にハンディカムを指差すと悔しそうに黙り込んだ。
「雪さん、そうなのかな」
「え、いや……撮られているのは知らなかったよ」
「ほら」
「く……」
これ以上理沙を責めるのはよしておいた方がいいだろう。『雪、こいつは化け物なのよっ。そんでこの家の何かを狙っているからすぐさま害虫駆除業者を呼んだ方がいいわ』とか言われたらたまらない。
「僕帰るよ。宿題の途中だったし……じゃあね」
もう二度と日中はこの家に来ないほうがよさそうだと心に決める有楽斎であった。
「ちょっと待ちなさいよっ……」
部屋を出ようとした有楽斎は理沙に呼び止められ、無碍にもできない為に後ろを振り返る。
「今度はどうしたの…」
「あんたねぇ、私から見てもスタイルいい雪の水着姿に何も感じなかったっていうのっ」
胸を突きださせるようなポーズをとらせており、雪は顔が真っ赤になっていた。
「うん、そりゃあ似合っているんじゃないかって思ったよ…実際に言ったと思うけど」
「いや、そういう事じゃなくて……あんた、雪に押し倒されて何にも……その、滅茶苦茶にしたいとか思わなかったのねっ」
「思わなかったよ。友達にそんなことできるわけないじゃないか……雪さんがその……変態みたいな人で、理沙が覗き魔だって絶対に他言しないから安心してよ」
「ちょ、ちょっとっ……」
理沙の言葉は有楽斎を引きとどめることなく、彼は帰ってしまったのだった。
「り、理沙ぁ……」
「くっ、あのバカ……これは何か考えたほうがいいわね」
最後に向けられた有楽斎の視線が『君がどういった人でも僕は君の友達だから』という温かいものだった……それは理沙を余計イライラさせた。
その日の夕方、素直に謝りに行ったほうがよさそうだという雪の提案を大人しく呑んで有楽斎の家へと向かう事にしたのだった。
「素直になんでスイッチの事しっているのって聞けばよかったよ…理沙のせいだよぉ」
「うるさいわねぇ……もとはと言えばあんたが色仕掛けがいいっていったからでしょ」
そんな事を話しながら歩いていると吉瀬家の前で雪が躓いてしまった。
「あっ」
倒れそうになった雪を支えようとした理沙もついでにこけて雪を押し倒すような形になってしまう。
「お兄ちゃーんっ、早く買い物に行こうよっ」
吉瀬家の玄関が開き、真帆子が現れる。
「ちょっとまって真帆子……」
そして、そのあとから有楽斎が出てきたのであった。
「あれ、雪さんと理沙さんだ……何してるんだろ」
「……真帆子、今日は出前をとろうか。ほら、みちゃ駄目だよっ」
「え、な、なんでーっ」
真帆子を掴んで有楽斎は素早く行動を起こした。そして、道路にいる二人に聞こえるほど大きなロック音が鳴り響くのであった。




