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第117話:少女の画策

第百十七話

 野々村家の外門をくぐるが玄関はまだ遠かった。外界とは隔絶されていて独特の雰囲気が周りに漂っている。

「広いね」

「そうかな」

「うん」

 右手には庭が広がっており、左の方には池があった。足元は石の橋になっており、橋の下の水路を高そうな鯉が泳いでいく。

 この鯉を売ったらいくらもらえるんだろうかとふと考えてしまう。

「すごいね」

「そうかな」

「うん」

 これと似たような会話を数度交わしたところでようやく玄関にたどりつく。趣があって落ち着いた雰囲気の玄関だった。

「さ、どうぞ。今はお手伝いさんの夏休み期間中だから誰もいないから安心してよ」

 なんで安心しなくてはいけないのだろうかと疑問を持つ事もなく、有楽斎はただ頷いている。

「お手伝いさんまでいるんだぁ……」

 感心しながら有楽斎は靴を脱ぎ、おそるおそる一歩を踏み出すのであった。廊下の端に以前天井を突き破った個所がちらりと見えたが修復されたようである。

 正体がばれたら絶対に修理費を要求されるだろうな……いやいや、こんな大きな家に住んでいるんだから修理費ぐらい……けちって家が大きくなった可能性もあるからきっちりしているかもしれない……そんな事を考えながら有楽斎は雪の後を続く。

「応接間にどうぞ」

 通された場所は応接間で、有楽斎は藁の座布団の上に腰を下ろす。

「すごいね」

「そうかな」

「うん」

 本日何度目かのやり取りを終えると雪がぎこちなく立ちあがった。

「お茶、持ってくるね」

「ありがとう」

 雪がいなくなって有楽斎は辺りを見渡すことにした。トイレに行くと称してうろついてみるのもいいのだが、下手に動きまわらないほうがいいだろう。家族の誰かがいる可能性もあるし、変な事をしていたら怪しまれてしまう。

 また今度来た時でいいだろうと結論付けて有楽斎は雪を待つ事にしたのであった。

「それにしても遅いなぁ……いやいや、きっとものすごく高いお茶の準備に手間がかかっているに違いない」

 見当違いな事を考えつつ、有楽斎は雪の到来を待つのであった。

 もちろん、ものすごく高いお茶を用意していたのだが既に用意は終わっている。雪の準備が終わっていないのだ。

「さ、さすがに下着姿は無理だよっ」

「じゃあ水着姿ならいいでしょ」

「………そ、それならいいかなぁ」

 理沙の準備した水着に着替え、有楽斎の待つ応接間へと行こうとしたのだがその足が止まった。

「あのさ、有楽斎君から『なんでそんな格好しているの』って聞かれたらどう答えればいいの」

「そう聞かれた場合は押し倒して有楽斎に全てを委ねればいいわ。変な事をしようとしたら私がすぐに出て行って助けてあげるからっ。もうそこで吉瀬は終わりよ」

「う、うんっ」

 こうして、有楽斎が知らないところで計画が実行に移されたのであった。

 有楽斎が『高いお茶の製造法』を最初から最後まで妄想し終えたころにふすまが静かに開いた。

 当然、水着姿の雪が部屋に入ってくる。色白ですらりと伸びた足に意外と引き締まった体をしていた。

「お、お茶持ってきたよっ」

「ありがとう」

 男子が見たら興奮していただろう。ちなみに、有楽斎は別の事を考えていた。

『……そういえば真帆子が言っていたっけなぁ……女の子は家の中じゃ意外と無防備な格好をしているんだって……まさか雪さんまでそんな無防備な格好しているんだなぁ……でも、暑いからみんなこんなものなんだろうか』

 出されたお茶に口を付けるが、これがまたおいしい。若干の苦みにすっと喉に入って行く冷たさ……

「このお茶美味しいねっ」

「あ、そ、そうかなぁ」

 雪の方は水着姿のままなのだが暑いらしい。顔は火照っており、有楽斎の方をしっかり見ている。

そんなにお茶の感想が聞きたかったんだろうか……と思いつつ、もしかしたら水着姿の感想を聞きたいのではないだろうかと見当違いなことを思いついた。

「その水着似合ってるよ」

「え、そうかな。ちょっと露出が多すぎる気がするけど……」

「うん、健康的でいいんじゃないかな」

「あ、ありがとう」

 お茶も飲み終わり、さてこれから何をしましょうかと考えているが答えは出ない。

「雪さん、これから何をしようか……って、あれ」

 雪は顔を伏しているようだが異様に顔が赤くなっている。屋内、そして水着なのに熱中症にかかってしまったのだろうか、それなら大丈夫なんだろうかと近づこうとして……雪に押し倒された。

「な、なんっ……」

「う、有楽斎君っ」

「……どうしたの」

「有楽斎君の好きなようにしていいよっ……」

 これじゃあ雪に好きなようにされているんですが……と、思いつつ逃げようとするが意外に力が強いようで組み敷かれたままである。

「す、好きなようにしたら隠し事とか絶対になしだからねっ」

「……はぁ……」

 いまいち雪が何をしたいのかわからなかったので有楽斎は何とか逃げ出す。

「ちょっとトイレに行って来るよ」

「あ、ちょっと……」

 追いすがってくる雪を避けてからふすまを開ける……

「あ」

「え」

 ふすまを開けた先にいたのはビデオカメラを構えている理沙だった。


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