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第116話:残念な計画

第百十六話

 汗をかいた麦茶が置かれている応接間。冷房もないのにその部屋は異様に涼しかった。

「理沙には有楽斎君を色気か何かでへろへろピーにしてほしいのっ」

「……はぁっ、何それ」

 元許嫁の言葉に理沙は間抜けな顔で聞き返す。たまに変な事を言い出すのは知っていたが、今回もまた変な事を言い出したかと心の片隅で思った。

「だから、有楽斎君の事を骨抜きにして手ごまにしてほしいのっ。難しい言葉で言うと懐柔してなんでスイッチが私の家にあるのか聞きだしてほしいのよっ」

 頭に人差し指を当てて神経質そうにため息をついた。遠くの方で蝉が鳴いている。

「いや、言葉の意味がわからなくてため息をついたわけじゃないわよ」

「じゃあなんで」

「……なんで私がそんな事をしないといけないのよ」

 雪が変な事を言いだすたびにこの言葉を言っているのだがなんだかんだで付き合いが長い為に押し切られてしまう。もちろん、いつもひどい目に会っているのは理沙であり、雪ではない。

「だ、だって理沙は有楽斎君と仲が一番いいし……」

「……それなら吉瀬の妹に頼めばいいでしょ。家族だしもっと聞きやすいと思うわよ」

「でも妹さんにはまだ何も話してないし…」

「じゃあ、あんたがやればいいでしょ」

「えー……私じゃ無理だよ。最初はすっごく関心あるような感じで話しかけてきたのに今じゃどうでもよさそうだし……」

 昔はにこにこと話をしていたのだが雪の知り合いが有楽斎の趣味に合わなかった、もしくは全部ふられた……といった結果になって全滅。これ以上雪と話して居ても新たな女性に出会えないと有楽斎が思ったからでもある。

「お願いだよーっ」

 ファッション雑誌を適当にめくりながら理沙がごねる雪に対して続ける。

「それこそ色気で釣ればいいでしょ」

「い、色気っ…」

「そうよ。男子なら下着姿でも見たら興奮して何でもしゃべるんじゃないの。それにあんただってあれに告白されたんだから脈はあるでしょ」

「でっ、でも……その、色気でつってその……ねぇ。大変な事になったらどうしようか」

 もじもじして理沙の方を見るが、彼女にとってはどうでもいい話だった。

「はいはい、じゃあこの家に呼んで………ってまずいか」

「え、なんで」

「……ううん、何でもない。やっぱりこの家に呼びましょう。やばくなったら叫び声をあげるといいわ。すぐに私が飛び出してきてあげるから」

「でも来てくれるかなぁ」

「来ると思うわよ」

「そうかなぁ」

「ええ、来てからあいつは雪の罠に引っ掛かるのね…かわいそうに」

 ついでに襲っているところを映像に記録して後で強請ってやろう……悪い事を考える時理沙はとてもいい笑顔になるのであった。



 そんな事を知らない有楽斎は頭に『やれば出来るっ』と書かれた鉢巻きを付けて闘っていた。



「……この問題集さえ終わらせておけば宿題終わりだからなぁ……真帆子、美奈代ちゃん、もうちょっとで終わるから市民プールで待っててね」

 有楽斎もプールに行かないかと誘われたのだが勉強を終わらせたら行くと約束したのである。

本当は行く気などさらさらなかったのだが、友人からのメール…『おい、あれ見ろよ…美女がこんな市民プールに来るなんて想像していなかったぜ』というものをもらってやる気が出てきたのである。画像は残念ながらぼやけてしまったので『画像の詳細希望』と送り返したが『自分の目で見て確かめろ』と返ってきた。

 友達とプールに行くのが嬉しかったのか、真帆子は家の中でも水着を着ていたのを思いだして有楽斎は苦笑する。

「真帆子がいればけしかけて何とか話をする機会があるだろうからなぁ……」

 残り二ページ、三十分ほどあれば終わるだろうと猛チャージをかけようとしたところで…



ぴんぽーん



 間の抜けたチャイムが部屋に鳴り響く。

「お客か……誰だろ」

 知り合い、友達関係のリストが頭の中に素早く引き出されていく。

「三組の玲菜ちゃん……はハワイか、じゃあ五組の由乃ちゃん……も違うだろうし、茉莉ちゃんでもないだろうなぁ。じゃあ佳恵ちゃん……もないだろうし……あ、じゃあ恵美先輩かも……いやいや待て待て…千穂先生かもしれないぞ」

 一体だれがやってきたのだろうかとわくわくしながら扉を開ける。

「こ、こんにちはっ、有楽斎君っ」

「なんだ、雪さんか。どうしたの」

 有楽斎の言葉にひどくショックを受けながらも雪は続ける。

「あ、あのね、私の家で遊ばないかな」

「雪さんの家で……あ、ごめん。ちょっと今勉強中で……」

 断ろうと思ったのだが、脳裏に老人が現れる。こちらからの申し出ではなく、向こうからのお誘いである。

『どうじゃ、ここらでばしっと決めて面倒な事は終わりにせんか』

一度野々村家の間取り図を頭に叩き込んでおいたほうがいいだろう。

「わかったよ」

「そっかぁ、よかったっ」

「何がよかったの」

「ううんっ、何でもないよっ」

 こうして、有楽斎は野々村家へと向かう事になったのだった。

「……よーしっ、まずは食いついたわね」

 理沙は有楽斎が雪についてきているのを確認してから野々村家の部屋に隠れるのであった。


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