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第115話:林間学校9

第百十五話

「雪ちゃんそーれっ」

「って、なんでそんなに強いボールが飛んでくるんですかっ」

「野々村さんの水着姿かぁ……高根の花だが、撮る分には一切問題なしだな」

 そんな雪たちの歓声を聞きながらぼーっと有楽斎はパラソルの下から理沙を探していた。まだ身体が温まっていないと言う適当な言い訳をして逃げてきたのである。

「お兄ちゃんっ」

「うわっ」

 背後からいきなり抱きつかれたのであわてて後ろを振り返る。そこにいたのは水着姿の真帆子だった。

「もうっ、お兄ちゃんそんなに驚かないでよっ」

「なーんだ、真帆子か……どうりでもの悲しい何かが当たっていると思ったよ」

 その対応に少々むっとしているようだったが、すぐさま笑顔になってその場でくるりと一回転した。

「水着姿、どうっ」

「……うん、とてもよく似合っているよ」

 学校貸出し……というよりも、新品のスクール水着である。もちろん、林間学校を体験した事のある二年生や三年生は自前の水着を用意してきて自分の彼氏といちゃいちゃしている……そんな光景を目の当たりにして自分の中にわきあがるふつふつとしたどす黒い感情のことを有楽斎は嫌いではなかった。

 まぁ、今の彼が気にしなくてはいけない相手は他にいるのでどこか返事も上の空である。

「えへへ、そうかな」

 もちろん、有楽斎の言葉は大抵信じるので心の底から嬉しそうだ。自分の兄の頭の中を垣間見たとき、どういた反応をするか予想できないがもしかしたら有楽斎の事を襲うかもしれない。

「うんうん、すっごく素晴らしいよ。そんな水着を着た真帆子が泳いでいるところを見てみたいなぁ……今日の夕方には帰らないといけないからね」

「えっ、そうかなっ……じゃあ泳いでくるよっ」

「準備運動はちゃんとするんだよ」

「任せておいてよっ。お兄ちゃんの分も運動してくるからねっ」

 そういって真帆子は海に向かって走って行くのであった。

「……吉瀬先輩」

「うわ…」

 今度は誰かの手が肩に置かれる。背後からの奇襲は二回目だと言うのに慣れない有楽斎は間抜けな声をあげていた。

「すみません、驚かせてしまって」

 申し訳なさそうな美奈代にあわてて手を振ってから有楽斎は笑っておいた。

「ううん、気にしなくていいよ」

「あの、水着変じゃないでしょうか」

 もちろん、真帆子と同じでスクール水着。有楽斎も学校指定の貸出パンツだからスクール水着と言っても差し障りのないものなのだが想像すると変なものを着用している幻覚に襲われてしまうだろう。

「変じゃないよ」

「よかったです」

 スクール水着を着用して似合う、似合わないも何もないだろう。

「あのさ、美奈代ちゃん……理沙を見かけてないかな」

「榊先輩ですか……えーと、あっちの方にいましたけど」

「そっか……ちょっと行って来るよ」

「あの、どうかしたんですか」

「うーん、ちょっとね。理沙から何も聞いてないかな」

「はい」

「まぁ、ちょっとあの後色々とあってね。みんなのところで遊んでいるか悪いけど真帆子を見ててよ」

 有楽斎の分も体操したからなのか、真帆子の動きは水泳部のエースと同等であった。切磋琢磨し、素晴らしい水泳を生徒達に見せつけている。

「あのー…吉瀬先輩」

「何かな」

「えっと、何か困った事があったら私に言ってください。勉強とかはわからないですけど、それ以外だったら何かお役に立てると思いますから」

「……ありがとう」

 礼だけ述べて有楽斎は理沙がいる岬の方へと向かう。美奈代はそんな有楽斎の後をついて行こうかとも思ったが、有楽斎の言った通り真帆子の事を見ておくことにしたのだった。

 岬に近づくにつれて隣の浜には出るところはしっかりと出ているお姉さん達が見えてきていたりする。

 有楽斎の中に悪魔が現れた。

「……いやいや、待て待て有楽斎……別に理沙に何かを言う必要もないんだし、ちょっとぐらいウォッチングしていっても時間的にも大丈夫なんじゃないだろうか……」

 誘惑に負けつつある有楽斎だったが、それがいけなかった。

「うわっ」

「何ぼーっとしながら歩いてるのよっ」

 夢心地で歩いていた有楽斎の足を引っ掛けたのは理沙であった。いつの間にかこっちまで戻ってきていたらしい。

「り、理沙……」

「こけるときにてっきりあの化け物じみた手が出ると思ったけど違うのね」

 不機嫌そうに鼻を鳴らして有楽斎へ手を差し伸べる。その手に大人しくつかまって起き上がり、言うのだった。

「それは無理かなぁ……基本的にスイッチみたいなのを押さない限りは人間のままだからね。ほら、僕が溺れたって言った時も無意識的に自分の周りに人がいるからって理由で駄目だったりするんだよ」

「あっそう……」

 興味ないとばかりにそれだけ言うと理沙は有楽斎のすねをける。

「何しに来たのよ」

「えっと……いや、理沙が黙っていてくれたからありがとうと言いに来ただけ」

「……昨日の事は忘れてあげるわ。だけど、今度雪の家に襲いに来たらその時は……」

「わかってるよ」

「雪の家の何を狙ってるわけ」

「さぁねぇ。僕の意思でやってるわけじゃないから」

 あの爺が全部悪いんだと言ったところでどうなるのだろうか。既に乗りかかった船という奴なので老人を裏切る真似はさすがにできなかった。

「話すつもりはないのね」

「うん、今のところはちょっと話せないかな……まぁ、僕を捕まえて吐かせればいいけどね」

「今度お望み通りにそうしてあげるわ……じゃあ私泳いでくるから」

 みんなのいる浜辺の方へ向かう理沙の後ろ姿を眺めながら有楽斎はとあることを思いついた。

「理沙―っ」

「何よ」

「水着姿、似合ってるよっ」

「……余計なお世話よっ」

 石が飛んできたのであわてて避ける。

「……理沙を懐柔しちゃえばわざわざ野々村家に不法侵入する必要はないんじゃないだろうか」

 頭の中で悪魔が何度も頷いているのであった。


今回で林間学校終了です。そして有楽斎たちはつかの間の夏休みに入ります。理沙にしょうたいばれちゃっていますがなんとかなるでしょう。夏休み終了すると今度は運動会、その後は文化祭ですね。

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