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第114話:林間学校8

第百十四話

 月明かりに照らされて不気味に青白く光る大樹。人を喰らい、果実を実らせていた木は数十年という短い寿命を散らしたのだった。あまりにもあっけなく木は有楽斎に敗北を喫したのだ。

 それまで木が生きながらえていたのは決して偶然ではなく、弱い獲物を狙っていたからだ。自分の力に余るような化け物を腹に抱えればどうなるか……欲張りが過ぎたと言う事だろうか。

 木片にしてはあまりに乾いた音をたてながら大樹はその姿を消していく。

「吉瀬先輩、榊先輩……ご無事でしたか」

 着物の少女がいたであろう場所にはジャージ姿の少女が立っていた。子子子子美奈代である。

「うん、まぁ、貴重な体験したけどね」

「……美奈代、来るのが遅いわよ」

「すみません…」

 謎の液体を身体に浴びまくった理沙はご立腹であった。同じく木の中にいた有楽斎だったが、こちらはいたってきれいな身体である。汚れているわけでもなく、理沙とは違って変なにおいもしない。

「……人型の化け物が正体だったようです。蔦が人の形をしていたので切り刻みましたからもう安全です」

 およそ女子高生が使わないような物騒な言葉で話をまとめる。

「そっか」

「ええ……」

 美奈代が頷いた後、少々匂いのする理沙に近づいて尋ねた。

「あの、榊先輩……吉瀬先輩は一般人ですが巻き込んでしまってよかったんでしょうか。必ず後でお叱りを受けますよ」

「ふんっ、そんなことはどうだっていいわよっ。美奈代、あんたは黙ってさっさと寝なさい。私はまだこの木片を全部消し飛ばさないといけないからねっ」

「そうですか……では、失礼します。吉瀬先輩、おやすみなさい」

「うん、おやすみ」

 手を振って見送り、有楽斎も理沙に帰ろうと言おうとしたのだが腕を掴まれ、その後に胸倉まで掴まれた。

「あんた……何が目的で雪の家にもぐりこんだのよっ」

「はは、何の事かな」

「とぼけないでよっ。私が気付かないとでも思っていたのっ」

「何そんなに熱くなってるのさ」

「返答によっては……」

 すごんでみるが、有楽斎にしてみたら全く怖くなかった。一番恐ろしい相手は既に立ち去っている。もっとも、知り合いに対して手を上げるだなんてことも出来ないので交渉術で何とかこの難局を乗り切らねばならないのだが。

「どうだろう。ここは理沙を助けたって事でなかった事にしておいてくれないかな」

「……美奈代が助けに来てくれていたわ」

「そうだとしても、一歩及ばぬところで理沙は食べられていたと思うよ。理沙もちょっとだけ焦っていたでしょ」

 もうひと押しで何とかなるか……そう思っていた時に理沙は悔しそうな顔をしたのだった。

「……今度雪の家に来た時は覚悟しなさいよ」

 有楽斎を乱暴に突き放して理沙は背中を見せる。

「さっさと行きなさいよっ」

「ごめんね、助かるよ」

 中庭を出ようとしたところで有楽斎は足を止める。

「理沙、助けてくれてありがとう」

「……ふ、ふんっ。あんたみたいな化け物に礼なんて言われる筋合いはないわっ」

 化け物かぁ……そう呟いて有楽斎は中庭を今度こそ出るのであった。



 本日、有楽斎が見た夢は美人と結婚をして幸せな生活を気付いていたのだが、理沙が家にやってきたせいで何故か修羅場となり、離婚にまで行ってしまうと言う実に恐ろしい悪夢であった。



「何だ、一夜限りの結婚生活だったのか」

「……うん、まぁね」

「かわいそうにな」

「親権は母親にあるって裁判までいって決着つけられちゃったよ……ふぁ、やっぱり幻想じゃなくて現実で幸せってやつを掴み取らないといけないよねぇ」

 あくびを噛みつつ歯磨きを続ける。少し眠気が残っている有楽斎の元へ雪と花月がやってきた。

「おはよう、有楽斎君」

「ああ、おはよう雪さん、御手洗先輩」

「昨日の夜は大変だったそうねぇ。美奈代に聞いたわよ」

「え、ああ、まぁ、そうなんです」

「理沙が有楽斎君にくっついていたのはそういった事情があったんだね」

「さぁね」

 理沙という言葉が出てこの二人にばらしていないかどうかまじまじと顔を見ていたのだが二人とも首をかしげるだけだった。

「どうかしたの」

「いいや、何でもないよ」

 意外と約束は破らない人間なんだろうかと考えて歯磨きを終える。

「ま、今日は最終日だから思いっきり遊びましょう」

「海だ。海に行こう、有楽斎っ。お前をつれて行けばもれなくメインが付いてくるっ」

 友人は元気になり、今日は自由だと言う事を思いだした生徒達も元気になって騒ぎ始める。

「よし、じゃあみんなで海に行って遊ぼうっ」

「じゃあ私はビーチボールを借りてくるよ」

「私はパラソルとビーチチェアね」

「俺は水着姿を収めるカメラなどだなぁ……有楽斎、お前が友達で初めてよかったと思える瞬間だぜ」

「相変わらず碌な奴じゃないなぁ……」

 騒いでいる面子より向こう側に理沙の姿を見つける。手を挙げて呼ぼうとしたのだが、有楽斎が気づいている事を知るとそっぽを向いて歩いて行ってしまった。

「……はぁ」

 爆弾を抱えたまま学生生活を送るのは厳しいだろう……何らかの手段を取らないといけないんだろうな。有楽斎は素直に海で遊べる事を喜べなかった。


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