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第113話:林間学校7

第百十三話

 布団の中で隣を見れば理沙がいる。そう、触れようと思えば触れられる距離、寝技を仕掛けようとするなら今だが……怪談話の準備をしている理沙にそんなことは出来ないだろう。

「用意が整ったわ」

「頭に白い鉢巻きつけてローソクまで付けるなんて気合入れまくってるね」

「馬鹿ね、火があんたに引火でもしたらどうするの」

「だろうね」

 別にそんな事をする必要なんてないんだろうが、彼女にとっては必要なことなのだろう。どうでもいい、早く寝かせてくれ…といったネガティブな発言を選択すれば理沙がどう出るか全く想像できない。

「……こほん、じゃあ始めるわ」

「うん、よろしく頼むよ」

 一生懸命怖い顔を作りだしているのだろうが、逆に必死すぎて笑いそうになるのをこらえる。

「………この建物は榊グループが買い取ったところでね、元は宿泊施設だけのものだったんだけど学校関係もグループに関わり始めてから高校の林間学校に使用する為に増築したのよ。でもね、最初の林間学校が行われた時に三階から生徒の誰かが転落して気に突き刺さるのを見たっていう生徒が出たの」

「…それはまた痛ましい事件だけど……別に怪談でもなんでもないよね」

「まぁ、これだけだったらね」

 面倒になったのか、理沙は頭の鉢巻きを取って枕元に置いた。なんだか悪い夢でも見そうである。

「問題が起こったのはそれを目撃した生徒が先生を連れてきてから。生徒が戻ってきたときには木なんてなかったし、生徒が刺さっているわけでもなかった。念のために行方不明者がいないかどうか全校生徒を講堂に集めた結果、一人女子生徒が消えていたのよ」

「………へぇ」

「最後にその少女を見かけた場所は確かに三階の中庭に面した廊下。短パンだった少女の片足には何かに絞められた跡が残っていたってその日の朝相談を受けた保健室の先生が証言したそうよ。最初は変質者の犯行かって思われたんだけど、結局は手がかりも何も見つからないでいまだに行方不明……もっとも、それから十年に一度、生徒が行方不明になるのが続いているそうだけどね」

 これで終わりよと理沙は仰向けになって目をつぶった。

「あまり怖くなかったよ」

 そういった有楽斎だったが、いきなり左隣三つの布団が一気にはぐらかされて人影が立ちあがったのには驚いた。

「はは、そうだな。あんまり怖くなかったな」

「だな。ちょっと俺、トイレに行ってくるわ」

「俺もいこっと……」

 男三人で連れションかよと思いながらその光景を見ていたが理沙は笑っていた。

「そうねぇ、だけどあんたも当事者になればあんな風に怖くなると思うわ」

 にやにやしながら有楽斎の事を見ているが、彼はため息をついて言うのだった。

「そりゃね、雪さんとかか弱そうな女子が襲われたりしたら怖いだろうけどねぇ」

「雪が……か弱いねぇ……はは、ありえないわ」

 何を思い出したのか少し皮肉っぽく笑っている。

「……一度だけ弟さんと喧嘩してね。弟さん、凍りついていたわ」

「え」

 姉弟喧嘩で絶対に使用されないような言葉が飛び出してきたのであわてて隣を見る。

「………冗談よ。ああ見えて雪は……その、冷たい女っぽいところがあるからおびえたりしないわよ」

「クールなところがあるっていいたいのかな」

「まぁ、そんなところかしらね。おやすみ、後が控えているからね」

「ふーん……おやすみ」

 トイレに行った男子生徒が戻ってくるか、こないかの狭間で有楽斎は夢の世界へといざなわれたのだった。

 彼が目を覚ましたのはそれから数時間後……草木も眠る丑三つ時という奴である。

「んー……ん、またか」

 はっきりとした覚醒、その後は足を動かしてみるが今日の感覚は昨日の締め付けるといったものではなかった。

 人の手が自分の足首を必死につかんでいる……そういった感じだ。

「お目覚めね」

「……理沙、何してるのさ」

 有楽斎の足をしっかりと掴んで離さないようにしている。その表情は必死そのものであった。

「細切れにしてやろうと思ったら枝忘れて来たのよっ、枝っ」

「は……」

「仕事道具忘れたって言ってるのよっ」

 有楽斎には何の事かさっぱりだったので首をかしげるしかなかった。突如として身体を引っ張られる感覚がして気が付いてみれば一階の廊下に居たりする。

「え、何これ」

 誰かが起きてきてこの光景を見たらシュールだと思うだろう……上半身を起こして足を掴んでいる理沙は必死そうな顔をしている。そして、その足には蔦が巻きついているのだ。

「吉瀬、逃げなさいよっ」

「いや、手を掴まれているから無理だよ」

 そんなやり取りをしているとあっという間に中庭まで引きずられてきてしまう。青白い光を放つ大樹が二人の目の前に現れた……ただ、昨日と違うのは真っ二つに割れていたことだろうか。

「私達を食べるつもりね」

「だろうねぇ」

 のんきな有楽斎に対して理沙は掴んでいる手とは逆の手で携帯電話を取り出して誰かにかける。

「もう、早く起きて電話に出なさいよっ」

「今日は彼女さんを連れてきていたのですね」

 声がするほうを見てみると昨日の少女が立っていた。

「いや、別に彼女じゃないけどね」

「うるさい人は嫌いですから一緒に食べられてもらいましょう……何せ、この木を消滅させようと目論んでいたみたいですからね」

 少女がそう言うだけで蔦の力は強くなった。気付けば有楽斎の手足に縛りついており、理沙の携帯電話を持つ手も掴まれる。

「くっ」

「やめて大樹さん、僕達を食べてもおいしくないよ」

「何この期に及んで馬鹿をやってるのよっ」

 手足を動かしている理沙が有楽斎にいらだちをぶつけるが有楽斎はため息をつくだけであった。

「僕達このまま何もしなかったら食べられるのかなぁ」

「何かをしても食べられますよ。安心してください」

 ぞっとするような笑みを浮かべて有楽斎たち二人を見送る少女。

「ねぇ、理沙に似ているけどあの女の子知り合いか何かかな」

「え…」

 どいつよ…そう理沙が言おうとした瞬間に目の前が真っ暗になってしまう。何やら液体のようなものが身体に付着し、耐えがたき感触が身体のあちらこちらを舐めて行く。

「理沙、悪いけど目を閉じててね」

「とっくに閉じてるわよっ」

「よかったよ、まだ無事でさ」

 それだけ言うと有楽斎はちょっと力を入れるのであった。


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