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第111話:林間学校5

第百十一話

 連れてこられたのは中庭近くの廊下……人通りが少なく、陰湿な感じがしていた。

「足首見せなさいよ」

「え」

「早く」

 ジャージを上にあげるとくっきりと何かに絞められた跡が残っている。もちろんそれは昨晩つけられたものだ。

「……やっぱり」

「やっぱりって……何が」

「あんた、夜中目が覚めたでしょ」

「ううん、覚めなかったよ。温かい家庭を持った夢を見てたね」

 半分嘘だが、半分真実の言葉を口にする。案外信じてくれるもので理沙は険しい顔をした。

「そう、それならいいけど……」

「どうかしたのかな」

「別にどうもしないわ……今日の夜に怖い話をしてあげるから待ってなさいよ」

 それだけ言うと理沙がいなくなる。有楽斎は中庭の方へと視線を移したのだが、その方向から一人の少女が近づいてくる。

「おーいっ、有楽斎君っ」

「あー、雪さん。おはよう」

「おはようっ……ねぇ、さっきまで理沙がいなかったかなぁ。先生に呼んでくるよう言われたんだけど」

「ああ、あっちに行ったよ」

「そっか、ありがとう……あ、有楽斎君も朝食だからさっさと大広間に集まるようにって霧生さんがかんかんだったよ」

「わかったよ」

 雪を見送って有楽斎は再び中庭の方を見る。もう誰かが走ってくることもなく、木が見えることもなかった。

「……さてと、朝食でも食べに行きますかねぇ」

 朝食前に有楽斎は自分の担任に怒られ、デザートを友人に奪われると言う散々な目に合うのだが……この頃の彼は気が付いていなかった。



 まぁ、どうでもいい話ではあるが。



 昼食のデザートでしっかりとお返しをした有楽斎はため息をついた。

「今日も勉強かぁ」

「まー、高校生の仕事はお勉強だろうからなぁ。あれだ。美少女と巡り合って保健体育の勉強をしろと教師は思っているんだろうよ」

「なるほど…それは興味深い見解だね」

「ああ、問題は美少女を見つける時間が非常に短いと言うことだ。昨日のメンツが俺のところにやってくる時間は残り一分弱……その間に見つけ出せなければ俺のま……」

「源君っ、こっちだよ」

「……友人、じゃあね。僕が君の敵をとってあげるよ。女の子に囲まれて勉強会だなんて羨ましいなぁ」

「おい、有楽斎。あの人たちは俺の好みではないぞっ」

「ははっ、だから君の敵は僕がとっておくよ……何せ、こっちは昨日のメンバーに『今日は友人と一緒に勉強するから』って伝えておいたもんね」

「くっ、汚いぞっ……あ、真帆子ちゃんっ。君のお兄ちゃんはフリーだよっ」

「あ、こらっ」

 急いで友人の口を手でふさぐ有楽斎であったが一歩遅かった。有楽斎の元へとにこにこしながら真帆子が走ってくる。

「友人さんと一緒に勉強できなくなったんだね」

「ははは、そうなんだよ。だから真帆子ちゃんが相手してやってほしいんだ」

「うんっ」

「く……」

「己の愚かさを呪うんだな……」

 そういって友人は女子たちに連れて行かれる。自分が幸せになるよりも、誰かを不幸にして鬱憤を晴らすタイプである。

「俺も終わりだが、お前にだけいい思いはさせん……絶対にだっ」

「全く、やってくれるね…」

「さ、行こうよお兄ちゃんっ」

 真帆子に引っ張られて行き、有楽斎は机につく。雪、理沙、花月はいなかったが美奈代が机についていた。

「あれ、吉瀬先輩……」

「ああ、ちょっと友人が女子と約束していたみたいでね。一緒に勉強できなくなったんだ」

「そうなんですか」

「うんっ。だから連れて来たんだよっ」

「よかったです」

 真帆子と美奈代が喜んでいるようなのでひとまずよしとすることにした。もしかしたら年上の先輩(しかも美少女)を紹介してくれる可能性が無きにしも非ず……。

 そういう理由で有楽斎はそれとなく二人に質問してみることにした。

「ねぇ、美奈代ちゃんに真帆子」

「なーに、お兄ちゃん」

「何でしょうか」

「友人が聞いておいてほしいって言っていたんだけど年上の知り合いって誰かいないかな。秋の運動会で男の実行委員は決まっているらしいから女子の方で探しておいてほしいんだって」

「あてがあるよっ」

「私もあります」

 脈あり、である。有楽斎は心の中でガッツポーズ、そして散って行った友人に礼を述べた。

「そっか、じゃあ今呼んでくれないかな」

「うん、じゃあ探してくるね」

「私も行きます」

 素直なよいこの二人を見送りながら有楽斎はにやにやとしている。なかなか上級生については会う機会が少なかったり、上の階にいけなかったりとするので好都合だ。

 さて、どんな美少女お姉さんがくるかなぁと有楽斎は期待に胸を膨らませるのであった。

「吉瀬君、話があるそうね」

「み、御手洗先輩っ……」

「友達が女子に連れて行かれちゃったそうでかわいそうに…」

「お兄ちゃん、雪さんと理沙さんも連れてきたよ」

「やぁ、有楽斎君っ」

「吉瀬、あんたもう一人の馬鹿と一緒じゃないのね」

「………」

「話しやすい人の方がいいだろうと思って吉瀬先輩の知っている方をお連れしました」

 墓穴を掘るとはこのことだろうか……ちょっと考えれば可能性はあったのだし、有楽斎の知り合いを選んでくるのは美奈代の性格を考えれば予想できたはずだ。

「あ、あはははは……はぁ」

 乾いたため息が哀愁を感じさせたのだった。


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