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第109話:林間学校3

第百九話

 美奈代を探してうろついていた有楽斎だったが、どこにもいない。いないので誰かに聞く事にした。

「えっと、美奈代ちゃんだよね。私と一緒にお風呂入ったからもういないと思うよ」

 雪のいる部屋にやってきて尋ねてみたが、知らないようだ。ついでに、もうひとつ気になる事を尋ねておくことにした。

「雪さんって美奈代ちゃんと知り合いなんだねぇ」

「え、あ~、うん。まぁ、何と言うか……お祓いって言うか願を掛けるっていうか…ちょっとお世話になっていたりするからさ」

 雇い主という事だろう、雪が美奈代を雇ったおかげで有楽斎は見事に撃退されたのだ。

 雪が知らないのならやはり真帆子に聞いたほうがよかったのだろうかと館内をうろついていた真帆子を捕まえる。

「あは、捕まっちゃった」

「自分から捕まりに来たくせに」

 僕が善からぬ事を考えている男だったらどうするんだうんぬん……といった説教をする前に有楽斎は美奈代の居場所を尋ねるのであった。

「真帆子、美奈代ちゃん知らないかな」

「知らないけど……あの様子じゃお兄ちゃんの事を嫌いになってるかもね」

「うっ、そうかい……」

「うん、だから何か用事があるのなら美奈代ちゃんじゃなくて真帆子が代わってあげるよっ」

「真帆子に謝ったところで何も意味が無いから」

「あ、待ってよー」

 追いすがってくる真帆子をうまく巻いて有楽斎はため息をついた。

「携帯電話も所持禁止だしなぁ……」

 どこにいるのか見当もつかないので中庭をぼーっと眺めることにしたのだった。

「ん」

 大きな広葉樹が隅の方にぽつりとある。理沙と話して居た時には木なんてなかったはずだが、気が付かなかっただけだろうか。

 そろそろ日も暮れそうだが、その木の下に人がいる。背格好は理沙に似ており、他に探す当てもなかった有楽斎は一階へと降りて中庭に出てみた。理沙の髪はショートなので違うだろう……。

 まだ顔は見えないが、やはり理沙ではようだ。しかしまぁ、捜査の息抜きと言う事で顔を拝む為に回り込むことにする。休憩時間に美少女を眺めると言うのも心の保養となることだろう。

 もちろん、中庭を突っ切って相手の目の前でじっくりと観察するといった失礼なことはしない。心の保養にならなかったときのがっかりした表情を相手に見せないように本館に戻ってぐるっと回りこむ。三十秒とかからない距離だ。

「……あれ、おかしいな」

 広葉樹は青白いライトにでも照らされているのか、不気味に浮かび上がっている。その木の下にいたはずの女は消えていた。

「どこかに行っちゃったみたいだなぁ」

「誰がどこかに行ったんですか」

「え、あ……美奈代ちゃん」

 木の下にいたのが美奈代だとは思えないが、探していた人物を見つけることが出来たのだからよしとしよう……有楽斎はそう思って心の中でため息をついた。

 さっさと謝ろう、そしてさっきの後ろ美人を探そうと決めた有楽斎は潔く頭を下げる。

「あのさ、美奈代ちゃん……なんだか触れてほしくない話をしちゃったみたいで……ごめんね」

「いえ、いいんです。もう気にしてませんから……ところで吉瀬先輩は何をしていたんですか」

「え、あ、えーっと……中庭に立派な木があったし、その下に美奈代ちゃんっぽい子がいたから探しに来たんだよ」

 ちょっとした嘘をついてみたのだが、相手はきょとんとしていた。

「え…木なんてありませんよ」

 美奈代にそう言われて有楽斎は後ろを振り返る。

「あれ…」

 確かにそこにあったはずの広葉樹は姿を消していた。緑の芝がライトでかすかに照らされているだけだ。

「おっかしいなぁ」

「吉瀬先輩、ここって怖い話があるそうですよ。それが中庭の木なんだそうです。あるはずが無いのにたまーに見えるそうなんで……見えちゃった人は………」

 これでもかと言うぐらい怖い表情を美奈代はしたのだが残念ながらあまり怖くなかった。

「どうなるの」

「……木に食べられちゃうそうです」

「へぇ」

 人を食べるだなんて奇特な木もあったものだなぁと中庭の方を見る。当然、そこに木なんてあるわけなかった。

「でも安心してください。その時は私が吉瀬先輩を助けてあげますから」

「それは心強いね」

「はいっ、任せてくださいっ」

 薄い胸をどんと叩く美奈代と一緒に有楽斎は理沙の元へと戻ることにしたのだった。ただ、そんな彼を陰ながら見ていた人物が一人だけいるのだが……有楽斎は気が付かない。有楽斎の事しか目に映っていない美奈代も然りだった。


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