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第108話:林間学校2

第百八話

 ホテルに混浴なんてあるわけでもなく、有楽斎は野郎共の裸を眺めながら頬を摩っていた。

「おいおい、その手形はどうしたんだよ」

「……羨ましいかい……美奈代ちゃんにもらったんだ」

「へぇー」

 心の底からあなたが殴られてすっきりしました……友人はそんな表情をしていた。

「で、何したんだよ」

「何したって言うか何って言うか……『ご、ごめんなさいっ』って言われた後にばちーんってやられたんだ」

「ふーん」

「『妖怪退治とかしてるんだね』って尋ねた後すぐさまもらっちゃったよ……真帆子は『やった』とか言ってたし、御手洗先輩は嬉しそうに僕を見てて……僕に大丈夫かって聞いてきたのは雪さんだけだったよ」

 真帆子はこれで間違いなく美奈代ルートが消滅したと踏んでおり、花月が嬉しそうに見ていたのはそういう趣味だからだ。

 手形を撫でて有楽斎はため息をついた……そんな彼の目の前を尻が流れて行ったが何かを言うわけでもない。

「おいおい、目の前に尻が流れて行ったら突っ込むだろ」

「突っ込むだなんて卑猥な……ともかく、美奈代ちゃんに悪いことしたみたいだから謝っておいた方がいいよねぇ」

「さぁなぁ。別に美奈代ちゃんとの仲を悪くしたままで構わないのなら謝らなくてもいいんじゃねぇかな」

 人としてどうかと思われる選択肢だが、選べる一つの道だろう。真帆子だったらもろ手を挙げて喜んでいただろうが、真帆子に相談しているわけでもない。

「もっとも俺だったらこのまま謝りに行くね」

「素っ裸で行く気なのかい」

「おう」

 威風堂々と言う言葉が友人にはぴったりだろう……腰にタオルなんて巻いちゃあいない。

「今頃女子も風呂だろうからな。なっはっは、謝りに行くなら今だろ」

「違うでしょ」

 あり得ない話だが、順序立てるとすると……まず、男風呂の入り口付近で見張っている先生を突破、その後は女風呂の前にいる先生を撃破……めくるめく桃源郷を通り抜けて素早く美奈代を見つけなくてはいけない。

「難易度最高だろうね」

「越えるべき壁が高ければ高いほど、己の力を試されるってことだろ」

「……遠慮しておくよ」

 そろそろ上がろうかなぁとタオルで前を隠して立ちあがる。

「おいおい、男なら堂々としていろよ」

「何言ってるんだよ。そんなことしたらみんながびっくりしてひっくり返っちゃうよ」

 くだらない話をしていると脱衣所の方が騒がしくなってきた。

「先生が騒ぎだしたか……もう出ないといけない時間かぁ」

「いや、まだ一時間ぐらい余裕があったと思うけどなぁ……」

 教師の誰かを止める声と、悲鳴が聞こえてくる。曇った引き戸がスライドして後光の挿した人物が男風呂を眺めていた。それまで騒いでいた男子が黙り込んで一同揃って殴り込みをかけて来た人物を凝視していた。

「吉瀬っ。ちょっと来なさいっ」

 どこからどう見ても榊理沙だ。バスタオルを巻いているわけでもなく、かといって素っ裸というわけでもない、単なるジャージ姿である。

 そして、理沙の登場は男子達に混乱をもたらしたのであった。

「きゃーっ」

「いやーっ」

「見ないでっ」

 あられもない姿を理沙にみられている事に気が付いた男子生徒達は前を隠し、理沙に洗面器などを投げつけている。

「いたっ、こらっ、投げるのをやめなさいよっ……あっ、居たわねっ」

 立ちあがる湯気をものともせず、進軍してくる。逃げたほうがいいかもしれないと考えていた有楽斎はあっさりとつかまってしまった。

「え、何…どうしたのさ」

「あんたねぇ……どこで聞いたか知らないけど……って此処じゃうるさいわね」

 投げられてくる洗面器は理沙が避け、有楽斎に直撃している。最後に飛んできた石鹸が有楽斎の局部に当たる。

「おふっ」

 元からタオルで押さえていた場所だったが先ほどよりも強く抑えてしまう。その場にうずくまって悶えたかったが、理沙がそれを許してはくれない。奇妙な歩き方をして脱衣場まで連れて来られた。

「さっさと着替えなさいよ」

「……あのさ、恥ずかしくて着替えることが出来ないよ」

 痛みをこらえて有楽斎は理沙に告げるとようやく気が付いたらしい。

「べ、別にあんたの裸なんて気にしないわよっ」

 なんて理沙が言ってくれるわけでもない。

「そう、あんたが恥ずかしいって言うのならあっちを見ておくから一分以内に着替えなさいよ」

「わかった」

 理沙が後ろを向いたのを確認すると有楽斎はタオルをどかしてパンツに手を伸ばす。脱衣所にいた男子生徒達は風呂場に逃げたか、パンツをはいた状態ですぐさま廊下に出たようだ……中にはトイレに逃げ込んでいる男子もいる。

「終わったよ」

「それはよかったわ……あんた、髪は乾かさなくていいのね」

「うん」

 髪の毛に命をかけているわけではないのでドライヤーは使用しない。自然乾燥派なのだが、そこで一つ気が付いた。

「……あのさ、理沙……」

「何よ」

「ううん、何でもない」

「じゃあ行くわよ」

 男風呂を後にしながら有楽斎は考えた。

「………理沙が後ろを向いたって視線の先には鏡があるからなぁ……まぁ、減るもんでもないか」

 ジャージ姿の有楽斎が連れてこられたのは中庭を望む事が出来るベランダである。潮風を感じることが出来たが、あまり長い間は感じたくない。せっかくお風呂に入ったのにべたべたになってしまっては意味が無い。

「用件は早く済ませてね」

「わかってるわよっ。私も潮風浴びたくないからね……あのさ、吉瀬」

 しっかりと両目を見据えられる。女の子に免疫のない男子だったら勘違いするだろうし、告白前だったら有楽斎も喜んでいただろう……が、今では終わった関係と自分の中で位置付けている為に一切ときめいたりしなかった。

「子子子子は中学のころに『妖怪退治のみなたん』ってあだ名が付けられてからかわれていたのよ」

「へぇ」

「へぇ、じゃないっ。あんたあの子の先輩なんでしょ、だったらからかったりしちゃ駄目だからねっ」

「いや、僕はからかうつもりなんかは……」

「そうだとしても誰にだって触れられたくない、あまり知られたくない話だってあるでしょ。吉瀬にだって黙っておきたい事の一つや二つぐらいあるでしょ」

 あります、たくさん。

「子子子子は特にあんたに嫌われたり、からかわれたくないと思っているわよ」

「え、なんで」

「にっぶいわねぇ……でも、そんなことは今はどうでもいい。あんたが子子子子に謝ればそれで済むのよ」

「わかったよ。ちょうど謝りに行こうかなって思っていたところだから今度謝っておくよ」

「今度じゃ駄目よ。今すぐに謝りに行きなさいっ」

 ぎりぎりまで顔を近づけられる。それなりの迫力だったので有楽斎はしきりに頭を上下に動かした。

「わ、わかったよ」

「じゃ、行ってきなさい。許してもらえたら私のところにまた来なさいよ」

 理沙に追い立てられて有楽斎は美奈代を探しに館内をうろつき始めるのであった。


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