第106話:美奈代研究
第百六話
有楽斎が油断していたとはいえ、たった二人の女子高生に撃退された次の日。本日からいつもの授業に戻ったのだが、夏休みが近い為か騒いでいるクラスも多い。
「………はぁ」
昨日の襲撃が失敗に終わったのがそれなりにショックだったのか、それともたかが二人の女子高生に撃退されたのが問題なのかわからないが有楽斎は机に突っ伏してため息をついていた。
「おおい、どうしたんだ相棒」
「誰も友人の相棒になったつもりはないよ」
「つれねぇなぁ」
「まぁね」
朝食を終えるとすぐに食べ終えて学校へとやってきた。昨日は不意を突かれただけだ……とも思いたいのだが、相手にばれないよう立ちまわっていては子子子子美奈代に勝てそうな気がしない。
「どうした、フラれたのか」
「……そんなところだよ」
結局、ダニエルとの話し合いの結果もうまくまとまらず保留と言う形になった。
「まさか頼みの綱のお前さんがこうもあっさりやられるとは思いもせんかったわい」
「僕も同じですよ。まさか害虫駆除するみたいにぱぱっと片づけられるとは……本気出したら突破できますからねっ」
思わぬところに敵はいたものである。
いずれまた誘うからの…その言葉を残してダニエルは闇に熔けたのだった。
「………こりゃあちょっと美奈代ちゃんのことについて調べておいた方がよさそうだなぁ」
「え、何だよお前……年下には興味なかったんじゃないのか」
「いや、興味はないんだけど同じ部活になっちゃってさ」
嘘はついてない。紛れもない事実だ。
「ほら、僕の部活って変な感じの先輩が一人で、僕がいて、美奈代ちゃんがいるんだけど…二人の時だったら気まずいじゃないか。何か話せるような事があったらいいなぁと思ってね」
「なるほどな」
納得してくれたようで有楽斎はほっと胸をなでおろした。これまで貫いてきた事をあっさり覆したとなると築き上げた『有楽斎ブランド』が崩壊し、同級以上の女性から批判を買う恐れがある。
「よし、そうだな……明日面白いものを見せてやるから待ってろよ」
「わかった」
胸を叩く友人に有楽斎は持つべきものは友人だなぁとため息をつくのだった。
迎えた次の日の昼休み。
視聴覚室に無断で忍び込んで友人は手に持っていたDVDをディスク入れにセットする。
「これを手に入れるのは生半可な苦労じゃなかったぜ」
「そんなにすごいものなんだねぇ…」
「ああ、見たら声を失うぜ」
たった一人の下級生についての資料がまさかDVDであるとは想像しなかったのだが、声を失うとはどういう意味なのかさっぱり理解できない。
「さ、始まるぞ」
画面に現れた参、弐、壱の番号の後……『子子子子美奈代ちゃんの魅力』というタイトルが現れた。
「は…」
「きっと親が作成したもんなんだろうなぁ……子供が見たら発狂して壊すレベルだわ」
『子子子子家の次期当主の美奈代…彼女はまだあどけなさが残るが、その腕は確かだ。始技である水走を文字通り始めとして様々な技への派生、応用を習得している。』
そういったアナウンスの後に美奈代を後方から撮っている映像が流れ始めた。
「これ……」
「しいっ、こっからがいいところなんだからよ」
美奈代が握っている物は木の枝だった。雨は雨具をつけていない美奈代を遠慮なく濡らしているが彼女は動じてすらいない。
「……始技『水走』……」
枝を横に一閃するだけで衝撃波のようなものがアスファルトをえぐり、進んでいく。
まだこれだけでは物足りなかったようで枝を上空へと突きあげる。
「次技『雲割っ』」
そう叫ぶや否や、さきほどの衝撃波は上に飛んで行って曇天を蹴散らした。お天道様が覗いていたわけなのだが……有楽斎はその光景を馬鹿みたいに口を開けてみている。
「なっ、すごいだろっ」
「………いや、すごすぎだよ」
『まだまだ他にも技はあり、お客様のご要望、困っている妖怪の被害に対してアフターケアまでさせていただきます。つきましては画面下に表示されている電話番号に……』
一体この子子子子美奈代と言う人物は何者なのか……想像していたか弱い少女と言う偶像がもろくも崩れ去った。
「……なるほど、美奈代ちゃんは変人よりだったのか」
「変人かどうかはともかく、子子子子家って言うのは妖怪退治で名を馳せた家のようだなぁ……まっ、現代に妖怪なんていないし、冗談で作ったんだろうけどよ」
友人はそう言うとディスクを取り出してカバーの中にしまいこんだ。
「でもまぁ、俺が妖怪だったら退治されてもいいかもなぁ……こんなに可愛い女のだし」
へへっと笑う友人に有楽斎はあきれたようなため息をつく。
「僕はごめんだね……年下の女の子なんかに退治されるなんてさ」
「そうかぁ」
「ああ、年上のセクシーな退魔士になら退治されてあげるよ」
そういって彼は視聴覚室を後にするのであった。
これまで相棒だった帽子が洗濯機から出てきたら見るも無残な状態で……うっ、うっ、『悪魔の洗濯機』:とても大切な帽子であった。大学祝いに両親が買ってくれた帽子である。彼と帽子は仲が良く、雨の日、風の日、雪の日、雷の日……時には飛ばされ、田んぼに墜落、川に流されているのを救出したりさまざまな日々を過ごしてきた。とてもとても、大切な……「はいはい、あんたはいっつもそれを被っていたのは知っていたからね。今回はこっちに非があるから帽子買ってきて領収書渡してくれたら払ってあげるわよ」「え、まじで……それで手を打ちますわ」彼にとってその帽子はとても大切な帽子である。さて、まぁ、冗談はこのくらいに置いておくとしてさっさとこの小説を終わらせねば……最初は体からうねうねとした気持ちの悪い触手を出すのが特徴という少年も鬼と雪女の掛け合いになってしまってまぁ、設定の広がりというのを感じます。今また別の小説を書いていますがそちらは若干暗めの話なのでいつかコメディーに投稿しようかと思っている次第です。さっさと終わらせねば。