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第103話:幸運

第百三話

 期末テスト期間中であっても、部活があるところはある。もちろん、何かしらの大会が近いとか、マネージャーに会いたいから部長が強行しているとか、堂々と勉強したいといった健全な理由の元に行われているのだ。

 新聞部もテスト期間中に部活を行っている一つであり、理由は『何となく』の一言に尽きる。それ以上答えを求めたところでまともな答えが返ってくるとは思えなかった。

「……吉瀬先輩、この問題がわからないんですけど」

「ああ、ここだね。ここは確か……」

 一年、二年、三年生がそれぞれ一人ずついる為にバランスがとれていると言えばとれているだろう。足りていないものがあるとしたら顧問ぐらいだろうか。

 花月は勉強する気が起きないのか、それとも勉強するつもりが無いのかわからないが一人でクロスワードをしていた。

「縦がペンチ、横は短気ね…」

 一人ぶつぶつ呟きながら問題を解いていく花月を見て美奈代は有楽斎に尋ねる。

「花月先輩は勉強しなくていいんでしょうか」

「ああ見えて御手洗先輩はすっごく頭がいいんだよ。この前の中間テストなんて学年一位だったからね。この前は瞑想なんてしていたぐらいだから勉強する必要ないんじゃないかな」

「じゃあなんで部活に来ているんでしょうね。今日って勉強会ですよね」

 有楽斎から話を聞いていた為に勉強会だと思っているのである。暇だからという理由で部活があるとか彼女には伝えていない。

「……暇だからだと思うよ」

「私は勉強しなくてもいいけど、二人は勉強した方がいいんじゃないかしら」

 クロスワードを解き終わったようでひそひそと話をしている二人に話しかける。あわてて二人は自分の問題を解き始めた。

「まぁ、あまり勉強を持続させるのもいけないわね。吉瀬君、これをポストに入れてきて頂戴」

「え、これですか」

 手渡されたのは先ほど解き終わったクロスワードの答えだった。

「そうよ」

「でも何でですか」

「今度はこの部室に加湿器が欲しいからね」

 美奈代はあたりを見渡して信じられない顔をした。

「…あの、この部屋にあるものって全部……」

「私が全部当てたものよ」

「もしかしてこれも……ですか」

 パソコンを指差す美奈代に花月は頷く。

「す、すごいですね」

「一カ月に十通ぐらい出してるから当たるんでしょ。ま、別にあったら楽かなって言うのだけ送ってるんだけどね」

 それでもすごい幸運なんじゃないかと有楽斎と美奈代は顔を見合わせる。

「私一度も当たったことないです」

「僕もないね……小さい頃アニメのカレンダーに応募したくらいだよ」

「あ、私……そういえば一回だけ当たった事がありますよ」

「すごいねー」

「応募者全員プレゼントって書いてましたけど」

「………」

「さ、無駄話はそこまで。吉瀬君は早く出してきて頂戴な」

「わかりました」

 有楽斎が立ちあがると美奈代もそれに続く。

「私も付いていきます。息抜きがしたいです」

「そう、それじゃあ気を付けていってくるのよ」

 校門を出たところに郵便局がある為、そんなに気を付ける必要もないだろう。意外と知られていないことだが、この高校の裏門の方にポストがあったりする。

「花月先輩って強運で、成績優秀、スポーツ万能でスタイルも言いなんて……羨ましいです」

 ため息ひとつ、自分の凹凸のない身体を見下ろすのであった。

「本当羨ましいよねぇ」

 そういう有楽斎に美奈代が首をかしげる。

「あ、あの……吉瀬先輩もスタイルが良くなりたいんですか」

「いや、そうじゃなくて……頭良ければ学校の勉強なんてちゃちゃっと終わらせて自分のやりたい勉強できると思うからね」

「たとえばどんな勉強ですか」

 そう言われて少しの間考える。

「………当面の間は料理の勉強かな」

「ええっ……吉瀬先輩って料理するんですか」

「うん、まぁ……真帆子の料理の腕前はひどいからね」

 二人いるなら必然的にうまいほうが台所を任せられるだろう。うまいと言っても人並み程度だ。それでも天と地ほどの差が開いている。

「美奈代ちゃんも料理するのかな」

「はいっ。修行の一環で習いましたっ。あ、じゃあどのくらいの腕前か明日お弁当を作ってきましょうか」

「あ、いいのかな」

「はいっ」

 有楽斎としては日常生活ではあんまり使われない『修行』と言う言葉が気になったのだが、聞かない方がよさそうでもある。

 そんな二人を屋上から見ている者がいた。

「ぐぎぎぎ……お、お兄ちゃん……美奈代っちゃん……あんなに仲よさそうにあるいてぇ……」

 この言いようのない恨みを誰にぶつければいいのか分からなかったが、とりあえず屋上に設置したサンドバックに蹴りを入れたりした。進入禁止の為に他の生徒は当然いない。

「真帆子も新聞部に入ればよかったなぁ…ううん、真帆子は真帆子の魅力でお兄ちゃんを絶対に射止めるんだからっ」

 そういって真帆子は設置していたサンドバックを破壊したのだった。



 ちなみに、有楽斎と美奈代が出しに行ったはがきは後に当選。どう間違えたのか知らないが新聞部には三十二型の液晶テレビがやってくることになったのだった。



「吉瀬先輩っ作ってきましたよっ」

「ははは……あ、ありがとう…」

 そして、約束通り美奈代が作ってきたお弁当だったが気合の入れようが違った。重箱でお弁当を作ってきたものだから有楽斎は苦戦を強いられることになったのだ。

「……軽はずみな発言は控えておこう……」

 全てを食べ終えて有楽斎はそう心に決めるのであった。


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