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第10話:魅力的

第十話

 なんだか、誰かに見張られている気がしてならない。有楽斎は雪の買い物に付き合いつつあたりを見渡す。日曜日だからか、周りに人は多いのだがじっと見てくる奴がいるわけもなかった。

「あれ、どうかしたの」

 いきなり立ち止まってあたりを見渡し始めた有楽斎より一歩前で雪も立ち止まる。

「え、うーん、誰かに見られている気がするんだけど」

 再びあたりをきょろきょろしだした有楽斎に人差し指を向けて雪は言うのだった。

「あ、それってさ」

「心当たりでもあったりするの」

「きっと私の事を見ているんじゃないかなぁ」

 片目をつぶってなぜかポーズを決める雪を見て有楽斎はそっと溜息をついた。

「えーと、なんで」

「ほら、私ってかわいいから」

 これまた別のポーズをとり始める雪。有楽斎はどう対応したらいいか考えつつも本音を口にしようとしたが、とりあえず情報分析を始める。

「うーん」

 有楽斎はじーっと雪の事を見る。

「え、な、何」

 じっと見つめられて何となく顔をそらす。いつもは白い肌が少しだけ朱に染まっている。

「僕的に七十九点かな」

「え」

「ちょっと後ろ向いて」

 雪が動いてくれなかったので有楽斎が背後に回る。

「うん、後ろ姿は百点満点だよ」

「ええ~、何その基準」

「ちなみに赤点は八十点からだから」

「うわ、私赤点じゃんっ」

「まぁ、見た目はね。人としての総合点数は九十五点かな。ああ、背後の点数は入っていないから安心してね」

 雪はあきれたように有楽斎を見る。買い物かごの中に入っている枕カバーを手にとって有楽斎の頭にのせてみた。

「何してるの」

「いや、どんな事をしたら点数上がるかなーって。ところで、その点数は何の点数なの」

「女の子だから、とかじゃなくてこの人とは一緒にいても大丈夫だなーって点数だよ。僕は自分に点数つけるなら総合点数で七十ぐらいかな。赤点だね」

 そうだね、だって君は半分妖怪の血が混ざっているからね、いや、私はそもそも雪女だからね。そんなことを当然言えるわけでもないので心の中でそっと呟いてみたりする。

「有楽斎君はいい人だと思うけどさ」

 真正面から言うのが少しだけ恥ずかしいので顔をそらしてそう言ってみるが有楽斎はいたって普通だった。

「そりゃまぁ、そう君は言うかもしれないけど僕は自分に不満を持っているんだよ」

 お前はナルシストかよっと過激な人はゴム弾を有楽斎に撃ち込んでしまうかもしれない。幸い、雪は過激な人物ではなかったのでゴム弾を撃ち込むことはなかった。心の中では一応突っ込んだのだが。

「誰だって自分に不満を持っているかもしれないけどね。有楽斎君はとりあえず私の中では百点満点だから安心してよ」

「ありがとう、ああ、そういえば扇風機も必要だったね」

「あ、そうだった。ごめんね、また荷物増やしちゃって」

「いいよいいよ、家事とかしてもらってるしさ」

「そりゃまぁ、家賃払ってないし、白いおまんま食べさせてもらってるし」

 他を挙げるとしたら毎朝、有楽斎は雪を起こしており、朝食を食べさせ、皿を洗い、洗濯物を干している。雪がすることは風呂掃除を含む掃除、家探し、有楽斎の代わりにテレビを見て笑い、調査報告書の書き込み、洗濯物を入れて畳み、昼寝などだ。とても彼女が忙しい日々を送っていると伝わることだろう。

「けどまぁ、有楽斎君がいい人で助かったよ。それはそれは恐ろしい人物だって長老から聞いていたからさ」

「長老って言葉いまだに使われているんだね。まるで隠れ里みたいだね」

 野々村有楽斎と言う人物は既に妖怪の力を解放しつつあり、雪人一族を根絶やしにしようと企んでいる、そのためには有楽斎のことについて調べるべきだ。決して正体を明かしてはならない、明かした暁にはその白い肌を真っ赤に染められることだろう………と、長老に脅されていたのである。そしてまぁ、隠れ里というのも間違っていないだろう。

「あ、えっとね、ご両親が有名だから私の村の長老っていうか、村長っていうかなんていうかね、小さいころの有楽斎君が暴れていたのでもみたんじゃないのかなぁ」

「うーん、隠れ里なんて行ったことないし、長老っぽい人にあったこともないけど。それに、僕の親はどっちかというと裏方だからそんなに有名じゃないと思うよ」

「きょ、局地的に有名なんだよ。だって、私も知っているくらいだからさ」

「ふーん。ところで、雪の出身地ってどこなの」

「う」

 遂にやってきてしまった。雪は汗をかきつつも用意していた答えを喉から絞り出した。

「お、女はね」

「女羽ってところなのかぁ。うーん、ちょっと知らないな」

「いや、違うよ。有楽斎君、女はね、秘密があったほうがきれいに見えるんだよ」

「へーそうなんだ。じゃあ僕が雪の出身地知ったら雪は今よりきれいじゃなくなるんだねぇ」

「そうならないように毎日、秘密を作っているんだよ」

 これは本当である。毎日毎日、有楽斎の秘密を手当たり次第に調べているという秘密でだったりする。

「ま、とりあえず扇風機を買いに行こうか」

「う、うん」

 なんとか面倒な話題は去ってくれたな、危なかったぜぇ。心の中でそう呟いて有楽斎の後を続く。有楽斎は有楽斎で『男も秘密を持ったら格好いいなんて言われるのだろうか』と考えていたりする。



――――――――



 帰路、全ての荷物を根性で持っている有楽斎………というわけでもなく、荷物はちゃんと二つに分けて二人で帰っていた。当初、有楽斎が一人で持っていたのだがこけて雪のパンツを頭に付けたことからこうなったのである。

「結局、誰かが見ているような気が最後までしてたんだけど」

 有楽斎は雪にそういい、雪は首をひねった。

「うーん、それってもしかして誰かが有楽斎君の事を誘拐しようと思っているんじゃないのかな」

 なーんてね、そう言おうとしたのだが有楽斎のほうが深刻な表情をしていた。

「誘拐かぁ。そうかもしれないねぇ」

「え」

「僕さ、やっぱりお金持ちの子供だからよく狙われているのかもしれない。小さいころからさらわれることが多かったんだよ」

「え、ええっ」

 嘘臭いっ、そう思いつつも有楽斎の目はマジだった。

「ほら、ここ」

「ん」

 アンダーシャツを雪に見せて有楽斎はため息をついたのだった。

「発信機が仕込まれているんだ。僕がどこに連れて行かれたのかすぐにわかるようにね。もちろん、これが作動するのは僕が家に三日以上いなかったときだけだけどね」

「大変なんだね」

「そうだね。はぁ」

 ため息は苦労を無理やり吐きだしているようにも雪には見えるのだった。


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