夏のあの日に――
二時間キャッツファイトという、参加者がお題を出し合って2時間で全部含めた絵を描くという企画があったのですが、ぼくは絵が描けないのでならば小説でエア参加してやろうじゃないかと書いたのがこれですw
お題:緑 / アジ / 刺繍 / 信号機 / 旗 / ピンク髪 /魚 / 流れ星 / 最終形態 / フライト / 熊 / 緊縛 / 涙 / 茄子 /夜道 / 花火 / 汗 / マスカラ / 安心毛布 / 箱 / 鏡 / はさみ /ひまわり/ 刃物 / 反転 / ●●● / 縫い目 / 幽霊 / 靴下 / 円 /鳩サブレ/ 腹巻 / 紙 / 影 / ハート / ランプ / おおかみ / 飛行機 /便器 / 旗 / テトラパック / 赤ふんどし / ヘッドホン / 女子高生 / デコルテ / 電話 /タバコ / コンバイン / エアコン / ゴーグル / 太陽 / 腹チラ / リボン / ミサイル /
肉 / おじいちゃん / トタン屋根 / コサージュ / オッドアイ / ネコ / 薙刀 / シーツ /
ふたり/ つの / ドライヤー / うし / かんざし / マウス / 歯ブラシ / ケミーキラー /
夏休みだった。
学生の楽園、夏休み。宿題さえなければ完璧の夏休み。
高校が一時休止となるこの時期。それでもぼくは例年通り、ただ友人と怠惰な日々を過ごし、楽しくも虚しい日々を送る夏休み。のはずだったんだ。
あいつに会わなければ……
ぼくがあいつと出会ったのは、神社の夏祭りだった。
友人と一緒に行ったその夏祭りは、地域活性化の狙いもあって町内会が大いに張り切っていて、客の数も田舎の祭りとは思えないほどの多さで混み合っていた。
夜店が建ち並ぶのは当然として、盛大に御輿を担ぎ上げるふんどしの男達。中でもリーダーと見られる赤ふんどしの、見事に頭がはげ上がった男のかけ声と来たら、周囲の野次馬の歓声にもかき消されることはなく、夜空に響き渡っていた。
その祭りの最中、ぼくは当然のように人混みに飲まれ、友人とはぐれてしまった。携帯電話で連絡を取り合おうとはしたものの、中々繋がらず、合流を諦めて一人で屋台を見て回ることに決めた。……携帯がつながらなくなるなんて一体どれだけ人がいるんだよ。
……なにやってるんだろ。
人の波に押し流され、思うように歩けなくなっていたぼくは、額に大粒の汗を浮かべながら祭りに来たことを後悔し始めていた。こんなことならエアコンの効いた部屋でヘッドホンをすっぽりと被ってマウスをかちかちやりながら閉じこもって入ればよかった。
思い出されるのはネット上に転がる動画の数々。最近話題になっていたケミーキラーの動画は爆笑と共に女性に対する猜疑心を深く深く掘り下げられたものだ。まさかマスカラであそこまで目が大きくなるとは。もはやあれは魔術の域に達しているだろう。
思えばもう半ばを過ぎた夏休み。ぼくは一体なにをして過ごしていただろうか。
出かけたのといえばおじいちゃんのいる田舎。昔ながらの農家という感じのおじいちゃんの家では、のんびりしていたかったぼくも強引に手伝わされたものだ。
コンバインを操るおじいちゃんの後ろ姿を見ながら太陽の下、延々と働き続けた日々。思い出しただけでも涙が出てきそうだ。
そうは言っても、ぼくはおじいちゃんの家が決して嫌いではなかった。歴史を感じさせる黒電話に、畳の匂いが染みついたシーツ。雨音で軽快なリズムを奏でるトタン屋根。臭いは酷いがどこか愛嬌のあるうしに、つのがくるくると可愛らしいひつじ。あそこには都会にはないものがたくさんある。……まあここも都会とは言えないんだけどね。
おみやげの鳩サブレをおいしそうに食べながら、腹巻き姿のおじいちゃんはいつもぼくが悪いことをするとおおかみが食べに来るぞと脅してきたものだ。小さい頃ならともかく、今でもそう言ってくるのだ。きっとあの人にとってぼくはまだ小さな子供なんだろうな。
人の熱気にやられながら、まるで走馬燈のように数週間前のことを回想していたぼくは、やがて境内の外れに辿り着いていた。
無意識のうちに人がいないほう、いないほうへと動いていたのだろう。周囲には人影がいなくて、少し遠くに見える明かりと人の群れがこことは違う、うたかたの世界のように思えた。
ぼくもあそこに戻ろうか。
一瞬、光に引き寄せられる羽虫のように誘惑にかられたが、苦笑いをしながら溜め息を漏らす。あそこはぼくの居場所じゃない。そう思った。
さて、これからどうしようか。
今更友人と合流する気もない。かといってあそこに引き返すつもりもない。それならばいっそ、もう帰ってしまおうか……
「おい、そこのお前。こんなところでなにをしている?」
茂みの側から凜とした声が響いてきたのはそんなときだった。
「え……」
声のほうに目を懲らすと、そこには女子高生くらいの年齢の女の子がいた。
何故あっちがぼくを見つけられたのにぼくが気が付かなかったのかは簡単だ。ぼくが後から着たのを見ていたのもあるけど、単純にこちらのほうが明るいからだ。
それでもぼくはその女の子を見たとき、何故今までその存在に気が付かなかったのだろうかと思ってしまった。それほどまでにその女の子は強烈だった。
外国人か、ハーフなのだろう。ドライヤーなど必要としなさそうなさらさらの長い髪は漫画のようなピンク髪。そのねこを思わせるつり上がった瞳は――オッドアイというものだろうか――右目はルビーで左目はサファイア。そんな欧風の容貌にもかかわらず頭上で威光を放っているかんざしが全く似合っていなかった。
「――い。おい、聞いているのか?」
呆然と見とれていたぼくは、女の子の声にはっと我に返る。
「え、あ、ごめん。なに?」
「だから、ここでなにをしていると聞いている」
「なにって……夏祭りに来たんだけど」
少女の勢いに押されるようになりながらもぼくは答える。
「一人でか?」
「いや、友達と一緒にだけど」
言うと、少女は怪訝そうな顔になる。
「友達? どこにいるんだ? お前の友達とは夜霧のことか? それとも姿が見えない透明人間なのか?」
「……そんなわけないじゃん。ただはぐれただけだよ」
わけの分からないことを口走る少女に若干引きながらもそう返すと、少女はいきなり笑みを浮かべる。
「そうか。なら今は一人なのだな!」
「そ、そうだけど……」
「わたしも一人なんだ」
見れば分かる。
一人と一人でふたりだな。と、呟きながら少女はこちらに色違いの目を向ける。
「夏祭り、とやらに来てみたのはいいが、どうにも人が多すぎる。そうは思わんか?」
「まあ、ね」
「そこでだ! わたしの代わりになにか適当なものを見繕ってきてくれ!」
「は、はぁ?」
急になにを言い出すんだ、こいつは。そこでって、どこでだ。
「当然、ただでとは言わない。ほら、これお金」
「わっと」
放り投げられた巾着袋をお手玉しながら受け取ると、少女は満足げな笑みを浮かべる。
「では、頼んだぞ!」
なんでぼくがそんなことを。
しかし文句は口のなかでもごもごとまごつき、結局ぼくはきらびやかな喧噪の中に戻ることとなってしまった。
我ながら情けないとは思いつつも、どうにもあの少女には逆らえないような気がしたのだ。
ぼくは人波に逆らいながら、必死で屋台を駆け巡った。――手に握った袋を落とさないようにしながら。
「うん。うまい、うまい」
少女は両手に抱えた食べ物を次々と口へと運ぶ。
屋台には様々な食べ物が置いてあって、わたあめや焼きそばなんて定番のものから、肉串から、アジやよく分からない魚のフライ、焼き茄子なんてものまであった。
一体誰がこんなものを食べるんだと思いながらも、使いっ走りにされたわずかながらの反抗心から買ってきたそれらを、少女はおいしそうに食べていく。……見ているこっちが胸焼けしそうだ。
「……ん? どうした?」
「え? い、いや……」
少女は丈の短い、緑色のハートが刺繍されたTシャツを着ているため、時折見える腹チラに思わず顔を背けてしまい、ついつい頭上のかんざしに目がいってしまっていた。Tシャツの刺繍は縫い目が細かく、安物ではないことが伺える。
「そのかんざし似合ってないなと思ってさ」
「……そうか」
少女がしょんぼりとする。ついつい余計なことを言ってしまった。
「いやさ、ほら。君みたいな見た目だったらかんざしなんかよりもリボンとか、コサージュとかのほうが似合いそうだからさ」
「コサージュは髪を結わえるためのものではない」
コサージュがなにか、そもそも詳しく知らない。思いついた言葉を並べただけなのがばれたようだ。
「……このかんざしはな、わたしのばばさまから貰ったものなのだ」
ぽつりと、少女は漏らす。
「小さいときに貰ったものでな、この国での大切な思い出の品の一つなんだよ」
「……そっか。ごめん」
この国、ってことはやはり外国の人なのか。それならばどこかずれた考え方も、今時の女子高生らしからぬ言葉遣いも納得がいくというようなものだ。
「つまりこのかんざしは、わたしにとって安心毛布なんだよ」
「たぶんその使い方は間違ってると思う」
やはりどこかずれている。
そこで話題は途絶えてしまう。
黙々と両手の荷物を減らしていく彼女。
ぼくは、さっきのが気まずくて、声をかけることができないまま、黙って足で地面に円を描き続ける。
――ああ、気まずい。
誰でもいい。このさい幽霊でもいいからこの沈黙をぶち破ってくれ。
心の中でそう願い続けていたときであった。
「ふぇっ!?」
突然した大きな破裂音に、少女が声を上げる。
「な、なんだ一体!?」
「ああ、花火だよ」
「花火?」
静寂を打ち破ったのは、幽霊ではなくて花火だった。
夜空に輝く満開の花。昼間のひまわりにも負けずに大きく咲き誇るその花々に、少女は目を輝かせている。
「ふぁ……すごいな」
「花火見るの初めて?」
「うん! やっぱり日本はすごいな!」
はしゃぎだした少女に、大げさだとは思いながらも自然と顔がほころんでくる。
しばらくふたりでの花火鑑賞を満喫した後、人の波が帰り道を埋め尽くす前ぼくらは帰ることにした。
夜道を歩くぼくたち。わずかな電灯が薄く長い影をふたつ形作る。少女は大はしゃぎで祭りのことを話し、ぼくはただ相槌を打ってるだけでも楽しかった。
「じゃあ、わたしの家こっちだから」
交差点の信号機に差しかかったところで少女が言う。
もうお別れなのか。
いつの間にか少女といるのが楽しくなってたぼくは、その胸に寂しさがこみ上げるのを、なんとか顔に出さないように必死だった。
「それで、さ」
なんとか別れの言葉を振り絞ろうとしていたぼくに、少女は珍しく遠慮がちな声色で尋ねる。
「わたし、日本に来て日が浅いから、あんまりここら辺のこと知らないんだ。だから……もしよかったらさ、また今日みたいに案内してくれると嬉しいなー、なんて……」
今日のが案内に含まれるのかははなはだ疑問だが、ちらちらとこちらに目線を投げかける少女を見つつ、苦笑しながらぼくは答える。
「いいよ」
「ホントに!?」
途端に顔を輝かせる少女。その笑顔を見て、ぼくはこの選択が間違ってなかったと思う。
「ありがと!」
そう言えばまだ名前聞いてなかった。
尋ねたぼくに少女は若干表情を曇らせながら答える。
「うーん。わたし自分の名前好きじゃないんだ。日本的じゃないから」
そりゃそうだろ。見た目も十分日本的じゃないし。とは口に出さなかったけど。
「それじゃあね……マツリ! 今日お祭りで出会ったから、わたしのことはマツリって呼んで!」
「安直だな」
苦笑しながら、ぼくは頷く。
「でも、うん。分かったよ。それじゃあよろしくね、マツリ」
「うん。よろしく!」
こうして、ぼくとマツリの短い夏が始まった。
それからというものの、ぼくとマツリは遊びまくった。それこそ、一生分の遊びをし尽くしたかと思うほどだ。
熊が見たいと言うマツリと動物園に行ったり、日本の武術をしたいと言い出すマツリに付き合って、何故か薙刀で天地が反転するような目に遭わされたり、道に落ちたタバコに憤慨したマツリとゴミ拾いをしたり、夜に何時間もかけて一筋の流れ星を見たり、緊縛という文字をどう読むかを聞かれて返答に困ったり、自由工作だと言って箱や鏡やはさみやランプや歯ブラシを使って意味不明な物体を錬成したり、水着とゴーグルを装着して川に泳ぎに行ったり、和式の便器は使いづらいと文句を言われて、ぼくにどうしろと逆に文句を言い返したり、デコルテの服を着て黒い靴下を履いたマツリとテトラパックの紅茶を飲んだり。
マツリは紙を切り裂く刃物のような鋭さとミサイルのような猪突猛進さを兼ね備えていてとにかく無茶苦茶だったけど、それでもすごく楽しい夏休みだった。
「それにしても遊んだなー」
夏休みも今週で終わりとなった頃、ぼくは満足しつつもへとへとになっていた。
「もうこれ以上やることもないだろ」
「いやいや、まだまだ甘いぞ」
しかし、マツリは芝居がかった口調で言う。
「わたしの底力はまだまだこんなもんじゃない。わたしはまだ最終形態を残しているからな!」
「最終形態ってなんだよ!」
マツリはおかしそうに笑う。
「でも、もうすぐ夏休みも終わりだよ」
「あ……」
そう口走った途端、マツリが顔に影を落とす。
「そうか……夏も、もう終わりなんだ……」
「うん、だからさ」
「――だから……なに?」
「え?」
「だからなんなの? もうお終い? そう言いたいの?」
「いや……」
急に怒りを見せるマツリに、ぼくは驚いて口ごもってしまう。
「……ごめん」
そんなぼくの様子に気付いたかのように、マツリがうつむいて謝る。
「あのさ、マツリ――」
「ごめん。今日は帰るね」
声をかけようとしたが、マツリはぼくの言葉を遮ると走り去ってしまった。
一体なんだって言うんだ……?
それから数日、マツリはぼくの前に姿を現わさなかった。
何度携帯にかけても繋がらず、残りわずかな夏休みをぼくはどうしようもない思いで過ごしていた。
夏休みも残り二日となったとき、昨晩夜更かしをしてしまったぼくが日も大分昇ってからベッドから這い出してくると、携帯に一件の着信履歴が残っていた。
『マツリ』
画面にはその三文字が写っていて、慌てて残っていた留守番メッセージを確認したぼくは、ろくに顔も洗わずに家を飛び出し、自転車で駆け出した。
メッセージにはマツリのか細い声でこう残されていた。
日本には夏の間しかいられなかったということ。
夏が終わったらまた外国に帰らなければいけないということ。
今日のフライトで帰ってしまうということ。
そして――ぼくと過ごした日々が本当に楽しかったということ。
「ばかやろう!」
ぼくは必死で自転車を漕ぎながら叫ぶ。
なんでもっと早く言ってくれなかったんだ! もし言ってくれたら……
そこまで考えて気付く。言ったところでどうなっただろうか。きっとどうにもならなかった。マツリにもそれが分かっていたからあのときあんな顔をしていたんだ。
だけど、こんな別れってない! マツリともう一度会わなければ!
ペダルを漕ぐ足に力を込める。足がはちきれそうになるがそんなの知ったことではない。今は一瞬でも早く、マツリの元へ――ただそれだけを考えていた。
各国の旗が翻っている飛行場についたぼくは自転車を乗り捨てて、中へと急く。
その背後で飛行機が飛び立っていく。どうか、どうかあれがマツリの乗っている飛行機じゃないようにと祈りをこめながら走る。
「――マツリ!」
夏休みの終わりで混み合っている人混みの中、ぼくはあのピンクの髪を見つけて大声で叫ぶ。
「きて……くれたんだ」
大きく二色の目を見開いたマツリが声を震わせる。
「当然……じゃ、ないか……」
肩で息をするぼくを心配そうに見つめながらマツリが言う。
「ありがと、来てくれて嬉しかった。でももう行かなきゃ……」
マツリはそう言うとぼくの目の前から去っていこうとする。
「待って、一つだけ!」
なんとか息を整えつつ、ぼくはマツリに呼びかける。振り向いたマツリのピンクの髪がふわりと広がる。
「楽しかった!」
「!」
「ぼくも、楽しかった! マツリと一緒に夏を過ごせて、楽しかった! だから、また……」
「●●●」
「……え?」
マツリがなにかを口走る。でも、それは日本語ではないようでうまく聞き取れなかった。
マツリはにこりと微笑むと、搭乗口へと消えていった。
ぼくはいつまでもそのピンクの後ろ姿を見送り続けた。
後日、ぼくは足りない頭を総動員して最後にマツリが言い残した言葉を調べた。
どうやらあれはドイツ語だったようだ。……ならそう言えよ。分からないよ。
その言葉の意味はこうだった。
『――再会を祈る』
きっと、日本語で面と向かってそう言うのは恥ずかしかったのだろう。
髪と同じピンク色に染まるマツリの頬を想像しながら、ぼくは笑みを隠しきれなかった。
そうさ、なにもこれで終わりってわけじゃない。まだまだ夏が終わり、秋が来たとしても一周廻って夏はまたやってくる。
じりじりとまだ肌を焦がす太陽を見上げながらぼくは、どこかで同じ空を見上げているはずのマツリに向かって呟いた。
「また、夏の日に――」
〈おわり〉
はい、わかると思いますけど、後半無理矢理お題消化しましたww
2時間本当にぎりぎりでしたw最後の1分まで書いてました。いやー疲れたけど楽しかった!絵が描けないから文章でとかどうなんだと思ったけどエア参加だからいいよね!
またこんな企画があったら参加したいなー。エアでよければw




