「役に立てる喜び」
第5話です。
初めての投稿作品のため、拙い点も多いかと思いますが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
「……やりたい……です」
そう言って、ローグの工房で手伝いを始めた――その日。
◆
「ほれ、その葉は違う」
「……っ、はい……!」
慌てて手を引っ込める。
「見た目は似ておるがな、そっちは毒じゃ」
「……こ、こっちが薬草……」
「そうじゃ」
ローグは短く頷いた。
「触ってみい。違いが分かるはずじゃ」
恐る恐る指先で触れる。
(……あ……)
ほんの少しのざらつき。
微かな香りの違い。
「……ちがう……」
ぽつりと零す。
「ほう」
ローグが目を細めた。
「初日でそこまで分かるか」
「……なんとなく……」
「上等じゃ」
短い一言。
それだけなのに――
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
(……できた……)
◆
「それ、煎じるぞ」
「……はい……!」
火にかけられた鍋から、ふわりと香りが立つ。
「薬はな、“待つ”のも仕事じゃ」
ローグの低い声。
「焦れば失敗する」
「……はい……」
じっと、鍋を見つめる。
ゆっくりと色が変わっていく様子に、目を奪われる。
「ほれ、混ぜてみい」
「……こう……ですか……?」
ぎこちなく手を動かす。
「力が強い。もう少し抜け」
「……っ」
何度もやり直す。
少しずつ、感覚が掴めてくる。
「……うむ、いいじゃろう」
その言葉に、ぱっと顔を上げる。
ローグはほんのわずかに頷いた。
それだけで――
胸が、ふわっと軽くなる。
◆
「それを向こうに運べ」
「はい……!」
頼まれたことをする。
次に何が必要か考える。
動く。
手伝う。
(……やくに、たってる……)
その実感が、胸に広がっていく。
気づけば――
「……たのしい……」
小さく、そう呟いていた。
◆
離れの外。
その様子を、静かに見つめる影があった。
銀の髪に、紅い瞳。
オズワルドは腕を組み、何も言わずに立っている。
小さな背中が、せわしなく動く。
慣れない手つき。
それでも、一生懸命に。
そして――
時折見せる、笑顔。
「……」
その姿を見て。
ほんのわずかに、肩の力が抜けた。
◆
「……全く…入ってくれば良いものを…」
ぽつりと、ローグが呟く。
外に視線を向けたまま。
「心配なら側におればよかろうに…」
くつくつと笑う。
「困ったお方じゃ」
◆
「……今日はここまでじゃ」
ローグが告げる。
「……ありがとうございました……!」
ぺこりと頭を下げるフィラ。
その顔には、はっきりとした笑みがあった。
「……あの……」
少し迷うようにして、口を開く。
「……また、来てもいいですか……?」
その言葉に、ローグは鼻を鳴らした。
「好きな時に来い」
素っ気ない返事。
だが、拒む気配はない。
「……はい!」
ぱっと顔が明るくなる。
「また来ます……!」
そのまま、小さく手を振って走っていく。
◆
その背中が見えなくなってから。
静かな足音が、工房に入ってきた。
「……行ったか」
「ああ」
短い会話。
◆
「……あの娘を頼む」
低く、真っ直ぐな声だった。
ローグがわずかに目を見開く。
そのまま、オズワルドは――
頭を下げた。
◆
一瞬の静寂。
そして。
「……ほう」
ローグは、ゆっくりと口元を緩めた。
「お主が、頭を下げるとはのう」
どこか楽しげな声。
◆
「相変わらず、不器用ですなぁ」
くつりと笑う。
「若」
その呼び方に。
オズワルドは、わずかに眉を動かした。
だが、何も言い返さない。
◆
「任せておけ」
ローグが静かに言う。
「人間だろうが何だろうが関係ない」
「薬を扱う者にとっては、皆同じじゃ」
◆
「……ああ」
短く頷く。
それだけで、十分だった。
◆
オズワルドは踵を返し、去っていく。
その背を見送りながら――
ローグは小さく息を吐いた。
「まったく……」
ぽつりと呟く。
「昔から変わらん」
そして、どこか優しく笑った。
◆
その頃。
フィラは自室のベッドに座っていた。
(……できた……)
今日のことを思い出す。
薬草の違い。
混ぜる感覚。
褒められたこと。
「……たのしかった……」
胸の奥が、じんわりと温かい。
(……また、いきたい……)
そう思えることが――
何より、嬉しかった。
第5話をお読みいただきありがとうございます。
少しずつできることを増やしていくフィラのように、私自身も一歩ずつ、皆さまに楽しんでいただけるお話を書いていけたらと思っています。
これからも温かく見守っていただけると嬉しいです。




