必要とされたい
今回から決まった時間に投稿しよう!
と、決めたのに…今日に限って…
でも、何とか間に合いました。
さて、第4話です。
「ここにいていい」と言われても、フィラの中にある不安はまだ消えていません。
それでも今度は、自分から「何かしたい」と一歩踏み出します。
けれど、その想いはうまく届かず――。
不器用な大人と、居場所を探す少女。
すれ違いながらも、それぞれが少しずつ動き始める回です。
新しい出会いにもご注目ください。
「……お仕事を、ください」
執務室の中。
机に向かっていたオズワルドの手が止まった。
「……何だと」
低い声が返る。
フィラは小さく息を吸う。
「……何か、できることを……」
言葉を探しながら、続ける。
「……お世話になっているので……」
視線が向けられる。
逃げたくなるのを、必死に堪える。
「……必要ない」
短い一言だった。
「子供は働くものではない」
淡々とした声。
「食って、寝ていればいい」
「……でも……」
思わず口を開く。
「……役に、立ちたいです……」
その瞬間、わずかに空気が張り詰めた。
だが――
「必要ない」
重ねられる言葉。
今度は、はっきりとした拒絶だった。
「……お前は何もしなくていい」
「……っ」
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
「暇なら遊んでいろ」
「それが子供の仕事だ」
淡々と続けられる言葉。
「……下がれ」
それで終わりだった。
「……はい……」
小さく答え、背を向ける。
扉を閉めた瞬間。
胸の奥が、重く沈んだ。
◆
扉が閉まると同時に、室内に沈黙が落ちた。
「……閣下」
ラースが静かに口を開く。
「少々、言葉が足りませぬな」
「……」
オズワルドは何も答えない。
「足りないどころか、逆効果でしょう」
ラルフが淡々と言う。
「完全に拒絶されたと受け取ったはずです」
「……」
書類を持つ手が、わずかに強くなる。
「守ることしか考えておられないのは分かりますが」
ラースが続ける。
その横で、ラルフが肩をすくめた。
「昔からこの方はこうですからね」
ため息混じりに言い放つ。
「乳兄弟として言わせてもらえば――」
一歩も引かず、真っ直ぐにオズワルドを見る。
「閣下は、肝心なところで言葉が足りなさすぎる」
「……ラルフ」
ラースがたしなめるように名を呼ぶ。
だが、ラルフは気にした様子もない。
「遠慮していては伝わりませんので」
あっさりと言い切る。
「“必要ない”などと言われて、あの子がどう受け取るかくらい分かるでしょう」
「……」
オズワルドは、何も言い返さなかった。
否定もしない。
視線を逸らすこともなく、ただ沈黙する。
その沈黙が――何よりの答えだった。
「……あの様子、ご覧になっていたでしょう」
ラースが穏やかに続ける。
「常に怯え、顔色を伺う」
「……」
「だからこそ、“ここにいていい”だけでは足りないのです」
ラルフが小さく息を吐く。
「“必要だ”と言えばよろしい」
「……」
再び、沈黙。
だが今度は、先ほどとは違う重さがあった。
やがて――
オズワルドはゆっくりと立ち上がる。
「……どこへ?」
ラルフが問う。
「……様子を見る」
短く、それだけ言う。
だがその足は、迷いなく扉へと向かっていた。
◆
その頃。
フィラは一人、庭の片隅に立っていた。
(……いらない……)
頭の中で、言葉が繰り返される。
(……何もしなくていい……)
胸が、じわじわと痛む。
(……やっぱり……)
自分は、ここにいるべきではないのかもしれない。
「フィラ様」
優しい声に、顔を上げる。
ツェリが心配そうに見ていた。
「少し、お外を歩きませんか?」
「……はい……」
小さく頷く。
◆
庭の奥へと進む。
風が頬を撫でる。
少しだけ、息がしやすくなる。
「こちらへ」
案内された先には、小さな離れがあった。
「薬師様の工房でございます」
ツェリが扉を叩く。
「ローグ様、いらっしゃいますか?」
「おるぞ」
中から声が返る。
現れたのは、白い耳を持つ老人だった。
「ほう……その子が例の」
じっと見られ、思わず身がこわばる。
「怯えるでない」
くつくつと笑う。
「わしは食わん」
「……」
言葉が出ない。
「退屈しておるのだろう?」
不意に言われる。
「……っ」
胸が小さく跳ねる。
「薬に興味はあるかの?」
「……え……?」
「手伝わせてやってもいいぞ」
にやりと笑う。
「どうせ暇じゃろう」
その言葉に――
胸の奥で、何かが動いた。
(……手伝い……)
さっき、断られた言葉。
それでも。
「……やりたい……です」
気づけば、そう答えていた。
ローグは満足そうに頷く。
「よし、決まりじゃな」
その一言に。
重かった胸が、少しだけ軽くなる。
(……できるかもしれない……)
誰かに言われたからじゃない。
自分でそう思えたのは――
初めてだった。
第4話をお読みいただきありがとうございます。
フィラの「役に立ちたい」という気持ちは、過去の生き方から来るものでもあり、同時に彼女自身が初めて選んだ一歩でもあります。
ですが、その想いはオズワルドにはうまく伝わらず、すれ違ってしまいました。
一方で、ラースやラルフの言葉から見えるように、オズワルドもまた不器用ながらフィラを大切に思っています。
言葉にできない分、どう向き合っていくのかも今後の見どころです。
そして、新しく出会ったローグ。
フィラにとっての「もう一つの居場所」が、ここから少しずつ広がっていきます。
次回は、その小さな一歩がさらに大きく動き出します。
引き続き見守っていただけると嬉しいです。




