表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/20

「呪いと愛の狭間で」

いつも読んでいただきありがとうございます。


今回はオズワルドの過去や、フィラとの関係に深く関わるお話になります。

これまであまり語られてこなかった想いや事情が明かされる回です。


少し重たい内容もありますが、その中でのフィラの優しさや、二人の絆を感じていただけたら嬉しいです。


それでは、第19話です。

ある日――


フィラはオズワルドの執務室へと呼ばれた。



扉を開けると、そこにはいつもの面々――

ラース、ラルフ、そしてオズワルドの姿がある。



「父さま?」


首を傾げるフィラに、ラルフが一歩進み出た。



「フィラ様、こちらを」


差し出されたのは、一通の招待状。



重厚な紙に刻まれた紋章は――

魔族の皇宮のものだった。



「……ぶとうかい?」


たどたどしく文字を追いながら呟くフィラ。



「魔族の皇宮で行われる舞踏会への招待状だ」


オズワルドが淡々と告げる。



「本来であれば、まだ社交デビューもしていない幼い貴族が呼ばれることはない」



「だが――今回は違う」


わずかに、声が低くなる。



「皇帝からの“指名”だ」



フィラは、きょとんと目を瞬かせた。


(父様が行けって言うなら……行くのに……)


しかし。


目の前のオズワルドは、明らかに乗り気ではない。


むしろ――



「……嫌、なのですか?」


恐る恐る尋ねる。



その問いに、オズワルドは一瞬だけ言葉を詰まらせた。


やがて、深く息を吐く。



「……ああ。嫌だな」


はっきりとした拒絶。



フィラは少し驚いたように目を見開く。



そんな娘の様子に、オズワルドは再びため息をつく。



「……お前には、きちんと話しておく」


静かに、そう告げた。



「……皇帝は、酷く強欲な男だ」


オズワルドの声は低く、冷たい。



「力あるものを嫌い、同時にそれを利用しようとする」



「英雄の血を引く我が一族も……例外ではなかった」


フィラは、黙って耳を傾ける。



「だからあの男は、俺たちに呪いをかけた」



「力を削ぎ、未来を縛るために」


その言葉に、フィラの指がぎゅっと握られる。



「……その呪いで、俺の両親は死んだ」


息が止まる。



「父は……皇帝の呪いに侵され――」



一瞬、言葉を切る。



「……最も愛していた母を、自らの手で殺した」


フィラの瞳が、大きく揺れる。



「……そして」



「俺までも殺そうとして――」



「……自害した」



部屋が、静まり返る。



フィラの呼吸が、わずかに乱れる。



「……俺も、同じだった」


オズワルドは、自嘲するように目を伏せた。



「呪いに苦しみながら……感情を削って生きてきた」


「父と同じにならぬように」


「……誰も愛さないと決めてな」



だが――


ゆっくりと、フィラを見る。


「……お前が現れた」


「怯えながらも……必死に生きようとするお前を見て」


「……愛しいと思ってしまった」


フィラの瞳に、涙が浮かぶ。



「……あの時」


オズワルドの声が、わずかに震えた。



「呪いが最も強く出たあの時……」



「……このままでは、父と同じになると思った」



そして――


「……お前を、殺すところだった」


静かに落とされたその言葉が。



重く、空気に沈んだ。

オズワルドは――フィラの顔を見ることができなかった。



愛すれば、愛するほど。


胸の奥から湧き上がる衝動。



――殺さなければならない。



そんな狂気じみた感情が、確かに自分の中に存在していた。



それを抑え込むためには。


皇帝の命に、従うしかなかった。



あの男は、英雄の血を、力を欲している。



だからこそ。


幾度となく、自らの娘との婚姻を持ちかけてきた。


血を取り込み、支配するために。



だがオズワルドは――


呪いを理由に、それを拒み続けてきた。



(……もし、受けていれば)



フィラに会うことはなかったかもしれない。



(……俺は)


俯いたまま、拳を握る。



(……いつかこの子を、殺すかもしれない)


その事実が、何よりも恐ろしかった。



――だから。


怖がられるだろうと、思った。


こんな父を。



だが、その時。


そっと。


大きな手に、小さな温もりが触れた。



「……父さま」



顔を上げる。


すぐ傍まで来ていたフィラが、心配そうに見上げていた。


小さな手で、オズワルドの手に触れる。



「今は……苦しくないですか?」


不安そうに、けれど真っ直ぐに。



「……フィラは、父さまを救えていますか?」



その言葉に。


胸の奥が、熱くなる。


涙は流れない。



だが――


確かに、何かが溢れそうになる。



「……ああ」


優しく、その頭を撫でる。



そして――


そっと抱き上げ、自分の膝の上に座らせた。



「……あの日の光」


「優しくて、暖かな……あの光」


「……あれ以来だ」


「お前をどれだけ愛しても……苦しみは、なくなった」



呪いが解けたわけではない。


確かに、まだそこにある。


だが――


フィラが傍にいるだけで。


それは、静かに抑えられている。



(……もし、完全に解ければ)


皇帝は気付くだろう。



そして――


完全にオズワルドを脅威と見做し、どんな手を使ってでも、滅しに来るだろう。



「……良かった」


ふわりと、抱きつかれる。


満面の笑顔で。


「父さまが苦しくないなら……フィラ、うれしいです」



その小さな身体を、強く抱きしめる。


(……ああ)


愛しい。


何よりも。



「……だが」


静かに、言葉を続ける。


「呪いが効かぬと知れれば……あの男がどんな手に出るか分からん」


「だから――」



フィラの瞳を、まっすぐに見つめる。


「対抗する準備が整うまでは……従っているふりをしておく必要がある」



ほんの少しだけ、表情を和らげる。


「……一緒に、舞踏会へ行ってくれるか?」



そして――


「お前は、必ず父様が守るから」


低く、しかし確かな声音で告げた。



フィラは――迷いなく頷いた。


「はい。一緒に行きます」


その答えに、一切の躊躇はなかった。



胸の奥に、わずかな恐怖はある。


だがそれ以上に――


オズワルドへの、揺るぎない信頼があった。



(父様がいるなら……大丈夫)



それに。


そんな恐ろしい皇帝のもとへ向かうのなら――


自分が一緒にいた方がいい。



(フィラがいれば……父様は苦しくならない)


そう思えた。



優しく抱きしめられる腕の中。


フィラは、心から安らぎを感じていた。



その時――


パチン、と乾いた音が室内に響いた。



「それでは」


ラースが手を打ち、穏やかに口を開く。


「フィラ様の舞踏会用のドレスを注文せねばなりませんね」



その一言で。


重く張り詰めていた空気が、ふっと緩んだ。



「姫様の瞳の色に合わせて、空色のドレスなどいかがでしょう」


ラルフが微笑みながら提案する。



すると。


扉の外で控えていたツェリが、勢いよく入ってきた。



「いいえ!」


ぴしり、と言い切る。


「閣下の紅い瞳の色に合わせたドレスの方が、フィラ様にはお似合いになります!」



「それは確かに一理ありますが……」



「ですがフィラ様の可憐さを引き立てるなら――」



にわかに、執務室が賑やかになる。



ラースは静かに微笑みながらそれを見守り、


ラルフは真剣に色合いを考え、


ツェリは熱弁を振るう。



その様子に。


フィラは、くすりと笑った。



そして――


隣にいるオズワルドを見上げる。



目が合う。


ほんのわずかに、彼の表情が緩む。



二人は、顔を見合わせて笑った。



迫りくる不穏な気配の中で。



それでも確かに――


この場所には、温かな時間が流れていた。

第19話を読んでいただきありがとうございました。


今回はオズワルドの過去や呪いについて描きつつ、フィラとの関係がより深まる回となりました。

重い話ではありましたが、その分二人の絆や信頼がしっかり伝わっていれば嬉しいです。


そしていよいよ舞踏会編に入っていきます。

穏やかな日常とはまた違った緊張感のある展開になりますので、楽しんでいただけたらと思います。


引き続き見守っていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ